クライマックス VS Dr.ネガリアン
ユウキは蒼の協力で、空中戦艦に潜入した。
防衛網を突破して、姉と合流。
その直後、戦艦の動力が何者かに破壊された。
街に落下する戦艦の対処を、二人に任せて。
ユウキはネガリアンを単身で追いかける。
「吹雪の奴、無事かな?」
戦艦に潜入する前に、一旦彼と別れた。
ユウキは蒼と合流するため、直ぐに戦艦に向かわなかった。
結果的に彼と離れた直後、向こうから合流してきたのだが。
動力が壊れたからか、防衛システムは無効だ。
あっさりと船首に辿り着き、ネガリアンを追い詰める。
「おのれ! 傾め! 土壇場で裏切りおって!」
「やっぱりグルだったんだな。Dr.ネガリアン!」
「ぬお! ユウキ! 追ってきおったか!」
ネガリアンはUFOの様な乗り物に乗り込んだ。
「だがこのまま終わると思うなよ! 貴様も傾も、ここで始末してくれよう!」
乗り物は船首と合体した。その直後船が振動する。
落下の影響じゃない。何かが飛び出す揺れだ。
「最後に笑うのは、このワシじゃ! ヌハハハ! ゴホ! 笑い過ぎた」
船首の先っぽが飛び出した。
戦艦内部に収まっていたパーツが、姿を現して羽根を広げる。
巨大な飛竜の様なロボットが、月の明かりで影を作る。
「これぞ我が切り札! ネガワイバーンじゃ!」
「Hey! それで勝ったつもりか? こんなもの、屑鉄に変えてやるぜ!」
「行くぞ、ユウキ! 今度こそ貴様を消し炭に変えてくれるわ!」
ネガワイバーンは、飛行を始めた。
落下する戦艦の周囲を、高速で動き回る。
速すぎてユウキは狙いを定められない。
「なんてスピードだ。まずは動きを止めないと……」
ネガワイバーンから、ミサイルが六発発射された。
ユウキをロックオンして、別々に近づく。
着弾直前に動いて、ミサイルを回避したものの。
地面に着弾した影響で、足場が崩れた。
このまま回避に専念しても、いずれ立つ場所がなくなる。
「ニャハハ! もうその戦艦に用はない! 一緒に灰にしてくれよお!」
「野郎……。好き勝手しやがって……!」
ユウキは周囲を観察した。
ミサイル攻撃の影響で、戦艦の残骸が周囲に散らばっている。
不思議な事に、地面に落下するのが遅い。
恐らく蒼が重力を低下させて、戦艦落下を食い止めている。
ならば自分は役目をまっとうするだけだ。
「好き勝手すんのも、そこまでだぜ!」
ユウキは超能力を使って、残骸の位置を変えた。
ネガワイバーンは攻撃する時、動きを止める。
再びユウキをロックオンする姿を見て、彼は残骸に飛び移った。
残骸を次々飛び乗って、動きの止まったネガワイバーンへ。
コックピットにしがみ付き、中のネガリアンへ笑みを向ける。
「こら! 前が見えんではないか! さっさと退かんか!」
「だったらミサイルでも使えばどうだ? 撃てればの話だが」
「調子の乗るでない! 貴様など、振り落してくれるわ!」
ネガリアンはユウキを振り落すため、ネガワイバーンを動かした。
出来るだけ無理な軌道で、ユウキに刺激を与える。
ユウキは片手を話して、前方に巨大な残骸の塊を作る。
ネガワイバーンが残骸に直撃する直前で、ユウキは飛んだ。
戦艦に着地して、ネガリアンの様子を確かめる。
「し、しまった~!」
コックピットに残骸が振動を与える。
中のネガリアンはひっくり返った。
今ならロボットを操縦できまい。
「ソードブースト!」
ユウキは剣を突き出して、戦艦から飛び出した。
そのままネガワイバーンのバーニアに、体当たりする。
装甲が固く、一発では壊れずはじき返される。
超能力を用いて、空中で自分をキャッチ。
即座に立て直して、再び剣を突き刺す。
何度もその動作を繰り返すと、バーニアが爆発した。
「あ~れ~! 右側に! 右側に傾く!」
ネガワイバーンは空中を回転しながら、飛び回っている。
酔いそうだと、ユウキは皮肉を思った。
「ええい! かくなる上は……。残ったミサイル、全部発射じゃ!」
ネガワイバーンから、大量のミサイルが発射された。
数を数えるのもばからしい。ユウキは空中を舞い、ミサイルに近づく。
一つ一つを念力で掴み、爆発しない様一カ所に集めた。
巨大なミサイルの球体が出来上がる。
「ほらよ。返すぜ」
ユウキはミサイル群を投げ飛ばして、戦艦に着地した。
ミサイルはネガワイバーンに直撃。
その胴体をボロボロの、コード剥き出し状態に変える。
「ええい! 最終プログラム! 作動じゃ!」
機体の制御が効かなくなっている。
ネガワイバーンは、空中を暴走していた。
「アイツ、まだ何か企んでいるな……」
ネガワイバーンはあちこちが、爆破しながらも立て直す。
一瞬だけ静止すると、ユウキの方へ飛んでいく。
道連れを狙っているようだなと、ユウキは呆れた。
「それ! 脱出!」
ベイルアウトをすべく、ネガリアンはコックピットでレバーを引いた。
しかし何も起きない。
「あれ? あれ? ええい! この役立たずの、脱出装置がぁ!」
ネガリアンが何度もレバーを引いていると。
ネガワイバーンが丁度真下を向いている時に、コックピットが開いた。
「あ」
座席が飛んでいき、ネガリアンは地面に真っ逆さま。
ユウキは両手を広げながら、バックステップ。
ネガワイバーン最後の抵抗を、軽々と回避した。
「おのれ! ユウキ! 覚えてろよ~!」
捨て台詞を吐くネガリアンの背後に、丁度戦艦の残骸があった。
鈍い音が鳴り響き、ネガリアンの落下軌道が変わる。
「痛ぁ!」
ネガリアンは悲鳴と共に、海に落ちていった。
「あれで死なない様じゃ。あのおっさん海に落ちた程度じゃ生き残りそうだ」
「ユウキ!」
ネガリアンを眺めていたユウキに、背後から声をかける人物。
吹雪が服をボロボロにしながら、戦艦の内部から出てきた。
「よお、吹雪! あと少し早ければ、面白いものが見られたぜ!」
「その様子だと、片が付いたようだな。こっちも今さっき、終わった」
吹雪は周囲の違和感に気づいた。
「この船、落下が遅すぎないか?」
「蒼が頑張ってくれたんだ」
「そうか……。みんな頑張ったんだな……」
吹雪が感慨深くしていると。
船はもうすぐ海に落下しそうだ。
「どこかに掴まる事をおすすめするよ。揺れるぞ!」
「了解! って、捕まるところがねえ!」
戦艦は海に落下した。水しぶきを上げた程度で、被害はない。
陸地に影響を与えない様、蒼が最大限の注意を払ったのだろう。
ユウキは一息つき、空を眺めた。
気が付けば夜が明けて、太陽が昇り始めている。
ネガリアンも傾も倒した。これで終わったんだろう。
「んじゃあ、吹雪。帰ろうぜ。明後日、卒業式なんだかな!」
「日付変わったんだから、明日だぞ」
「あ~。眠らないように注意しないとな……」
ユウキと吹雪は、陸地に脱出した。
夜明け時とあって、歩いている人は殆どいない。
不思議なもので、良く知った街が違って見える。
「やっぱ、空や海より陸だよな!」
ユウキは思いっきり走った。走ることは好きだ。
一個の事件が解決したところで、彼の日常は変わらない。
これからも、何かに首を突っ込んでは巻き込まれていくのだろう。
でもユウキは一切の後悔はしない。
走り続ける事。それが彼自身が見つけた、生きる意味なのだから。
「ユウ!」
背後から呼び声が。ブルーバードに乗った、蒼が手を振っている。
思えば今回、彼女には助けられたものだ。
卒業前に、何かお礼をしなければ。
「まあ。進路は一緒なんだけどね……」
ユウキはフッと笑って、更に速度を上げた。
今日も彼は走り続ける。
目の前で起きた、何かを解決するために。
そこに理由なんてない。ただ昔からそうやって生きてきた。それだけだ。




