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お盆のクラゲ

作者: 宛先無し

澄んだ緑色の海が波をたて僕らの足に飛沫をあげる

おばあちゃんは言う「お盆に海に入ると亡くなった人に足を攫われて連れてかれてしまうけん、入いーじゃないで」僕はそんなのは子供が1人で泳がない様に言う嘘だと思っていた。


小学3年生の盆

今日も一緒に岩場の方遊びに行こうぜ!」幼馴染とその弟と夏休みだけ田舎な僕の地元に来る担任の息子の陸、みんなで大人に隠れて向かう僕等の海辺の秘密基地。


慣れてない街の子供の陸は足を濡らしながら、基地まで向かう僕らに追いつこうとしている

「猿みたいにみんな岩から岩に飛ぶの怖くないの?」

「そんなの全然怖くないよ慣れればお前も着いて来れるよ!」

そんな陸を置いて岩を渡っていると後ろから「いたっ!」と聞こえた。


陸の足にはミミズが張った様な赤い痕があった

「あー電気クラゲやね、運が悪かったなぁ」

涙目の彼は「お盆に海はいったから、悪い事したからバチ当たった」と涙目で笑っていた。

オロナインを塗るため僕ら2人先に帰ることをみんなに告げる、だって先生の陸と対等で仲良いのは僕だけだったから。


子供ながらに、何処と無く他のみんなとは距離を感じていた彼はいつも僕の隣に居ようとする彼を末っ子の僕は弟がいたらこんな感じなのかと同い年の陸に対して思ったのだろう兄貴ヅラして

「お前が刺されたから先生にお前連れて海行ったことバレるがん、あーあ今日の晩怒られーわ」

と笑いながら冗談のつもりで言ったら、その言葉通りになった。


先生がちょっとむすっとしながら「秋人君!海行ったの?陸がクラゲに刺されてるじゃない!大人がいないのに泳ぎに行ったらダメでしょ?」と怒っているが自分の息子と遊んでくれている手前か学校より特段優しいし、そこには愛情を感じれた。


怒られても懲りずに明日何するか軒先で2人で話していると夕暮れ17時の空襲警報の様なサイレンが鳴り響く「あー墓参りいかにゃいけん時間だねー」と僕は走って帰る。


おばあちゃんがもう玄関に蝋燭と線香とヤカンを持って待っている「ほれ、行くで」と毎年恒例のめちゃくちゃ長い墓参りの始まりだ。


「ここはなぁ裏の神庭のお婆ちゃんのお墓、こっちは灘の阿川さん家の早う亡くなったおとっつぁんの墓、酒が好きだったけん、ぎょうさんお酒備えてもらってよかったねぇ」と立て続けに僕の知らない人達のお墓の話をする。


海辺の墓場がおわると次はお寺の後ろの山の上の墓場廻り、そこでいつの時代のかわからない様なお墓まである「ばあちゃんこれは?」

「わからんけどずーーーとむかしのお墓だね、寂しそうだから綺麗にしちょこうね」と大昔の誰かまで墓参りする「こうしちょったら、お盆に海入っても怒られんかもっさんね」


僕は何も言えずに考えた、死んだ人がどんな人かもわからないのにその人の逆鱗に触れるか否かなんて途方も無く想像がつかないことだ、だけど誰かに見つけられて誰かが綺麗にしてくれたらきっと僕ならその人の守護霊にでもなるだろうなんて考えてしまった。


だからきっとお婆ちゃんと一緒に綺麗にしてればいい事はある筈だと。


お寺に抜ける様山を下り最後は、お寺の歴代住職の墓とお地蔵さんに余った線香を全て入れて帰る。


寺の側の先生の家からは彼と先生と祖母と祖父の笑い声と共に焼肉のいい匂いがした。

「ばあちゃん今日の晩ご飯何ー?」

「今日はおっちゃんが来るからいっぱい色々あーけん、お前が好きな刺身もあーで」

「うん、そっか」

何故か寂しくなったが夏の特番でそんな事どうでも良くなったつもりになっただけで、結局お婆ちゃんと一緒に居間で寝た。


その日、夢を見たことを今でも覚えている

凛とした月が滑り台の上にいる僕を見ていて、滑り台の下には僕を迎える様に待つ見知らぬ大人の女性、滑って彼女に迎え入れて欲しいと思ったが僕の中の何かがダメだという。


ただ僕は滑り台の上で月を見ては彼女を見て葛藤する夢だ、そんな夢をばあちゃんの「おきんしゃい!ラジオ体操いかにゃいけんでしょー!」と言う声で起こされた。


ラジオ体操が終わり家に帰ると目玉焼きと前日の残り物の朝ごはん、食べ終わると僕は一目散に先生の家に向かった。


「おじゃましーます!秋人です!あそびいこー!」と声をかけて2人で家を飛び出し目指すは自慢の秘密基地、海に入らない様に実はあったことを告げ山の中を進み到着すると彼は目をこれでもかと言うくらいキラキラさせていた。


岩場に無造作に竹をたて家っぽくした基地を見せて「ここが俺の家!んでこの石がベッドでこの石がソファ!」などと海に流れ着くもので作った秘密基地をいっぱい見せてやった。


「僕も街じゃ無くてこっちで秋人君と同じ学校が良かったなぁ」なんて言われたが僕はそう思えなかった。

僕は学校で田舎では珍しいハーフだから「外国人!」などと弄られてる姿を、カッコ悪い姿をコイツにだけは見られたくなかった。


「でもお前も街の方に友達いるんでしょ?だったら友達多いところの方が楽しいじゃん」


「ううん、そんなに居ないよ。それに習い事ばっかりであんまり遊んで無いから、みんなで秘密基地つくったりゲームしたり、釣りしたいな」


「そっか、ならいつか一緒な学校行くか」

子供ながらに慰め合うように、もしもそうなったらと想像を膨らませ2人の足りない何かを埋め合えた気がした。


盆が終わる頃、毎年恒例の夏祭りは地元で小規模ながら花火が上がる、漁村の湾内の防波堤から上がる花火をお墓の前でご先祖様にも見える様に真上にあげる。


彼のおばあちゃんとウチのおばあちゃんと僕らで見ている。

「先生は?」

「いま妹とあっちの方でみてる、まだちっちゃいから花火怖いんだって」


と言いながら陸も大きい音が鳴る度に体をビクッとさせている。

一輪の大きい金色の花火が咲いた後、終了のアナウンス「本日はありがとうございました!来年は更に皆様方を満足させれる様に町内会、漁業会共々頑張って参ります!引き続き夏祭りの方お楽しみください!」それを聴きながら2人でかき氷を買いに行く。


地元の友達たちと陸と皆んなで防波堤でかき氷食べて、帰り道にお寺の前の家だから怖いらしくついてってあげた。

そしたら陸は物言いたげな顔をしてて「ん?なんかあった?」と言った途端、溜め込んでたものを吐く様に「お盆が終わったら、習い事あるから街に帰るけどまた正月と来年のお盆遊ぼうね!あと普通にそれ以外でも帰ってくるから帰ってきたら家電話する!それじゃお休み!!」


と途轍もない勢いで喋り終えて走って帰って行った、恥ずかしかったのか分からないがお寺の前で逆に1人になってしまった僕も何処と無く怖くなり走って帰った。


陸はお盆が終わると街へ帰った。

その年の冬は大雪で先生は正月の帰省は諦めたそうだ。


小学四年生の新学期に入る時期。

同学年の生徒は恒例のクラス分けで大盛り上がりをしていた。

元々田舎で子供が少なかったら僕の学校は数年前3校が統合されたがゆっても、一学年50人も満たなかった。


はじめて同じクラスになる奴がチラホラいた、2クラスだけなので別に新鮮さは無いが苦手だった奴とクラスが別になり少し嬉しかった。

担任は引き続き陸のお母さん、クラスが決まった後もヤンチャで騒がしいタイプが多い僕のクラスは喧騒が鳴り止まなかった。


クラスも落ち着いてきた5月頃事件が起きた。

同じクラスに日本語の拙い中国ハーフの子がいたのだがその子が男子からのイジメと言うか揶揄いの対象になったのだ。


「おい!今日の給食中華じゃん!お前の国の料理とか食べられねえよ!」と大声で男子の1人が言うと「やめなさい!!!」と先生が怒号をあげる

去年まではそんな事があっても先生が怒れば収まっていたのだが「うるせえ!ババア!」と男子が言い始めて先生も涙目に。

僕は便乗して笑うことも出来ず、かといって止めることも出来ない臆病者だった。


次第に男子たちの矛先は先生へ向き始め、女子も何故か最初は仲良くしていた先生に対して冷たくなっていった。

ただ憤りを我慢していた僕は、昼休み中にドッジボールをしていると同じクラスの男子と掴み合い殴り合いの喧嘩になってしまった。

「お前がパス遅いからだろ!!!!!!」といわれ毎日感じる憤りからか「うるせえ!毎日お前先生にごちゃごちゃうぜえんだよ!」と本音を出してしまったことをキッカケに全て矛先が僕に向き始めた。


喧嘩相手は柔道をしており僕はボロボロに負けてしまい「こいつもハーフだから虐めよう」「弱いから虐めよう」


僕はそこから学校に行く度虐められて、でもはむかい続け、よりエスカレートして殴られ、今まで友達だった奴も集団心理に負けてか僕を見る目が違う。


絶望を覚えた、歯向かう気力も無くなり、母親に理由も言えずに「学校行きたく無い」というと「なんでそんなこというの!私を悲しませたいの?」外国人の母はヒステリックになり僕をベルトで叩き始める、父親は関心がないのか叩かれてる僕を見ても何も言わずに仕事に向かった。


家にいるよりはマシに感じた僕は学校に行くが、多少マシな程度で辛いものは辛かった。


おばあちゃんに全部言えない自分がいた「学校はたのしかった?」と聞かれれば楽しいと言い「先生は良くしてくれるかね?」と聞かれれば、うんと答える。

何故か分からないが、おばあちゃんと陸には何も知れたくなかった。


学校に行く度虐められている僕をみても先生は何もしてこない、助けてくれない。

毎日生徒に悪口を投げかけられる先生のメンタルはおかしくなっていたのだろう。


学校側も隠したい様な感じで大人は誰も干渉してこないせいで僕は心が壊れた。


ある日いつもどおり母親に打たれた後学校に行き、5分休憩の度虐められるのに慣れた頃、給食でとあるスイーツが出た、それを見た男子の1人が「これ名前に(中国ハーフの子)と同じ名前が入ってる!きたねー!食いたくねー!」とデザートを壁に投げた、それを見ていた他の男子も同じことをし、先生がそれに怒ると先生目掛けて投げて先生の胸の辺りにスイーツがクリーンヒットしたのだ。


その時先生の中の最後の壁が壊れ、大泣きしながらクラスを出て行った。


僕は先生がいなくなると虐められ始め、先生に何故だか憎しみを抱いた。「なんでいつも自分ばっかり逃げるんだろう、僕は逃げれないのに」


次の日過去に見ないくらいやつれた先生がそこにいた。

給食の時また先生をいじめが始めた男子が先生に「くそみたいな教師だな、虐められてる奴いるのにお前だけ逃げるとか!」と大笑いして言うと先生は今日も逃げてまた僕の番。


それが続き夏休み前に唐突に教頭がクラスに現れ

「おまえと、そこのおまえ立て」と普段優しい教頭からは想像もつかない覇気と怒りを纏って主犯格のいじめっ子と其れにいつも大笑いで便乗していた奴を指差し「お前らが何をしたか、全部言うまで今日は終わらない」と言いその2人は半泣きで僕と先生と中国人の子への行いを自白した。


僕の目線では被害者は3人、僕ら以外皆んな加害者の筈なのに、コソコソ話で「あれは颯太たちが悪いよね」と罪をなすりつけ合う様が今までになく僕の腹を立てた。


教頭が「秋人こっちにこい」僕が呼ばれた、みんなから目線を向けられることに恐怖よりも怒りが増していく。


「お前は強い。こいつらの誰よりも1番強い、耐えたり、はむかい続けたり普通はできることじゃ無い。」僕は救われたと言う感情すら湧かなかった。


ただ今まで耐えたことは復讐にもなっていない、ただ終わっただけで、今終わろうとしているだけだからだ。

僕が抱いた憎しみの先を探しても謝られれば、その憎しみは道を見失ってしまう。

せめて一度だけでも勝ちたかった。

と思うと涙が溢れて止まらなくなった。

僕はただ辛い思いをしただけで、何にもならなかったから喪失感すら感じていた。



だけど、先生は違った。

きっとおかしくなっていたんだ。

「秋人君が虐められなかったらこんな事にはなってなかった!!秋人君が虐められるから私も虐められた!陸にもう2度と会わないで!貴方のせいで私が泣いていたからあの子にも心配をかけて、私もこんな事になった!」と僕は同じ気持ちだと思っていたはずの先生に責められた。


教頭が「ふざけるな!!!!何を言うか!!!」

と今まで聞いた事のない様な鬼の様な怒号をあげると先生が「だって、だって」と泣き崩れた。


僕は涙も枯れ果てるのを感じた。


そこから僕は早退する事になり、教頭が僕の親に僕が虐められてた事を告げる


母親は帰ってから「気づいてあげれなくてごめんね」と言いなら抱きしめてきたが、お前が叩いたベルトのミミズ腫れが抱き締められる度に痛む。


父親は「お前にも悪いところがあったんじゃないか?」と一言で終わる。


ただ、おばあちゃんだけはいつも通りで

「早く帰ってきたからホットケーキ焼いちゃーか?」と一言。


そのまま全ての気力と怒りのやり場を失った僕は

夏休みまで休んで過ごした。


「あぁ、でも今年からは陸には会えないんだ。」


小学四年生のお盆が来ると、例年通りお婆ちゃんとの墓参り。

いろんなお墓の説明を聞きながら墓地を転々としていく。

去年来た山の上の大昔のお墓は住職さんが綺麗にしてご供養して一ヶ所にまとめられたそうだ。


去年あんなに綺麗にしたのに僕の事守ってくれなかったな、もしかしてあの夢の人だったのかも、滑り台を降りて素直に愛を受け入れれない僕のせいだったのかも。


そうして墓を回り終え余った線香を今年はまとめて全部、寄せ墓に入れて手を合わせた。


お寺を出ると先生の家からは今年は何も聞こえてこない。

でもそこには陸のお婆ちゃん僕らを待つ様に居て

「秋人君ほんとうにごめんね」と何とも言えない表情で言われた。


うちのばあちゃんも何も言わなかった。


きっと僕は気付かないうちに陸の家族を腫れ上がらせた感情もなく波で揺れ動くクラゲの様だった。

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