クライマックス VSワイ~手品のタネ~
アリスとワイは互いに剣をぶつけ合う。
優れた遺伝子と言う者は、本当に厄介だ。
才能と言うものは、本当に存在する。
子は親のIQを超えられない。そんな研究も存在する。
目の前の敵は、全てにおいてアリスを上回っている。
剣がぶつかり合う度に、力の差を感じずにはいられない。
「私はお前の細胞を持っている。お前より優れた細胞を持っている!」
ワイは連続攻撃を、次々としてくる。
アリスは防戦一方だ。敵の攻撃に後出しで、受け流す。
条件は同じだというのに、まだ戦力差がある。
「全てにおいて、お前を上回っている! 私は必要に足りる存在だ!」
攻撃を防ぎながら、アリスはワイの瞳を見た。
その目は過去に、何度も見たことがある。
自分の方が優れている。そう言いながら、そんな顔をするものは。
劣等感を抱いている証拠だ。
なぜ、ワイが自分にそんな感情を抱くのか。
分かるような気がする。
「お前はなぜ、傾に協力するのですか?」
「それこそが私の生まれた意味だからだ!」
ワイは叫びながら、斬撃波を放った。
やはり自分と同じ能力を持っている。
アリスは咄嗟に姿勢を低くして、回避した。
「あのお方の目的を叶える事。そのために私は作られた!」
「だろうなと思いましたよ」
殆どの子供は、親に愛されたいものだ。
愛情を受ける最も簡単な方法が、優れている事を証明すること。
証明は自分と似た者を上回れば、視覚化できる。
だからワイはアリスに勝つことに、執着している。
自分と同じ姿の彼女を超える事。
それが傾に愛されるための、手段なのだろう。
「優れていない自分を愛さない親など、捨ててしまえば良い」
「なに!?」
「人は不平等。生まれた時点で、決められた差は埋められない」
アリスも斬撃波を放った。
彼女の放つ技は、ワイの同じ技に容易く砕かれる。
「劣っていると認める時。人は初めて、自分の手札を正確に把握できる」
僅かな攻防だけで、アリスは理解した。
真っ向勝負では、絶対に勝てない。
「人は限られた手札で戦うしかない。たとえ卑怯と罵られようともね」
正面戦闘で勝てないなら、戦略的に戦うのみ。
幸い敵は頭に血が上って、脳が回転していない。
リアクターの力を引き出し。共鳴現象を引き起こす。
「防戦一方だな! 説教なら、反撃してからするんだな!」
「説教じゃない」
アリスはずっと、ワイに勝つ方法を考えていた。
一つだけ、ワイとアリスに決定的に違う事がある。
ワイは体にリアクターを、取り込んでいるという事だ。
「ただの挑発です」
ワイの力が強くなり、速度が更に上がる。
思った通り、リアクターは使えば使うほど、出力を高める。
共鳴現象でアリスのリアクターも出力を上げている。
どれだけ出力を出しても、力の差は変わらない。
だからアリスは防御に徹することが出来る。
「ぐっ!」
高速移動を繰り返した、ワイの動きが止まった。
苦しそうに胸を、リアクターを押さえている。
「リアクターの出力に、耐えきれなかったようですね」
「貴様……! 最初からこれを……」
「言いましたよね? 卑怯と言われようと、限られた手札で戦うのだと」
アリスは更にリアクターの出力を高めた。
共鳴してワイのリアクターも、エネルギーを高める。
その力にワイの体が耐えきれない。
「どうやら今回のコインも、表が出たようで」
「まだだ……! まだ終わらない!」
ワイは痛みを我慢しながら、立ち上がった。
更に出力を上げた事で、体の崩壊が始まっている。
「貴様も道ずれにしてくれる!」
ワイはアリスに飛びついた。
膨大なエネルギーを一気に放出して、自爆する気だ。
リアクターの力が暴発すれば、アリスも無事では済まない。
だが彼女は一切動かなかった。
戦艦にいる間も、無線は開いている。
戦いの状況は常に、ストーンヘッドに知らせている。
「手品は始まる前から、仕込みをするもの」
ほんの一瞬だが、風を切り裂く音が聞こえた。
その直後、ワイに目掛けてミサイルが飛ぶ。
「無誘導でミサイルを直撃させるだと……」
「なるほど。エースと呼ばれるわけだ」
「バカな……。どうやって、私の居場所を特定したんだ!」
地面に着弾したミサイルが、爆風を発生させる。
ワイは風圧で投げ出され、戦艦の外へ。
「手品のタネはカチューシャです」
ワイが知る由もないが、彼女には発信機が取り付けられている。
ユウキが昼間に仕掛けたものが、まだ反応していた。
アルファ13が出撃前に彼に渡したのは、そのレーダーだ。
恐らく浮遊遺跡で狙撃した時も、同じ様にしたはず。
ファイター1の腕があれば、ロックオンをしなくてもミサイルを当てられる。
アリスとしては賭けだったが、上手くいったようだ。
「私は……。まだ!」
戦艦から落下していくワイ。
空中で大きな爆発が上がったのを、アリスは確認した。
幸いにもエネルギーの割に、規模は小さかった。
戦艦に損傷はない。任務は半分達成した。
後はこの戦艦を、安全圏に持って行けば良いだけだ。
「さてと」
アリスはゆっくりと、ネガリアンに近づいた。
「そんな、バカな! ワイが!」
「この戦艦の操縦権、渡してくれますよね?」
「ええい! 好きにせい! ワシはまだ負けたわけではないわ!」
ネガリアンの負け惜しみと同時に、戦艦が大きく揺れた。
アラーム音が聞こえて、館内放送が鳴る。
『緊急事態発生! 動力部の破損を確認!』
「なんとなく、こうなる気はしたんですよ……」
「どこの馬鹿垂れじゃ! 動力を破壊したのは!」
ネガリアンも慌てている。これは想定外らしい。
さて、どうしたものかとアリスが考えていると。
「アリスさん!」
二人の人物が、この場所に乱入してきた。
二人共かお馴染みだが、片方は名前を知らない。
「一足遅かったですね。こっちの蹴りは大体つきました」
「新しい問題が発生しているけどね」
まったくだと思いながら、アリスはユウキを冷ややかな目で睨む。
その後、アリスは蒼と名乗る少女の策に乗った。
謎のマシーンに乗り込み、戦艦の落下を食い止める。
彼女の背中を後押しした後、アリスは空を見上げた。
既に夜が明けかけている。
一日だけのアルファ隊所属は、終わりを告げた。
『こちらストーンヘッド。アリス、聞こえているか?』
「ええ。頭の堅そうないい声が。全て無事に終わりました」
『そうか。こちらからも報告がある。オメガは倒された』
オメガ。完全生命体の完成体。
既に完成していると思っていたが、どこの誰が倒したのやら。
アリスがふと、落下した戦艦に目をやると、一人の少年が見えた。
良く家に遊びに来た、男の子だ。
名前も知っている。なるほどと思った。
「完全生命体は滅びた。これで任務完了ですね?」
『いや、任務は無事に報告するまでが任務だ』
「了解。直ぐにそちらに向かいますよ」
アリスは無線を切った。ワイもオメガも倒された。
完全な生命体と言っても、無敵ではないと証明された。
研究は完全に凍結されるだろう。割に合わないからだ。
人は限られた手札で戦うしかない。
手札を知るには、自分の劣っている部分を認める事。
かつて父に言われた言葉を、アリスはずっと胸に刻んでいる。
「切り札は、こちらが協力だったようですね」
アリスは空を眺めなら、最大限の皮肉と憐みを口にした。
彼女は最初から、ワイより劣ることを自覚していた。
だから手札を把握でき、切り札を用意できた。
「能力は手札の一つに過ぎない。これも刻んでおきましょう」
夜明けの空を眺めながら、アリスは敬礼をした。
無口な戦友に。よく喋る先輩に。大勢の者達に敬意を込めて。
「手品は上手くいったよ。先輩」




