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ユウキサーガ ~ 悪を撃ち抜くCheckmate!~  作者: クレキュリオ
草月蒼編

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第1話 リアクター

今回は時系列順でなく、キャラの視点順に話が進みます。

最初は終始草月蒼の視点で進みます。

 失敗しても何度でもやり直せば良い。

 そんな言葉を古今東西、色んな場所で聞いてきた。

 そんなの綺麗ごとだと、彼女は考えていた。


 世の中失敗が許されない局面だってある。

 その場面で失敗すれば、全てを失う。

 やり直そうと思えないほど、強い挫折を味わう。


「……」


挿絵(By みてみん)


 草月蒼は部屋の隅で、布団にくるまっていた。

 冷蔵庫から取り出したパンと、水だけを手元に置いて。

 虚ろな瞳でニュースを見ていた。


 今日も学校に行かなかった。もうすぐ卒業だと言うのに……。

 義務教育なので、留年と言う事はないが、気が引ける。

 でも自分はもう、学校に行く気になれない。


『市役所に現れた怪物は、被害を広げることなく……』


 ニュースキャスターが、台本を読み上げる。

 外に出ない蒼にとって、ニュースは唯一世界を知る手段だ。

 外の事なんて、関係ない。そう思いながら、蒼が水に口をつけると……。


『なお、現場に現れた謎の少年について。警察は現在も情報を集めています』

「ブホォ! ゴホ!」


 市役所の監視カメラの映像を見て、蒼は吹き出した。

 画像が粗いので、顔は絶妙に隠されているが動きで分かる。

 良く知った少年が、映像で白い怪物と戦っていた。


 良くも悪くも学校で目立つ、クラスメート。

 小学校の頃から、いつも同じクラスだった冬木ユウキに違いない。


「なにやってんの……」


 ユウキが目立つ理由。それは後先考えず、首を突っ込むからだ。

 突いたあだ名がノープランバカ。蒼もその通りだと思っていた。

 友達と言えるほど、親しくないが、彼の事は良く知っている。


 正直、羨ましくもある。自分と同じ境遇で、楽しそうに生きる事に。

 彼は両親が伝説と言っても良い人だ。

 いくつもの危機から、何度も世界を守ってきた英雄。


 そんな人の息子として生まれても、彼はプレッシャーを感じない。

 自分とは違う。だから親近感を抱けない。


「チャンネル、変えよう……」


 地方ニュースでは、嫌でもユウキの話題が出るだろう。

 今はクラスメイトの顔すら、思い出したくない。

 リモコンを探していると、インターホンが鳴る。


 両親は多忙で、家を空けている。

 蒼が出るしかない。

 誰かと会うのは気が進まないが、無視する訳にも行かない。


「はーい……」


 元気のない声で、カメラ付きインターホンに話しかける。

 モニターに映された人物を見て、蒼は息を飲み込んだ。


『Hey! 重要なプリントを届けに来てやったぜ!』


 蒼はげんなりしながら、玄関に向かった。

 またかと言うのが、彼女の感想だ。

 彼は家が違いので、登校しなくなってから良く訪ねて来る。


「噂の英雄が、何の用?」


 蒼はそっけない態度で、尋ねてきた人物と接した。


「だからプリントを届けに来たんだよ」

「今は電子化しているし。貴方がそう尋ねるときはいつも、別件がある」


 訪ねてきたのは冬木ユウキ。噂のクラスメートだ。

 別に彼の事が嫌いではない。

 寧ろ恩義すら感じているが、なぜかそっけない態度になる。


「工房の鍵を貸して欲しい。確認したいことがあるんだ」


 蒼は溜息を吐いた。工房と言っても、家の車庫だ。

 どうせ誰も車に乗らないし、蒼が改造してある。

 機械弄りが好きな蒼が、最大限の整備をできるように。


「確認したい事ってなに?」

「それは工房に向かってから話すさ! 機密っぽいからね!」


 機密なら、まず話しちゃダメでしょと心の中で突っ込む。

 蒼は工房の鍵を持ってきて、開錠した。

 工房には高価なパソコンや、機械部品が広がっている。


 蒼が今、最も感心を抱いているのはカプセルに入った石だ。

 黄色い光を放っていて、宝石の様に見える。

 父親からこの石の解析を頼まれている。


「やっぱり……。見間違いじゃなかったな」


 ユウキは他のものに目もくれず、石をジッと見つめた。

 現在解析できているだけでも、この石は凄い。

 永久的にエネルギーを放ち、電気変換も簡単だ。


 蒼の予測では石は複数個あり、互いに同調し合う。

 同調した石は原子力をも超える、エネルギーになるだろう。


「パワーリアクターって呼ぶらしいぜ。全部で六つある」

「へえ。それは初耳だね。私も詳細は聞かされていないから」


 なぜユウキが名前も個数も知っているのか、追及しない。

 今回もまた、余計な事に首を突っ込んでいるのだろう。


「なあ、蒼。悪い奴、具体的にはこないだ暴れた怪物が、これを狙っているんだ」

「そう。私には関係ないね。あと名前で呼ばないで」

「ごめん。でもこれがここにあると、君が危険なんだ」


 怪物が石を狙っているなら、当然ここにも来るだろう。

 そうなれば、ずっと傍にいる蒼にも危害が加わる。


「だったらなに?」

「手放す気はない? まあ、安全な場所なんて、ないんだけどさ……」

「嫌。これは私が父から受けた、大事な依頼だから」


 失敗を取り返すことは出来ない。

 もう二度と失敗することも出来ない。

 父が与えてくれた依頼を、完璧にこなす。それが自分の義務だ。


「誰も君を恨んじゃいないさ」

「そうだね。唯一の負傷者が、ムカつかせてくれるんだから」


 二カ月前の事だ。学校である事件が起きた。

 蒼は爆弾の解除のため、解決に乗り出していた。

 機械には自信があった。だから失敗しないと思っていた。


 でも蒼は失敗した。あの距離で爆発したら、命はない。

 その時助けてくれたのが、目の前の少年だ。

 彼は重症を負って、最近退院した。


「私は両親の顔に、看板に泥を塗った。今度こそ失敗できない」

「そっか。そりゃあ、悪かったな。邪魔した」

「されても困るけど、説得しないんだね」


 ユウキは基本、相手の意見を尊重する。

 否定をあまりせず、柔軟に周囲の考えを取り入れる。

 だからこそ人を惹きつけるのだが、蒼はそれに囚われたくない。


「六つ集まんなきゃ、奴らも大した事出来ない。僕は他を探す」

「また余計な事に首を突っ込んで……」

「Don't worry! 大丈夫さ!」

「いや、別に心配していないけど」


 冷たく言い放ち、さっさと立ち去る様に告げる蒼。

 ユウキは無理に居座ろうとしないだろう。

 帰れと言えば、帰るはずだ。


 それなのに蒼は、帰れと言えない。

 なぜか分からないが、代わりに溜息が出た。


「他を探すって、どうやって探す気なの?」

「それはまあ、ネットで情報調べたり、聞き込みしたり……」

「要領悪すぎ。ちょっと待って」


 蒼はリアクターを解析している装置を、いじくった。

 

「この石。リアクターはお互いに引き付け合性質があるみたいだよ」

「へえ、相性ばっちしの恋人みたいだね」

「その性質を使えば、レーダーを作れる」


 元々蒼はレーダーの制作に、取りかかっていた。

 外に出たくないので、自分では探せないが役に立つかもしれないと思って。


「レーダー、貸してあげるから。ちょっと待ってて」

「Thank you! 相変らず頼りになるな!」

「別に貴方のためじゃないし。友達みたいに接しないで」


 レーダーの作成は殆ど終わっている。

 一時間もすれば、完成するだろう。


「ん? 待てよ? 同調を利用して、レーダーが作れるなら奴も……」


 言いかけたユウキは、表情を変えた。

 剣を引き抜き、蒼の前で斜めに振る。

 すると何かを撃ち落とした様で、工房の床が焦げる。


「な、なに……?」

「にゃぁ! ハハハ! この世紀の天才の先を越そうなど、甘いわ!」


 蒼が振り向くと、謎の人物が銃を構えて工房の外に居た。

 骸骨の様なヘルメットを被って、紫の鎧に包まれている。

 大人であり、声の低さから男性だと察しられる。


 蒼はこの人物に、見覚えがあるような気がした。

 遂最近、ニュースで見たような。


「ネガリアン! 今良いところなんだから、邪魔しないでくれる!」

「地下室でワシの邪魔をした小僧も一緒か! 丁度良い!」


 蒼は思い出した。Dr.ネガリアン。電波ジャックで、世界征服を宣言した人物だ。

 頭のおかしい人物だと思っていたが、本気だったようだ。


 ネガリアンは頭上に手を広げた。

 工房の天井が邪魔で見えなかったが、空になにかいる。

 正体は降下してきて、分かった。メタリックカラーの巨大バチだ。


「我が新兵器! ネガホーネットでハチの巣にしてくれようぞ!」

「センスなさ過ぎ。私ならメタルBとでも名付けるね」

「僕からしたら、どっちもどっちだね」


 巨大バチのロボットは、腕がハチの巣状になっている。


「ハチの巣にハチの巣にされたくなければ、そのリアクターを渡してもらおうか!」

「嫌。寧ろスズメバチをハチの巣にしてやるわ」

「僕なら、鉄の塊を屑鉄にしてやるけどね!」


 蒼は工房に仕舞っていた、武器を取り出した。

 一つは両腕に装着する盾。もう一つは二丁の銃だ。


「バカにしないで。私、結構強いよ」

「僕がビビるくらいにはね!」

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