第5話 最後の作戦
突如現れた、謎の巨大戦艦によって。
浮遊遺跡は木端微塵に吹き飛ばされた。
間一髪脱出が間に合ったアルファ隊は、基地に帰還。
十五時から戦い続けて、戻った時は日が暮れている。
士官学校を出たのが、昼前。
もう随分前の様に感じられた。
「知っての通り、所属不明の戦艦が都心のど真ん中を飛んでいる」
ストーンヘッドのブリーフィングが始まった。
本来正規兵以外、参加できない事だが。
特例として、アリスもこの場に居させて貰っている。
「雪道傾とワイを乗せたヘリが、戦艦に乗ったと情報がある。彼らの勢力かもしれない」
戦艦にはいくつもの兵装がある。
撃墜されないとなれば、友好関係があるのだろう。
「市民の安全を守るため、この戦艦を撃墜する」
「撃墜って……。こんなデカいの落として良いのか?」
「無論、街中に落とす訳にもいかない。そこでだ」
会議室のモニターが開く。
「敵戦艦に潜入して、コントロールを得る。その後、安全圏まで戦艦を動かす」
「そんなに簡単に潜入できるもんなのか?」
「反撃も出来ない状況で、難しいが。それが出来るパイロットが一人だけいる」
砲台を壊して、浮力を減らすのも危険だ。
街に落とさないために、攻撃は出来ない。
「だがパイロットは白兵戦が出来ない。そこで副座席に潜入員を搭乗させる」
「つまり、この作戦に参加できるのは実質一人のみ……」
この場の全員に緊張が走る。
巨大戦艦の操縦を奪い、安全圏に動かす。
恐らく傾やワイの妨害は避けられない。
彼らとの戦闘を、一人でこなす必要があるのだ。
傾はともかく、アルファ隊はワイにこっぴどくやられたばかりだ。
「適任者はアリス、君だ」
「私ですか?」
「リアクターは誰でも使えるわけじゃない。一度でも使えた君だけが対等に戦える」
軍もリアクターを研究していた。
その力を引き出すには、強い意志が必要らしい。
リアクターを使うワイには、リアクターで対抗するしかない。
だが条件が同じでも、敵はアリスより強い。
真っ向勝負だと、間違いなく負けるだろう。
「彼女はまだ経験が浅いです。ここは隊長である俺が……」
「彼の操縦はGがかかる。訓練していないものでは、一分もかからず気絶する」
アリスはそうかと思った。
リアクターなら重力を軽減できる。
「代案があるなら、私とて出している。だが時間がないんだ」
「どういう意味ですか?」
「完全生命体は一体だけじゃない。データがあれば、量産可能なんだ」
ストーンヘッドは眉間にしわを寄せて語った。
「オメガが完成し、そのデータを持って行かれたら?」
「あれ以上の化け物が、わんさか出てくるのか。考えたくないな」
試験体であるワイが、あの強さだ。
それ以上の奴が量産されるなど、想像するだけで恐ろしい。
「だが本作戦は、本人の意思を尊重する。アリス、やれるか?」
「断れない状況を作って、良く言いますね。誰に聞いているんですか?」
「ふっ。そうだったな」
最初からアリスは、断る気などない。
偽物と決着をつけて、全てを終わらせる。それだけだ。
「異論がないなら、出撃準備にかかる。どうだ?」
「異論はねえけど、一つだけ頼みがある」
アルファ13が、何かをストーンヘッドに渡した。
「パイロットはどうせアイツだろ? これを渡しておいてくれ」
「良いんだろう。望みは薄いがな……」
ストーンヘッドに何を渡したのか、アリスには見えなかった。
「手品のタネさ。嬢ちゃんが生き残れるようにな」
「ええ。生きて帰りますよ」
アルファ隊とは短い期間だったが、いい経験を積ませてもらった。
彼らにお礼も言いたい。その為にも帰還する必要がある。
「嬢ちゃん。そういう時は、サムズアップで返すもんだぜ」
「私は正規の兵ではないのですが……」
アリスはサムズアップを返した。
「今日だけは、アルファ隊の一員なので。先輩に従いましょう」
作戦会議を終えた後、アリスは戦闘機の後部座席に座った。
パイロットは男性と言う事以外、聞かされていない。
数分遅れでやってきた彼は、とても無口な人物だった。
挨拶もなしに戦闘機に乗り込み、合図を待っている。
出撃の準備が終わる。ハンガー開き、空が見える。
『ファイター1。出撃を許可する』
ファイター隊。本来雪山の基地で、一緒になるはずだった部隊だ。
結局彼らの出番はなかった訳だが。
『ドンケツ! 嬢ちゃんの事、宜しく頼んだぜ!』
アルファ13の軽口無線にも、ファイター1は答えない。
彼は真っすぐ空だけを見つめて、発進する。
本当に無口だ。何も言わず、命令のまま基地を飛び去った。
飛行中Gがかからない様、アリスは常にリアクターの力を発動した。
使い方は軍の研究データから、ある程度学んだ。
以前よりはまともに使いこなせるだろう。
『アリス。目を閉じていろ。酔うぞ』
「は?」
ストーンヘッドの意図を、アリスは直ぐに理解した。
同時に先に言えと、思わず心で愚痴る。
「ひゃああああ!」
機体が一気に加速した。
Gを感じないアリスですら、恐怖を感じるほどの速度だ。
リアクターがないパイロットは、平然した表情だ。
「目を閉じたら怖いけど、開きっぱなしも同じくらい怖い!」
『だろうな。我慢しろ』
「無責任だ! 後で詐欺で訴えてやる!」
ファイター1の飛び方は、もう無茶苦茶だった。
恐怖を感じていないとしか、言いようがない。
敵の攻撃を回避しながら、近づくミサイルを空中で爆破させる。
自動迎撃システムが、混乱するほどの飛び方だ。
ある程度戦艦を攪乱したのち、機体は戦艦背後上空を飛んだ。
甲板を滑走路代わりに、当たり前の様に着地する
「貴方本当に人間なの?」
無口のファイター1は、どこまでも無言だった。
アリスは機体から降りて、戦艦に着地。
まだ恐怖が脳裏を、こびりついている。
「ありがとう。甲板にも防衛装置があるだろうから、直ぐに避難してください」
ファイター1は頷くこともなく、発進した。
「世の中色んな人がいるものね……」
今日一日でアリスは、様々な人と出会った。
分かったことは、日本だけでも世界は広いという事だ。
「さてと。操縦席はどこかな?」
アリスは丁度、塔の様な場所の真下に到着していた。
自動ドアが開いて、誰かが出てくる。
「ええい! 次から次へと、侵入者が! ワシの戦艦を何だと思っているんじゃ!」
「石頭じゃなく、骸骨頭がお目見えとはね」
アリスはその人物に、見覚えがあった。
Dr.ネガリアン。電波ジャックで、世界征服を宣言した人物。
地下室でユウキと一線交わえて、敗北した科学者だ。
「ぬお! オリジナルか!? 傾! 侵入者がおるぞ!」
無線で話しかけるが、応答がない。
そこへ再び自動ドアが開いた。
「マスターは親子喧嘩中。オメガ共々ね」
やはりと言うべきか、ワイが現れた。
どうやら彼女とは、直ぐに戦うべき運命のようだ。
夕方に与えたダメージが、既に回復している。
「迎撃は私が行う。それから……」
ワイは剣を、ネガリアンに向けた。
「次に奴を"オリジナル"と呼んだら、喉を斬る」
「そんなナマクラで切れるほど、ワシの喉は柔らかくないわ!」
「通りでうるさいと思った」
ワイはネガリアンを退けて、アリスと向き合う。
「マスターも同じ事を口にした"やはりオリジナルに勝てないのか"とね」
「私が貴方のオリジナル? 見た目しか似ていないのに?」
「その通りだ。私はお前より優れている。ここでそれを証明する」
ワイはリアクターの力を解放した。
以前にはない、威圧感を彼女から発せられる。
「まぐれで私に勝った分際で……。一人で攻めて来るとはね」
「偶然でもまぐれでも、勝ちは勝ち」
アリスもリアクターを握りしめて、力を解放する。
以前はほんの一部しか、引き出せなかったが。
勉強の結果、遺跡の時より強いエネルギーを感じらえる。
「奇跡は何度も起きない。ここでお前は終わりだ!」
「奇跡が起こる確率は、コイントスで表が出るのと同じ確率です」
「一々余計な事を、言うんじゃない!」
アリスとワイは、同時に相手に高速移動した。
剣と剣がぶつかり合い、激しい火花を飛ばす。
「次は表が出るか、裏が出るか。賭けてみますか?」




