第1話 少女のとの出会い
時間と予算的要因で、今回は挿絵を用意できませんでした。
すいません。代わりに吹雪には別の場所にと思っています、
「女の事遊ぶのだけが、デートじゃないぜ。See you!」
そう言って立ち去る親友を、吹雪はフッと笑った。
今日が何の日か知っている。
知っていて、敢えて意地悪な誘いをしてみたのだ。
今日は彼にとって、大事な日だ。
姉の誕生日。いつもプレゼントに悩んでいたのを知っている。
親友としてアドバイスをしたこともある。
「家族か……」
雪道吹雪にとって、それは呪いの言葉だ。
自分は両親に一ミリも愛されていない。
自分よりずっと優秀な姉と比べられてきた。
完璧な姉にとって、唯一の汚点が出来の悪い弟。
そう考えるものから、接触を図られた事もある。
「ユウキ。俺は今の誘い、乗りそうだよ」
家族より友人と居る方がずっと楽しい。
自分と家族の間にあるものは、憎しみだけだ。
「お前が羨ましいよ。ユウキ」
吹雪は考える。仲が良い家族とは何かと。
ユウキは家族中が良好で、コンプレックスさえも乗り越えた。
そんな彼とは親友だと思っているが。
同時に彼の放つ光は、自分には眩すぎるように感じた。
家に帰っても重苦しいだけだ。
吹雪は夜まで時間を潰すため、町をぶらぶら歩くことにした。
向かう場所は、通い慣れた喫茶店だ。
いつもここで、忙しく走り回る営業マンを見つめている。
「俺、何やっているんだろうな……」
吹雪の進路は既に決まっている。
姉には劣るが、彼も優秀な方だ。
でもいくら優秀でも、一番でなければ意味がない。
父からそう教わった。厳しすぎるほどの父から。
正直言うと、吹雪は両親と仲が悪い。
彼らの言う守るための力が、何一つ理解できない。
「うわぁ!」
色々考え事していると、吹雪は向かい側の人物とぶつかった。
走ってきたらしく、お互い尻もちをつく。
意識が現実に帰ってきたところで、相手を確認する。
少女だ。ピンクのパーカーで、フードを被っている。
茶色い短パン、隠れきれずに出ている黒髪。
彼女は赤い瞳で、申し訳なさそうに吹雪を見つめた。
「ご、ごめんなさい! 急いでいたもので……」
「いや。ボーっとしていた俺も悪い」
不覚だった。普段なら、角から出ても避けられる自信があるのに。
町中を考え事しながら、歩くのは危険だと再認識した。
「ヤバ! 失礼しました! 私はこれで!」
「ああ。前方注意でな」
吹雪は走り去る少女を、気にも留めない。
自身もさっさと立ち上がり、目的地に辿り着こうとする。
そこへ再び駆け足の音が聞こえてきた。
今度は注意していたので、当たる直前に避けた。
現れたのは私服の成人男性二人だ。
サングラスをしている。出来る男だと吹雪は思った。
「見失ったか……。そこの少年、少し良いか?」
「手短な用なら……。あ」
吹雪は男性達に見覚えがった。
自宅で何度か会っている。父の部下達だ。
会話したことはないが、一方的な思想を聞かされたことがある。
向こうも自分の正体に気づいたようだ。
先ほどの他人行儀から、急に姿勢を伸ばしている。
「失礼しました、吹雪殿。貴方とは気づかず」
「父は父で、自分は自分です。別に自分が偉いわけじゃありません」
吹雪は心の奥底で、舌打ちした。
どうにも父を通して見られるのが、ムカつく。
「ピンクのパーカーを来た少女が、ここを通りましたよね? どちらに行ったか、ご存じで?」
「すいません。通行人にまで、注意が行かなくて」
「そりゃそうですよね。こちらこそ、失礼しました」
吹雪は頭の片隅で、さっき通った少女の事を思い出す。
だが転んでいたので、どっちに行ったかまで定かでない。
「では我々はこれで。回り道をせずに帰る様に」
「分かりましたよ」
父親の部下に見つかった以上、ぶらぶらする訳にもいかない。
黒服の男性達が去ったのを確認すると、吹雪は伸びをした。
「しょうがねえ。一仕事してから帰るか……」
吹雪がわざとらしく、口にすると。
背後に素早く回り込む、気配を感じた。
「騒がないで。着いてきて欲しい」
声で分かる。先ほどの少女だ。
近場に隠れて、男性達をやり過ごしたらしい。
「物騒な近づき方士なくても、着いて行くよ」
「吹雪と呼ばれていたね。雪道傾の息子と同じ名前……」
「そりゃそうだ。だって本人だし」
吹雪は背中に突きつけられた手を、素早く掴んだ。
相手が呆気に取られている隙に、体を反転。
相手のこめかみにチョップ。それを寸止めした。
「不意打ちするにも、相手は選んだ方が良いぞ」
「くっ……!」
吹雪は少女を解放した。
少女は意外に思ったのか、目を開いている。
「アイツらに追われているなら、悪い奴じゃなさそうだ」
「アイツらの仲間じゃないの……?」
「敵ではないが、味方でもない。そんなところだ」
吹雪の主張を理解してか、少女は敵意を引っ込めた。
彼女が父の部下に追われている理由なんて、どうでも良かった。
父親の仕事の邪魔が出来れば、それで良い。
「連中の敵なら、力を貸しても良い。必要ならな」
「え? じゃあ早速力を貸してくれる」
「少しは疑えよ。まあ本気だから良いけど」
吹雪は少女の純粋さに、危うさを感じた。
もし全て芝居で、父の傘下だったらどうするつもりだったのか。
「来て! もうすぐデモンストレーションが始まるの!」
「何のかは、お楽しみにしておくよ」
急に駆け出した少女を、吹雪は追いかけた。
ただの父親への反抗心からだった。
自分を一人の人間として認めて欲しいと言う。
だから少女が何者かまで、興味がない。
良いも悪いも関係ない。ただ父へ嫌がらせがしたいだけ。
「あ、そうそう! 私は美央! 宜しくね!」
「名前とかどうでも良いよ。記号みたいなもんだろ」
「大事だよ! 呼び方に困るでしょ?」
別に困らないけどと、吹雪は心で呟く。
彼にとって自分の名前さえ、親から与えられた忌まわしきものだ。
早く自立して、親から離れたい。それが許されないのが学生だ。
「着いた! 急いで戦いの準備をして!」
「市役所じゃないか? マイナンバーと戦えば良いの?」
などと冗談を言ったが、周囲の異変にすぐ気が付く。
パトカーが止まり、サイレンが聞こえる。
市役所に何者かが居るというのは、明らかだ。
吹雪と美央が脇道から、こっそり市役所に入ると。
既に戦いが始まっていた。
「遅かった! 急いで助太刀しないと!」
「アイツは……」
二人の存在が、激闘を繰り広げている。
吹雪は片方に見覚えがあった。
冬木ユウキ。先ほど吹雪の誘いを断った、底抜けのお人好しだ。
「助太刀の必要はねえ。目立つことは避けろ」
状況から見て、ユウキが圧倒的優勢だ。
彼はまだ本気ではないし、大丈夫だろうと吹雪は読んでいた。
「でも、相手は完全生命体のプロトタイプだよ!」
「だったら、余計にアイツに任せろ」
急に出てきた単語にも、吹雪は即座に理解が回った。
完全生命体プロジェクトは、ユウキにとって因縁深い。
彼と親友である以上、絶対に聞くワードだ。
「ほら。もう終わりだ」
ユウキは謎の敵を追い詰めて、宥めている。
彼らしい行動だ。
「ダメ! 直ぐに離れて!」
美央は大声で叫んだ。そのおかげでユウキは、次の行動に対応出来た。
「追われている身だぞ。そんな大声だして、大丈夫か?」
「気づかれるけど、放っておけないよ!」
「人助けも結構だが、自分の身も考えろよ」
吹雪は氷のチェーンを作って、市役所屋上の手すりに引っ掛けた。
美央を掴んで、チェーンを巻き取る。
あっという間に屋上に到着した。
「少しは安全な場所になっただろ」
吹雪は戦いの決着を見届けなかった。
見なくても分かる。ユウキが負けるはずない。
「さてと。これからどうするかね?」




