第3話 完全生命体
アルファ隊との共同任務が始まった。
皆それぞれ得意の武器を持って、作戦行動に移る。
アリスの武器は当然。代々伝わる伝統の剣だ。
「おい、嬢ちゃん。まさかそんな古臭い武器で、戦う気なのか?」
「立派な戦士なら、武器を選ばないはずですが?」
「へへ! 言うじゃねえか! オーライ! 背中はきっちり守ってやるよ!」
狙撃用のライフルを構えて、敵の基地に向かうアルファ13。
十三番だから、狙撃役なのねとアリスは内心皮肉を言った。
基地の防衛は、ロボット兵が行っている。
簡易なAIで制御されていて、敵を識別すると撃って来る。
当然この場で剣で攻撃する者など、アリス以外居ないだろう。
――上等だ。ここで一気に戦果を上げてやる。
「自信がないなら、弱点を狙うより胴体を狙うのがおすすめだぜ」
「お前、さっきから私を何だと思っているのです?」
アリスは剣を掲げて、その場で振り回した。
剣が青く光ると同時に、斬撃波が飛ぶ。
斬撃波は敵の銃弾を真っ二つにして、兵隊の急所を正確に狙う。
物体や生物にエネルギーを与える。
それがアリスに与えられた能力である。
「ひゅ~。やるね! 遠距離攻撃だけど」
アリスはまだ学生とは言え、実戦経験はある。
何度も周囲に頼られて、事件に巻き込まれた経験が。
その為今回の戦いにも自信があった。
何せ敵はロボット。人間ほど、想定外の動きはしない。
アルファ13が装填中にも、アリスは次々と敵を倒す。
『30番。目的は制圧だ。敵の殲滅は最低限にしろ』
一瞬誰の事かと思ったが、直ぐに自分の事だと思い出す。
現在アリスのコールサインはアルファ30。
番号が唯一なら、数字だけで呼ぶと聞いたこともある。
「まあそう言うなよ、石頭。大規模作戦は初めてなんだからさ」
『ならば13番。お前が手取り足取り教えてやるんだな』
「あ~。そう言う事言うの? 別に良いけどよ」
ようやく弾を装填したアルファ13が、ライフルを構える。
敵兵に狙いを定めているのかと思いきや、銃口の位置が妙だ。
「良いか、新入り。弾薬と体力は温存。これが基本だ」
彼が狙撃したのは、高電圧を発生させる施設だ。
銃弾を受けた設備は破損して、周囲に電気を発生させる。
その周囲を守っていた、ロボット兵が電気に巻き込まれて動きを止める。
「任務の本質を捉え、最低限の消耗で成功させる。これが出来て初めて一人前さ」
「なるほど……。勉強になりますね」
アリスも無限に斬撃波を放てるわけではない。
エネルギーを込めるので、自分の体力を消耗する。
内部の戦力が不透明なため、侵入前に使い過ぎは良くない。
「だが火力は確かだな。いざって時は頼むぜ」
「了解。使われない秘密兵器であることを、祈りますよ」
アリスは剣を納めて、影に隠れた。
雪で足元がおぼつかない。走るのは不可能だ。
ロボット兵は無尽蔵に、基地の中から出てくる。
これじゃあ、制圧どころか侵入も出来ない。
どうしたものかと、アリスは考える。
先ほど教わった事を、早速実践してみるかと周囲を観察した。
「施設の出入り口、封鎖できますか?」
アリスはアルファ隊に問いかけた。
ロボットが出てくる場所は、自動ドアになっている。
センサーを破壊すれば、ドアが開かなくなるはずだ。
「出来るけどよ。俺らも入れなくなっちまうぜ?」
「人の出入りに入口が必要ですか?」
「了解した。その作戦に乗ろう」
アルファ11が返答する。彼はサブマシンガンから、別の武器に持ち替える。
日本刀だ。名刀と言うより、どこにでもある量産品みたいな見た目をしている。
「まさか私以外に、剣を使う人間がいたとは」
「兵士は武器を択ばずだ」
アルファ11は敵の銃弾に、飛び込んだ。
雪の中でも素早い、まるで閃光の様な動きだ。
線にしか見えない。一瞬で基地まで詰めて、通り道のロボットを屑鉄に変えている。
「凄いですね。あんなデカいライフルをもって、よく俊敏に動けますね」
アリスは思わず見入る。
アルファ11は装備を豊富に揃えていて、かなり重量がかかっている。
それなのに、動きに無駄がなく、その上速い。
自動ドアのセンサーを破壊して、敵の増援を食い止める。
敵の攻撃が止んだところで、アリス達も一斉に基地に近づいた。
「壁の向こうに、敵が少ない事を祈ってっと」
アリスは基地の外壁を、剣で切り裂いた。
軍の壁すらも、彼女の力は容易く粉砕する。
「こちらアルファ11。敵基地に侵入し」
『了解した。ファイター隊に、出撃準備をさせる』
「上を飛ぶのはファイター隊か……」
ファイター隊とは、恐らく航空戦力の事だろう。
アルファ11は良く知っているのか、不安そうな表情になる。
『それから事前に警告する。今回は室内で、ロケランなどぶっぱなさないように』
「安心しろ。今日の獲物は対物ライフルだ。これちょっとくらい……」
『ダメ』
司令官にダメだしされて、子供みたいに口を曲げるアルファ11。
「まともな人だと思ったんだけど……」
「安心しろ。アルファ隊にまともな奴なんて、居ねえよ」
幸いと言うべきか、アリス達が侵入したルートに敵は少なかった。
これなら砲台の制圧も、十分余裕があるだろう。
「なあ嬢ちゃん。"エックス"や"ワイ"が居るなら、ゼット"も居ると思うか?」
「案外完成形なのが、そんな名前なのかもしれませんね」
アリスも内心思っていたことだ。
両者の名前はコードネームの様にも思える。
ゼットはアルファベットの最後なのだ。完成形に相応しい名前だろう。
「"オメガ"……」
「え?」
聞き覚えの無い女性の声が、背後から聞こえてきた。
この場に居る女性は、アルファ2のみ。
無口な彼女が、ようやく喋ったのだ。
「究極のと言う意味を込められて、オメガ」
「なんで知っているんですか?」
「基地内をハッキングしているから。内部からなら楽勝」
どうやらアルファ2は、高度な技術のハッカーだ。
携帯端末だけで、基地の全てをハッキングしている。
数秒後、一瞬停電になったかと思うと、ロボット兵の動きが止まった。
「基地内を制圧。相手が無人兵器だけで、助かった」
「……」
アリスは言葉を失った。突入して僅か一分。
戦う前に彼女は、基地を制圧したのだ。
「うわあ! 皆さん凄いです! 僕だけ活躍がない……」
「良いんだよ! 能ある鷹は爪を隠して、先輩を立てろ! 俺は能無しなんだから!」
落ち込むアルファ7を、13が励ます。
「待って……。一つだけ……。アルファ隊以外の生体反応が……」
アルファ2の発現と共に、近くの壁が爆発した。
アリスは咄嗟にアルファ13に庇われて、爆風の影響から逃れる。
「すいません……。油断していました」
「良いって。能無し鷹が、能ある雛鳥を守らないとな!」
アルファ13は負傷した。軽く頬から血を流している。
それでも彼は、笑顔でサムズアップした。
「外が騒がしいから様子を見てみれば。飛んだネズミが入り込んだ事」
爆炎の中から、人影が見える。
自分を鏡で見たような感覚。顔も背丈も全てがそっくり。
「なるほど。アレは確かに30番そのものだな」
完全生命体の実験体。ワイが剣と銃を構えていた。
自分が苦手な射撃まで出来るのかと、ムッとなる。
「また会えましたね。偽物」
「偽物? なぜ私を偽物と。私は貴方より優れた存在ですよ」
「優れた存在が、勝手に建てられた基地に隠れますか?」
アリスは冷ややかな目線で、皮肉を口にした。
少し癪に障ったのか、ワイの眉間にシワが寄る。
「ハハハ! 頭の回転は嬢ちゃんの方が、速いようだ」
アルファ13の冗談も、ワイにとっては屈辱らしい。
先ほどより、表情が硬くなっている。
「まあ良いです。ここを見たものは、始末しろ。そう命じられています」
「こんな大きな建物、見られるもなにもないのでは?」
「ユウキそっくりですね! 喋れば喋るほど、ムカつく!」
アルファ13の言う通り、頭の中身は勝っていると自信がついた。
少なくても、自分ならこんな挑発に乗らないだろう。
或いはそれは、優れているという自惚れから来るのだろうか?
「まあ良いでしょう。正面戦闘だけが、戦いではないですから」
ワイが指を鳴らすと、周囲が揺れ始めた。
爆音と、振動が交互に訪れる。
「基地ごと俺らを爆破する気か?」
「貴方達相手に、それは無理でしょう。ですが足止めくらいは出来ます」
ワイはこの基地を捨てるという、判断を下したらしい。
「アリス。私と決着をつけたければ、浮遊遺跡まで来なさい」
「はあ? 浮遊遺跡?」
振動でふらついている隙に、ワイは撤退した。
試作とは言え、完全生命体。
とても人間が追いつける、速さではない。
「コールサイン。役に立たなかったな」
アルファ13の皮肉交じりの冗談と共に、基地は大きな爆音をあげた。




