第1話 再戦、ネガリアン
「護衛任務って聞いたんだけどな」
ユウキは無線を耳に装備して、ビルを眺めた。
ゼットとの騒動で無事だったビル。
もっとも街全体が被害を受けたので、会社は撤退している。
オフィスの面影を残しながら、無人ビル化していた。
ユウキは瑠璃の指示に従い、ビルへ潜入を試みる。
『ビルに閉じ込められた子の、身を守る。護衛でしょ?』
「瑠璃さん。それは救出と言うんです。まあどっちでも良いけど」
ユウキは剣を構えて、ビルに近づいた。
騒動の後、ネガリアンが身を隠したのがこのビルだ。
無人になったのを良い事に、内部を改造。
一時的な拠点にして、次の作戦を準備しているそうだ。
その一環として、弓穂と言う少女を攫ったらしい。
瑠璃には理由が分かったらしいが、信用できるまで教えないとの事だ。
『計画に弓穂は必要だから。人質に取られる心配はなし。ドカンと行っちゃって!』
「ええ。こっちも隠密行動は苦手だから、助かりますよ」
ユウキはローラースケートで、ビルに向かった。
近づくなり、西洋の鎧の様なロボットが立ちふさがる。
「企業の私有地につき、立ち入り禁止である。直ぐに引き返す様に」
ロボットは合成音声で、警告を促した。
ユウキは無視して、全身を始める。
鎧ロボは剣や銃を構えて、ユウキに向ける。
「もう一度警告する! ここは……」
「悪いけど、不法侵入は慣れてんだ!」
ユウキは念力でブーストを行う。
加速してロボットに近づき、銃の発射前に至近距離へ。
剣を縦に振って、ロボットを真っ二つにした。
「こんなくず鉄で、僕が止められるとでも?」
「警告! 侵入者! 排除する!」
「排除? 処分の間違いだろ!」
ユウキは二体目のロボットへ、掌を向けた。
念力波を飛ばして、ロボを吹き飛ばす。
背後に垂れたロボは、衝撃で砕け散った。
最後のロボットが、剣で攻撃してきた。
ユウキは軽く剣を振って、攻撃を弾く。
敵が後ずさりをした隙に、素早く剣を振る。
四肢を切り裂き、ロボットの行動を停止させる。
ユウキは倒れたロボットを、念力で掴んだ。
そのままビルに投げ飛ばして、壁を破壊する。
「ドカンっと行っちゃって良いらしいのでね!派手に行かせてもらうぜ!」
『やっちゃえ~! 弓穂はビルの天辺に居るよ!』
ハッキングで位置を特定した瑠璃。
解析を信じて、ユウキは速度を上げて滑った。
ビルを垂直で駆けあがり、一気に屋上へと向かう。
『ひゅ~! クールだね!』
「どうも。にしても、閉じ込めているって聞いたから、地下室かと思ったよ」
『このビルに地下室はないの』
シンプルかつ、ネガリアンらしい答えだとユウキは思った。
あっという間にビルを駆けあがり、屋上に辿り着く。
見張りはおらず、ユウキは階段のドアを蹴り飛ばした。
「相変らず、セキュリティーが甘い男だ」
ユウキは階段を駆け下りて、下の階に向かった。
『そこを左! 右! 真っすぐ! その先の扉!』
瑠璃のナビに従い、ユウキは階層を突き進んだ。
指示された扉を開けようとするが、当然鍵が閉まっている。
ユウキは念力を使って、ドアを潰した。
「鍵要らないんだよね。僕、顔パスだから」
変形したドアはロックが機能せず、あっさりと開く。
ユウキは扉を背後に投げつけて、部屋に入った。
「Hey! 助けに……」
ユウキはてっきり、閉じ込められているのだと思った。
だが扉の向こうの光景は、予想外のものだ。
彼女は点滴を去れながら、ベッドで横たわっている。
ヘッドギアを装着され、手足に機械を装備されている。
意識はなさそうだが、命に別状はなさそうだ。
「おっと。病院と間違えちゃったか?」
「間違えておらんぞ! ワシの特等席へようこそ!」
聞き馴染みのある声が、鼓膜を揺らしてユウキは溜息を吐く。
声と共にミラーボールが出現して、辺りをディスコ化する。
周囲を囲っていた壁が外れて、代わりにフェンスが出来る。
壁で仕切られたオフィスビルが、一つの部屋に変わる。
更に一部の床が沈み、同じく一部屋になった下の階と繋がる。
吹き抜けの様な形になり、下位にはステージの様なものが。
「ニャハハ! 見たか、ユウキよ! 我が特別ステージを!」
「ヘイ、ネガリアン。こんな無駄なシステム作るなら、寄付しろよ」
「貴様! ワシの演出にダメだししたばかりか、スピーチを拒否る気か!」
ユウキはフェンスを乗り越えて、ステージへ下りた。
ネガリアンと向かい合い、剣を向ける。
「一週間で再起するとは、流石は天才。人類を絶滅させるより、しぶとそうだ」
「天才とは、いくつものプランを用意しておくものじゃ! 参ったか!」
「ああ。参った。参りついでに、次のプランを教えてくれよ」
ユウキに煽てられたネガリアンは、調子に乗った。
ステージ中央に立ち、胸を張ってポーズを取る。
「勿論、世界征服じゃ!」
「はぁ……。聞いた僕がバカだったぜ」
「貴様に見つかったのは想定外じゃが! 想定を超えてこそ、天才というものよ!」
ユウキは会話に付き合ってられなくなった。
さっさと蹴りをつけて、弓穂を解放しようとする。
「おっと! 慌てる出ない! ワシは貴様に復讐するため、新型を用意したのだから!」
「へえ。見張りより、まともな鉄だと良いけど」
「いでよ! ネガケルベロス!」
ネガリアンが高らかに宣言した。
シーンっという擬音が聞こえる、静寂が訪れる。
「レンツ! 何をしておる! 早く出さんか!」
「あ~。このままでは、主様に……」
「良いから早くせい!」
「分かりました。衝撃に備えてください」
天井から黒い犬型ロボットが、振ってきた。
赤い瞳を光らせて、ユウキの二倍はある大きさで遠吠えを上げる。
「痛った! こらぁ! レンツ! また踏んどるぞ!」
「忠告を無視するものですから、失敬」
ネガリアンは犬型ロボットに、踏みつぶされていた。
戦艦から落ちても死なない男だ。
あの程度では、痛いで済むだろう。
「へえ、可愛いワンちゃんじゃないか。商品化すれば、売れるかもよ」
「ワシの威圧を込めたデザインに、何って言うんじゃ! もう我慢できん!」
「さっきから我慢なんてしてないくせに、何言ってんだ?」
ユウキの軽口で、堪忍袋が切れたそうだ。
ネガリアンはヘルメットを真っ赤にしていうr。
「ネガケルベロス! やってしまえ!」
ネガリアンの指示に沿って、ネガケルベロスは動く。
ネガリアンを蹴り飛ばしながら、前進を始める。
ユウキに向かって、突進を繰り出した。
「悪いが僕は猫派でね! ほら! ボールだぜ!」
ユウキは転がってきたネガリアンをキャッチ。
そのままネガケルベロスとは、反対方向に投げる。
「誰がボールじゃ! 大体、犬じゃないんだから……」
ネガケルベロスは進行方向を変えた。
真っすぐネガリアンに向かい、口を広げる。
「あ~。そいつには早く飛ぶものに、反応するセンサがありまして」
「誰じゃ! そんな余計なもの付けおったのは!?」
「下請け業者を間違えましたね。おもちゃメーカーだったもので」
ネガケルベロスは、ネガリアンを銜えた。
ユウキは即座にテレポート。ロボ犬の側面に転移した。
「悪いな、ネガリアン。今日は仕事なんだ。お遊びはNothing!」
ユウキはネガケルベロスを、蹴り飛ばした。
ネガリアンを持ったまま、ケルベロスはビルの壁を貫通する。
「しまったぁ! 外壁強度はそのままじゃったぁ!」
ネガリアンはロボと一緒に、地面に落下した。
ユウキは手を叩いて、開いた穴から見下げる。
「もっとマシなおもちゃを作ったら、また遊んでやるぜ」




