第2話 ロボットβ戦
ネガリアンのロボット。βとはレーザー攻撃で牽制。
ユウキを近づけまいと、青い光弾を放つ。
ユウキの方も、舞台下の学生にレーザーが当たらない様注意を払う。
βの周囲を逸らすため、出来るだけ会場の反対側で戦う。
光弾は最悪剣で切り裂ける。回避が絶対ではない。
一方で狭い足場で戦っている。思ったように動けない。
攻撃こそ当たらないが、攻めなければ勝機は薄い。
さて、どうするかね。ユウキはニヤリと笑いながら、ジッと時が来るのを待つ。
「ええい! 何をしておるβ! さっさとやってしまえ!」
『了解いたしました、マスター』
βは背中のバーニアを起動。
ユウキとの距離を、一気に詰める。
片手のハサミを開いて、彼の胴体を挟もうとする。
――ほら。焦れてきた。本戦はここからだぜ!
ユウキは高く飛び上がって、ハサミを回避。
「ええい! ちょこまかと! こうなれば……」
「あ~。ミサイル攻撃はダメですよ」
「了解! ミサイル発射じゃ!」
βは背中から、ミサイルを飛ばしてきた。
それぞれが接触しないよう、別軌道を取る。
空中で自由が利かないと思ったのだろう。
ユウキは体を緑色に光らせてた。
得意の念力で、ミサイルの動きを止める。
「超能力で逆利用されるでしょう。先に言っておくべきでしたね」
レンツの解説が一歩遅れて、助かった。
ユウキはミサイルを一カ所に固め、βに送り返す。
ミサイルの塊はβに直撃。その場で爆発する。
『左腕破損。視界良好。出力低下。破壊する』
βは上半身だけを、高速回転させた。
そのまま光弾を放ち、所かまわず攻撃を開始する。
「まずい!」
ユウキは指を鳴らした。彼の姿がステージ上から、転移して。
学生達が集まる会場に移動した。
βが放つ光弾を切り裂いて、学生達に被弾せぬようにする。
「ひえ! 暴走状態じゃ! 痛ぁ!」
光弾の一部が、ネガリアンに掠った。
頭部が破壊され、視覚情報がないのだろう。
なりふり構わず攻撃するロボほど、危険なものはない。
「ネガリアン様。撤退を推奨いたします」
「分かっとるわい! だが洗脳装置の"アレ"を回収せねば……」
この時ネガリアンの視線が、天井に動いたのをユウキは見逃さない。
学生達を洗脳させている装置は、天井に取り付けられているらしい。
「そうと分かれば、さっさっと決めるか!」
ユウキは光弾を切り裂きながら、足を動かした。
ローラーで滑る速度は、自転車の全力疾走を超えている。
「あの速さはなんじゃ! アイツはオリンピック選手か!?」
「いえ。どうやらあの靴に秘密があるようで……」
一気にβに近づいたユウキ。
剣を突き出して、緑の光を纏う。
更に勢いを増して、βに体当たりをした。
「ソードブースト!」
ユウキはβの胴体を貫通した。
βは動きを停止して、体勢を崩す。
『破損甚大……。ターゲットロスト……。機能停止……』
βは倒れながら、光弾を発砲。
天井にある機械に直撃した。
「しまった! 洗脳装置が!」
装置がスパークを放つと同時に。
学生達の談笑が止まった。彼らは周囲をキョロキョロしている。
「あれ? ここ、どこだ?」
学生達は正気に戻ったようだが、喜んでいられない。
先ほどの一撃で、天井が崩れかかっている。
このままでは全員生き埋めだ。
「パーティは御開きだ! 全員この部屋から逃げろ!」
ユウキは天井を持ち上げながら、全員に叫んだ。
パニックは避けられないだろうが、幸い出入口は広い。
全員脱出までなら、持つだろう。
会場から人が居なくなったのを確認すると、ユウキは超能力を中断。
天井が崩れて、ステージ以外を下敷きに。
同時に紫色に光る、石がユウキの足元に落ちて来る。
「コイツは以前市役所で拾った……」
ユウキは抜き足差し足で逃げ出そうする、ネガリアンに気づいた。
呆れながら彼の目の前に、テレポートする。
「お前の知っている情報を、洗いざらい吐いてもらおうか?」
「……。はい……」
ネガリアンは不思議な石、リアクターについて話した。
全部で六つあること。互いに共鳴して、出力を高める事。
エーテルと呼ばれる、星を構成するエレメントで出来ている事。
「古代の文献に書いてあった。六つ集めれば、世界を支配できると」
「だから世界征服なんて、宣言しやがったのか」
だったら六つ集めてから、宣言すれば良いのにとユウキは思った。
それが出来ないから、科学者として成功しないんだろうなっとも。
「これで勝ったと思うなよ! 冬木ユウキ! その名を刻んだからな!」
「お前さあ、この状況で逃げられるとでも?」
「ワシには秘策がある! 見るが良い!」
ネガリアンは膝をついて、両手を合わせた。
「秘儀! 神への祈り!」
「なるほど。そりゃ必殺技だ」
ユウキは目を細めながら、ネガリアンを捕まえようとした。
その直後。地下室の明かりが、一斉に消えた。
「停電じゃ! 祈りが通じたのだ! 逃げるぞ、レンツ!」
「あ~、ただいま。出入り口まで案内致します」
「痛ぇ! 足を踏むでない! わざとだろ!」
暗闇に紛れてネガリアン達は退散した。
出来れば後を追いたかったが、罠の可能性もある。
向こうは暗闇でも、視認できる。無策で追うのは危険だ。
ユウキは追跡を断念して、壁伝いに出口に出た。
外を見渡すが、既にネガリアン達の姿はない。
「逃げ足の速い奴らだなぁ」
ユウキは欠伸をした。暇つぶしになった。
時刻は午後の二時。十分体を動かしただろう。
家に帰って、ゲームでもするかと街を走り出した。
ネガリアンの事はキチンと報告する。
自分は学生。そのことを弁えないと。
また説教されそうだと、ユウキは追跡を中断した。
「この石。また警察にでも預けるか?」
リアクターの危険性を知った以上、自分の手に負えない。
かといって手放すのも怖い。
「しばらく僕が預かっておくか……」
確実な安全が確保されるまで。
それが一番安全だと、ユウキは思った。
「ユウ? ユウじゃない!」
「うっ……」
街角で名前を呼ばれて、ユウキは思わずゾッとした。
その声は出来れば、街中で聞きたくないものだ。
「や、やあ。姉ちゃん。久しぶり……」
「毎日会っているし。家とは反対方向でしょ?」
「遊んでいたわけじゃないぞ! 一種の人助けをだね」
姉、アリスの存在はユウキの弱点とも言える。
幼い頃教育を受けたユウキは、今でも彼女に逆らえない。
門限を決めたのも彼女だ。守ったことはないが、説教はげんなりする。
「お前の場合、人助けが遊びでしょ」
「失礼な。まあ、そうだけど」
「まあ丁度良いです。私を助けると思って、少し手伝いなさい」
てっきり怒られると思い、ユウキは拍子抜けした。
アリスが説教を忘れるくらい、切迫しているという事だろう。
「なにがあったんだ?」
「私の偽物が悪さしているらしい。上層部から、早急に捕まえないと私が捕まる」
「ハハ! 姉ちゃんに化けようなんて、命知らずがいるものだな!」
ユウキは思わず吹き出した。
アリスはなにも、ユウキにだけ厳しいわけじゃない。
味方には怖いが、敵にはもっと恐ろしい。まさに鬼だ。
「ええ。偽物を包丁でめった刺しして、崖から落として、フォールしないと気が済まない」
「もうその発想が悪魔だよ……。しょうがないなぁ」
姉に頼まれたら断れない。ユウキは手助けすることにした。
「でもアテはあるのか? 流石に手あたり次第に探すのは……」
「軍の施設が毎回襲われているそう」
「That's great。そりゃ安心だ」




