第2話 本物の試作品
ネガリアンを退治した後、ユウキは上の階に戻った。
機械は恐らく、解析をするためのものだ。
点滴は昏睡状態を作るものと、栄養剤だろう。
「瑠璃さん。これ、全部抜いて良いんですよね?」
『バッチグー』
「分かる言葉で話してくれたら、助かるぜ」
ユウキは寝ている弓穂に、手を伸ばそうとした。
背後の気配に気づき、伸ばした手を剣に添える。
「彼女に触れることは、許さない」
男性の少し高い声色が聞こえてくる。
声だけだと若いイメージだ。
「へえ。モテる女性は、引っ張りだこだね」
「恋愛感情で、繋ぎとめている訳ではない」
「冗談に決まってんだろ。つまんないって良く言われない?」
ユウキは素早く振り返り、背後から迫った剣を弾いた。
相手の姿が見える。黒いコートに身を包んだ白髪の少年だ。
歳は自分と同じくらいに見える。小柄な体型で、スリムな体付きだ。
「お前は喋れば喋るほど、ムカつくと言われてそうだな」
「初対面で理解してくれるとは、嬉しいよ!」
ユウキは再びフェンスを乗り越えて、ステージの方へ。
謎の少年も追いかけて、華麗な着地を決める。
弓穂は重要人物らしいので、傷つけることはないと思うが。
戦いの激しさで巻き込みかねない。
相手の強さが分からないうちは、余裕なのは態度だけにする。
「親しみを込めて、名前を教えてくれると嬉しいな」
「そんなものはない。強いて言うなら、プロトタイプ一号だ」
「味気ない名前。なら今つけてやるよ」
ユウキが挑発すると、少年はすぐさま剣で突き刺しを行う。
「ノワールネロブラックシュバルツダークって言うのはどう?」
「全部黒って意味じゃないか。車三つで轟きくらい、かけたらどうだ?」
「確かに黒が五つ集まっても、黒になるだけか」
ユウキは突き刺し攻撃を、側転で回避。
重たい一撃だ。恐らく防ぎきれなかっただろう。
「じゃあ普通に、クロで良いだろう?」
「良いだろう。渡り鳥が蝶になるより、マシな名前だ」
「お前、何言ってんだ?」
クロは即座に剣を組み替えて、ユウキに追撃を行う。
速度はユウキが勝っているが、パワーは向こうが上だ。
正面から戦っては負ける。ユウキはローラースケートで、周囲を滑った。
「さっきプロトタイプって言ったけど。なんの?」
「完全生命体プロジェクト。その第一号として僕は作られた」
「まぁた完全生命体か。芸がないのか、ネタがないのか」
ユウキは走りながら、クロを観察した。
不自然に左手を隠している。コートのポケットに入れたままだ。
その姿勢のまま、ユウキに追いつこうと走って来る。
「僕の知っている完全生命体は、化け物みたいな見た目だったけど?」
「アレは傾達が、名前だけ聞いて目的を知らなかっただけだ」
クロの漆黒の剣が、青い光を纏った。
嫌な気配を感じたユウキは、テレポートの準備をする。
「完全生命体は完璧な生命を作ることが、目的じゃない」
光を纏った剣をクロが降ると、斬撃の軌道に沿った光線が飛ぶ。
サメのヒレの様に、地面を削りながらユウキに接近する。
どうやらチャージ一回につき、一度しか撃てないわけではないようだ。
クロは更に二発の斬撃波を放ち、ユウキを追い詰める。
十分引き付けたところで、ユウキは体を転移。
クロの背後に移動して、空中で蹴りを行う。
「リアクターの完全なる制御。それが僕達の作られた意味だ」
ユウキの蹴りを、クロは剣で防いだ。
それがユウキの狙いだ。今なら剣で攻撃できる。
当然対応するなら左腕のはず。
ユウキは腕の秘密を探るため、敢えて蹴りを防がせた。
彼の真意を読み取ってか、クロがフッと笑う。
「そんなに左腕が気になるか? なら見せてやろう!」
クロはポケットから、左腕を出した。
黒い手。血管が赤く光っている。
爪も鋭く、右手に比べて太い。まるで悪魔の手のようだ。
ユウキの剣は、左腕に掴まれた。
左腕のパワーも強い。掴まれた剣が微動だにしない。
「僕の左腕は、"死の左腕"と呼ばれている」
「鎌もドクロもねえけど?」
「その減らず口、減らしてみせよう、ホトトギス!」
クロの左手が赤く光り始めた。
同じようにユウキの剣も、光を帯び始める。
剣から腕へ、光が吸われるように向かっていく。
「この腕はあらゆるエネルギーを奪う。無機物であろうとな!」
ユウキの剣が、腕力でへし折られた。
呆気にとれれている間に、左腕のストレートが炸裂。
ユウキは壁に叩きつけられた。
「痛ぇ! 思入れある剣だったんだぞ!」
「ならその思い入れと、一緒にくたばらせてやろう」
クロは左腕を前に突き出した。
すると巨大な赤く光る手が出現する。
手はユウキを壁に押し付け、身動きを封じた。
「戦う相手を間違えたな。自分の運命を呪え!」
クロは折られた剣の刃先を、ユウキに投げつけた。
身動きを封じられたユウキは、なすすべもなく。
胴体を刃に貫かれる。彼は吐血しながら、顔を伏せた。
「偽物の完全を倒した英雄も。本物の前ではこの程度か……」
赤い手が消滅して、ユウキは地面に倒れた。
懐に仕舞っていた、リアクターが床に転がる。
「ほう。一つはお前が持っていたのか。探す手間が省けた」
ユウキが気絶したと思ったのか、クロは剣を収めた。
血を流して倒れるユウキに、ゆっくり近づく。
「君には過ぎたものだ。これは僕がもらっておく」
クロがリアクターに手を伸ばすと。
リアクターは強い光を発した。
光はある場所に、吸収されるかのような動きで向かう。
「なに!? まさか……!」
「正解。お前が刺したのは、分身だ」
倒れたユウキが姿を消して、クロの背後から本体が現れる。
クロが振り向いた時には、既に遅かった。
ユウキの右ストレートが炸裂し、顔面を殴られる。
ユウキの手は青く光っていた。リアクターの光と同じ。
クロは青い拳に押されて、壁に叩きつけられた。
「バカな!? リアクターと完全同調しているだと!」
クロは頬を押さえながら、立ち上がった。
ユウキはリアクターからエネルギーを拳に受け取った。
その全てを爆発させて、クロを攻撃したのだ。
「僕達、完全生命体の因子がなければ、完全同調は不可能なはず……」
「一応聞いておくけど、その因子って遺伝すんの?」
「あん? ああ。百パーセント遺伝らしいが……」
そこでクロは何かに気づいたかのように、ハッとした。
「お前まさか!?」
「どうやらその因子。僕の体内にもあるみたいだぜ」
ユウキは念力で、リアクターを拾った。
リアクターを握りしめて、全身に青い光を纏う。
「どうする? 第二ラウンド始めるか? 剣がある分、利があるぜ」
「上等だ。僕が左腕だけの男じゃないって、教えてやるぜ!」
二人が再び向かい合っていると、ビルが大きく揺れた。
火災警報器が鳴り、周囲の温度が上がる。
「熱くなり過ぎたか……。時間切れのようだぜ」
「君の熱で、気温が上がったの?」
「そうだと言いたいが、残念ながら違う」
クロは高くジャンプして、上の階に向かった。
丁度弓穂が寝ている場所に、彼は向かう。
「勝負はお預けだ。死にたくなければ、お前もさっさと脱出するんだな」
「Watt?」
ジェット機のエンジン音の様なものが聞こえてきた。
下から見下げていると、弓穂が眠るベッドが浮いている。
「この少女は四十年前に作られた、最後のプロトタイプだ。ご褒美に教えてやるよ」
クロは左腕の力で壁を粉砕する。
ベッドにしがみ付きながら、ビルから脱出した。
「そんな便利なものあるなら、最初から使えよ……」
ユウキは呆れながら、上の階に登った。
彼らが作った穴から、自分も脱出しようとする。
だが外の風景を見て、彼は思わず足が止まった。
『ユウキ君! 直ぐにその街から離れて!』
「な、なんだ!? この街で何が起きたんだ……?」
ユウキの目の前に広がる光景。
それは炎で包まれた、廃墟化した街並みだった。




