第1話 動き出す陰謀
「おのれ! いい気になるなよ! ワシはまだ敗れておらんわ!」
吹き飛ばされたネガリアンは、街中に辿り着いた。
暴走したワイが落とした、リアクターを回収したのだ。
落下地点の予測は出来た。夜中だったため、誰にも拾われずに済んだようだ。
「このリアクターで、再起を……」
リアクターを握ったネガリアンだったが。
突如背後から誰に、殴られた。
ヘルメット越しにもダメージが入り、その場で倒れる。
「貴方と傾の役目は、もう終わりました」
脳にダメージが入り、ネガリアンは立ち上がれない。
せめて襲撃者の顔を見ようと、首だけ動かす。
「お久しぶりですね。まあ、君はまだ五歳だったから、覚えていないかもだけど」
「その顔を忘れるものか……。貴様は……」
ネガリアンが落としたリアクターを、その人物は回収した。
彼を見下す様に、冷たい眼差しで見ながら。
「さあ、あの時掴み損ねた、夢を叶える時だ!」
その人物はリアクターを高く掲げた。
リアクターが強く光る。
***
「隠し部屋の場所を聞いてから、凍らせれば良かったな」
ユウキ達四人は、傾の言葉通り下水道に来た。
ここに真実が隠されているらしいのだが。
肝心の隠し部屋が分からないと来た。
「まあ、過ぎた事だ。仕方ない」
「それ、自分で言うか?」
ユウキは開き直る親友に、呆れかえった。
下水道は迷路のようになっている。
逸れたら、合流するのも難しい。
壁をコンコンっと叩きながら、彼らは隠し部屋を探す。
空洞らしき空間は、一切見つからない。
彼らが困り果てていると、天井から何かが振って来る。
「……」
白い体、六本の腕、緑の目。
一切言葉を発しないその生物は、エックス。
彼は口の代わりに手を動かす。
「Hey! エックス。案内してくれるのか?」
ユウキの問いかけに、エックスは無言で頷いた。
「そいつは助かる。案内人が頼りなかったもんでな」
「悪かったな! 地図のない案内人で!」
「誰も言ってねえよ」
ユウキ達はエックスの後を追いかけた。
一切の迷いなく、迷路を進んでいく。
ある場所で立ち止まり。床に手を付けて引っ張った。
「横じゃなく、下にあったのか」
エックスが開いた穴の中を、ユウキ達は覗き込む。
下水道の更に地下に、秘密の空間が存在した。
高さはそんなにない。彼らは躊躇なく飛び降りて、先の部屋に向かった。
奥にあった部屋には、大きなモニターがある。
キーボードがあることから、パソコンなのだろう。
「ネットに繋がる場所とは思えないな」
「寧ろそれが目的なのかもよ。誰にも情報が洩れる事がないから」
蒼がキーボードを叩き始めた。
機械弄りの得意な彼女なら、直ぐに操作方法が分かるだろう。
少し手を動かしただけで、画面に映像が映し出される。
「蒼、なんかしたの?」
「いや。起動ボタンを押しただけだよ」
モニターに映された映像は、過去の動画だ。
日付も書かれている。何十年も前の日付だ。
映像から監視カメラのものだと、判別できる。
動画が再生され、銃声や悲鳴が聞こえてくる。
どこの映像なのか。何が起きているのか分からない。
ただ窓から外の風景が見える。その先は宇宙だ。
『コロニーの制圧を完了した』
映像から声が聞こえる。古い映像なのに、画像が綺麗だ。
少し紋章が違うが間違いない。
銃を構えているのは軍の人間だ。
『君達は倫理に反する行為をした。これより処罰を決める』
『嘘だ! お前達は研究を奪い取るつもり……』
銃声が鳴り響き、声が途絶えた。
『許可なき発言は許さない。弁明もな』
画面外なので、安否は正確に分からない。
だがその冷徹さは、嫌でも伝わって来る。
『司令官! 冬木研究長が見つかりません!』
『なに? 馬鹿者共が! 隅から隅まで、隠し通路も考慮して探せ!』
先ほど銃を撃った男が、この場の指揮者のようだ。
『なんとしても、完成体は手に入れなければならない』
男は再び白衣を着て正座させられた集団に、銃口を向けた。
『お前ら、完成体をどこに隠した?』
恐らく研究員と思わしき人物達は、無言を貫く。
『ではこうしよう。今から一人ずつ、指を一本ずつ撃って行こう』
「なんだ? この胸糞悪い映像は……」
吹雪は思わず、感想を洩らした。
見ているだけでも気分が悪くなる。
「完全生命体の研究が、凍結された時の映像だ」
ユウキが解説を加える。聞いたことがあった。
スペースコロニーで研究が進められていて、祖母がその主任だった事。
研究中の事故により、計画が凍結されとだけ報告された事を。
「何が事故だ。これはどう見ても……」
「ねえ。司令官の顔をアップできる?」
アリスが前に出て、画面に近づいた。
「出来ますけど。数十年も前だから……」
「お願いします」
アリスの言葉に従い、蒼は映像を止めた。
司令官の顔を大きく映し出す。
随分若い男性だ。ユウキもどこかで、見覚えがある。
「教官……。私にワイの討伐を依頼した人物です」
「でも姉ちゃん。あの人はこの映像の姿、まんまだよ」
「ユウ。その答えについて、私達は既にヒントを得ているでしょ?」
姉に言われて、ユウキは頭を動かした。
「クローン。それに人工生物への記憶移植か」
「ええ。恐らく教官は、雪道傾と同じ技術を持っている」
「もっと進んだものかもな」
傾が体の崩壊を覚悟で、刺し違えようとしたのだ。
それに彼の計画上、軍の施設襲撃は妙だと思っていた。
「親父を過激派に仕立て上げる事で、軍の力で始末させようとしたのか」
「回りくどいなぁ。自分は前線を離れて、カモフラージュもしているし」
映像の続きを見ようと、蒼が指を動かした瞬間。
ユウキ達のリアクターが、一斉に光出した。
「な、なんだ? 体が勝手に……」
「共鳴現象だよ! 誰かがリアクターを一カ所に集めようとしている!」
「Watt!? でもリアクターはここに四つと、戦艦に一つ……」
ユウキは一つ足りない事に、気が付いた。
リアクターは全部で六つのはずだ。
「ワイが持ったまま、市街地に落ちた奴が一つあります!」
「Really? なんで回収しなかったのさ!」
「そんな暇がなかったのです! 戦艦が落ちそうだったから!」
リアクターを持った四人が、一斉に引っ張られようとした。
これ以上は体が持ちこたえられない。
するとエックスが腕を器用に使い、四人からリアクターを回収した。
「エックス!」
彼が代わりとなって、リアクタ―の共鳴現象を受け止める。
残った手の一つを開いた。
そこには赤いカチューシャが握られている。
「頼んだぜ……」
エックスは頷き、そのまま壁を突き抜ける。
「おい! 行かせて良いのかよ!?」
「怒鳴るな、吹雪。手がないわけじゃない」
アリスは懐から、レーダーを取り出した。
ある発信機を特定するもので、何度も助けられたものだ。
「ねえ、映像が続くけど……」
「後にしろ、蒼。今はリアクターへ……」
それと同時に映像で、何発もの銃声が響いた。
『喋らぬか。まあ良い。お前達はどっちにしろ、殺される側だ』
司令官は冷酷な、人の心を感じさせない言葉遣いで言った。
『十億の優れた才能を守るため、お前達七十億は死んでもらうぞ』
走りかけたユウキも、動作を止めるほどの衝撃だった。
現在世界中の人工は、約八十億人。
「おいおい! 選民思考しにても、偏り過ぎだろ!」
吹雪が思わず、怒りと恐怖が混じった叫びをあげる。
「ユウ、こいつのこの計画。本気だと思う?」
アリスの問いかけに、ユウキはただ一言返した。
「Of course……」




