第4話 向かうべき場所
ユウキは吹雪を連れて、自宅に向かった。
蒼と浮遊遺跡を探索中、負傷した彼を見つけた。
急所は外れているが、傷口が深い。
今から病院に向かっても、間に合わない。
そう判断した彼は、反則と思いつつもある人物を頼った。
「母さん! 今日は居るよな! 非常事態だ!」
ユウキは玄関に吹雪を置き、奥の部屋に叫んだ。
彼のただならぬ口調を感じてか、慌てて人が出てくる。
エプロン姿の女性。水色の髪の毛をロングにしている。
冬木巫女。ユウキの母親であり、癒しの能力の使い手だ。
彼女の能力にかかれば、病気以外は治療できる。
体力まで回復できる優れた能力だが、使い手が消耗する。
「離れていなさい」
直ぐに吹雪の容態に気づいた巫女は、彼の傷口に手を当てる。
優しい白い光を発すると、傷口が塞がる。
この能力は輸血いらずだが、直す傷が深い程消耗が激しい。
たった一回使用しただけで、母は息を切らしている。
本人は少し疲れるだけと言っているが、ユウキは心配だ。
その為出来るだけこの方法で、傷を治すのは避けたかった。
「もう大丈夫よ。なにがあったの?」
「僕にも何がなんだか……」
浮遊遺跡に行くまでの経緯を説明しようとすると。
奥からもう一つの足音が聞こえてきた。
母親が帰っている事は知っていたが。
まさか彼も帰っているのか?
ユウキは唾を飲んで、奥から出る人影を見た。
黒いインナーシャツ姿の男性が、巫女の隣に立つ。
「父さん……!」
「ニュース見てみろ。えらい事起きているぞ」
冬木光夜。ユウキの父親であり、軍の人間だ。
何度も脅威を払った、伝説の英雄。
今のユウキでも、手も足も出ないほど強者だ。
父に引っ張られて、ユウキは居間に連れてこられた。
ついているニュースを見て、彼は目を開く。
浮遊遺跡があった場所に、巨大な戦艦が浮かんでいる。
「この悪趣味なデザイン、ネガリアンだな……」
「お前、関係してんだな? 詳しく話せ。内容によっては……」
父はその先を口にしなかった。
ユウキはリアクターの事から、浮遊遺跡までの出来事を全て話す。
雪道傾一派とネガリアンが、リアクタ―を狙っている事。
自分が先回りして、三つのリアクターを集めた事を。
危険な事をしていると知って、光夜は溜息を吐いている。
「ユウキ。お前の職業を正確に言えば?」
「中学生です……」
「この戦艦。どう見ても軍の案件だ」
確かに光夜達の力を借りれば、リアクターは絶対安全。
でもユウキは彼らの力を、借りたくなかった。
それが反抗期によるものなのか、自分でも分からない。
「中学生が、こんな事件に関わって良いとでも?」
「Yes」
「んだよ。分かってんじゃねえか」
光夜はニヤリと笑いながら、ユウキの肩に手を置く。
「目の前で大変な事が起きて。それで黙って見ていられるほど、大人しくないよな?」
「父さんも、昔そうだったんだろ?」
「俺はもっと酷かったよ。お前ほど物分かりが良くなかった」
正直一瞬説教されて、止められるかと思った。
だが父はいつもこうだ。自分のやることを、否定しない。
今出来る事を精一杯やれ。自分は自分にしかなることが出来ない。
姉への劣等感があった時。どうして姉と同じことが出来ないのか悩んだ。
そんな時に父がかけてくれた言葉だ。
自分は姉になれない。だから自分に出来ることをやる。
「まあ親心としては。危険な事をして欲しくないけど」
「走らなきゃ分からない道もある。だろ?」
「あ~。名言じゃないんだから、覚えなくて良いぞ」
光夜はユウキの背中を、そっと押した。
「行って来い。ヤバくなるまで、俺は見守りに徹するよ」
「Thanks……。僕、父さんが父親で良かったと思っているよ……」
ユウキは居間を出て、玄関に向かった。
あの戦艦に向かわなければ。
それに遺跡に居た蒼の様子も心配だ。
靴を履いて出かけようとすると、玄関傍の扉が開く。
吹雪が刺された箇所に手を当てながら、無理矢理出ていく。
「ちょっとどこ行くの!? 傷は治っても、精神まで回復しないんだよ!」
母親が止める声が、聞こえる。
治療を終えた吹雪は、隣の部屋で寝かされて。
しばらく経ってから目が覚めたらしい。
「すみません……。でも俺は行かないと。クソ親父を倒すために」
雪道傾と決着を望んでいる。
吹雪は傾を追って、浮遊遺跡に居たのだろうか?
ならば彼の勢力が、吹雪を刺したのだろうか?
「吹雪。なにがあったんだ? なにを焦っている?」
「楓と美央が攫われたんだ。奴が計画を動かす前に、助けなきゃ……」
「誰だよ、美央って。お前がそこまでする程の人なのか?」
楓は昼間にユウキへ依頼をした人物だ。
「人間に擬態した、吸血鬼だよ。お前なら信じてくれんだろ?」
自分への信頼の言葉だ。
ユウキも親友を疑うつもりはない。
彼が言うからには、吸血鬼は本当に居るのだろう。
「父は完全生命体のプロジェクトを再開しようとしている……」
「!? 優れた遺伝子のみで構成され、一切の隙を与えない。完成された生命体……」
「お前とは因縁深い、研究だったな」
吹雪は苦笑いをした。その研究は、光夜が両親を失った事故に繋がる。
つまりユウキにとっては、出会う前に祖父母を失った出来事だ。
事故により研究は凍結されたと聞いていたが。
「エックスはそのプロトタイプだ。お前は市役所で交戦した怪物がな」
軍の研究所でも、もう一度戦っているのだが彼は知らないだろう。
エックスが人工生命体なら、姉そっくりな敵の正体も分かる。
アレはアリスのクローンだ。父の細胞を遺伝した、姉のコピーなのだ。
「行かせてくれ、ユウキ……! 俺は雪道家の人間として、奴と……」
「断る」
ユウキは持っていた片方のリアクターを渡した。
「雪道家の人間としてでなく、僕や楓さん、美央さんの親友として行って来い」
「ああ。そうだな……。そっちの方が、力を出せそうだ」
吹雪はリアクターを受け取った。
それが何なのか、説明を求めない。
彼も一定の事情を知っているという事だ。
「僕は蒼を探して、ネガリアンって奴をぶちのめすよ」
「俺は親父を倒す。リアクターが居場所を教えてくれるはずだ」
そう言えばエックスが一つ、リアクターを持っていた。
共鳴反応で、エックスの居場所が分かれば傾も一緒のはずだ。
吹雪は使い方を自分より熟知しているようで。リアクターを握って目を瞑った。
「うお!」
「え?」
吹雪が力を込めると、ユウキのリアクターも反応した。
二人は眩い光に包まれて。脳裏に映像が浮かぶ。
それは先ほど見た、空中要塞だ。
「なんだよ。行き先は一緒じゃないか。どうする? 吹雪」
「一緒に行けってことか? リアクターには意志があるようだし……」
「意志に石があるって? 医師に頭を見てもらえ」
「ETCでも通れないいのか?」
意味が分からず、ユウキは目を細める。
「"いし"とイーシーをかけてだな!」
「先行くぜ」
ユウキはアホらしくなって、玄関を飛び出した。
「って! お前が始めたんだろ!」




