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(腰は超痛いけど)登城した

 ――今夜、客人がやって来る……かもしれない。


 ――いや、先方の腰さえ悪くなければの話なのだ。


 ――ともかく、おっさんの戦士が現れてヨウツーを名乗ったのならば、それが僕の客人であると思っていい。


 ザドント城の門を守る兵は、第二公子ハイツからそう言い聞かされていたため、やって来る……かもしれない客人というのは、さぞ薄汚れたおっさんであろうと考えていた。

 とかく、冒険者という生き物は、どこかスレたような格好をしているものなのだ。

 未踏の地をねぶみ、迷宮とあれば探索し、魔物が人々をおびやかしたならば、駆けつけて倒す……。

 そのような生き方をしているのだから、身なりというものが二の次三の次となる者が多いのは、道理というものである。


「戦士ヨウツーとその連れだ。

 第二公子殿下にお招き預かっているのだが?」


 だから、目の前に立つ人物が名乗った時、守備兵は心底から驚いたものだ。


 ――まるで、貴族のような。


 そう形容するしかない格好をした御仁であった。

 黒髪は香油で後ろに撫でつけられており、顔には髭の一本たりとて見当たらない。

 顔立ちも整っており、さすがに美男子という年齢ではないが、これは一部の婦女子にとってはたまらぬ渋さだろうと思える。

 身にまとっているのは、それこそ貴族が社交界で着るような燕尾服で、縫製から何から、一切の手抜きが感じられぬ逸品であった。


 およそ、守備兵が知る冒険者という人種からはかけ離れた人物であるが、彼が連れているご令嬢もまた、姫君のごとき娘である。


 種族は――獣人。

 年の頃は、十二か三といったところで、将来はさぞかし美しく育つだろうと思わされる銀髪の娘だ。

 まとっているのは、その髪がよく映える漆黒のドレスで、幼げな顔立ちもあってまだまだ愛らしさが勝っているが、ほんの一匙……妖艶さも感じさせた。


 想像していたのとは、あまりにかけ離れた姿の客人たち……。

 その出現に、守備兵は咄嗟に返事ができず、しばし、呆然としてしまったが……。


「どうかな?

 第二公子殿下から、通達があったのではないかと思うのだが?」


 客人に問われ、守備兵はハッと姿勢を正す。


「――失礼しました。

 殿下から、お通しするように賜っております」


 そして、きびきびとした動きで客人を通したのである。




--




 城内においても、戦士ヨウツーは注目の的であった。

 主に視線を向けているのは侍女たちであるが、中には、騎士や兵たち……。

 それも、城内でそれと知られた腕利きたちの視線も混ざっている。

 彼らが、冒険者とは思えぬ身奇麗な格好の男へ注目する理由……。

 それは、彼の歩き方であった。


 ――何という。


 ――真っ直ぐな歩法なのだ。


 およそあらゆる武芸において、基本にして奥義といえるものが歩法術である。

 人間というものは、あまりに不安定な重心を抱えた生物であり、それによって生じる隙を補うため、歩法を磨き上げることは当然の理といえた。


 しかるに、この男が見せる歩行の何と美しきことだろうか……。

 重心は、直線を描くかのように一切のブレを見せず……。

 流れる水のようなその動作には、一部の隙も見当たらない。

 冒険者というのは常在戦場を生業とする職業であるが、ここまで自然に一挙一動へ警戒を乗せられる人間というのは、そうはいないに違いない。

 その静かな……それでいて、確かな歩法は、湖面すら歩いて渡り切るのではないかと錯覚させられる。


「相当な達人であろう」


「何でも、ハイツ殿下が招いた客人らしいぞ」


「となると、開拓計画絡みか?」


「おそらくは……。

 あれほどの腕利きを招へいできるとは、どこでそのような伝手を作ったのか……」


「いずれにせよ、殿下の本気さが伺えるな」


 騎士や兵たちは、そう密やかに語り合う。

 やがて、彼らが言うところの相当な達人は、公子が派遣した家来の導きにより、第二公子の私室へと辿り着いた。


「失礼いたします」


 家来が開けた扉をくぐり、ヨウツーが挨拶を行う。

 右手を胸に当て、ゆっくりと腰を折る優雅な動作――は、途中で止まる。


「――ふぐうっ!?」


 動作に代わって彼の口から漏れたのは、お前どっからそんな声出してるんだとつっこみたくなる奇怪な呻きだ。


「せ、先生っ!?

 無理をしては……!」


 連れだろう銀髪の獣人娘が、心配そうにしながら彼の腰をさすった。


「も、問題ない……!

 第二公子殿下の前で、礼を欠くようなことがあっては……!」


 そう言いながら、尚も腰を折り曲げようとするヨウツーだ。

 玉のごとく浮かび上がった脂汗を流しながらそうしようとする様は、まさに、決死の形相と評するのが相応しい。


「先生……ご立派です!

 そこまで仰るのなら、わたしも止めはいたしません!」


 連れの少女がそう言いながら、一歩後ろへと下がる。

 その瞳には、感動の色が浮かんでおり……。

 さながら、英雄譚の誕生を見届ける吟遊詩人であった。


 ちなみに、目の前で展開されているのは、腰を痛めたおっさんが無理してお辞儀しようとしている光景である。

 かかる様子を見て、椅子に座りながら待っていた第二公子ハイツが下した結論は、ただ一つ。


「む、無理しなくていいよおっ!」


 おっさんの腰は、許しを得た。




--




「いいか? 本当に無理しなくていいからな?

 腰に負担のかからない座り方をしていいからな?」


「殿下の心遣い、感謝いたします。

 ですが、さすがに御身の前で足を組み座るというのは、不敬であるかと」


「目の前で苦悶の顔をされる方が、よっぽど困るよおっ!」


「先生、公子様もこう仰って下さっているのですから……」


「むう……。

 なら、遠慮なく」


 ハイツの許しを得て……。

 公子と小さなテーブルを挟んだソファへ慎重に腰かけたヨウツーは、そのまま足を組んだ。

 無駄に顔が整っていることもあり、こうしていると、まるで何か大きな企み事を持って乗り込んできた大悪党のようである。

 実態は、ただ腰の痛いおっさんがなるべく腰に負担のかからない座り方をしているだけだ。


「さて……。

 ここへ招いた理由、分かっているな?」


 一方、第二公子ハイツの方もまた、キリリとした顔と声音でそう問いかけてきた。

 ここまでのやり取りは、なかったことにする腹らしい。


「ふふ……」


「くく……」


 どうにかそれっぽい空気を作った両者が、互いに不敵な笑みを浮かべる。

 これはただ、腰痛騒ぎのせいで、互いに何を言うつもりであったか忘れたので、何となくそれっぽく笑って間を繋いでいるだけであった。


「そういえば、その娘は?」


 と、ここで会話の取っかかりを見つけたハイツが、そう言ってギンの方を見やる。

 頑張れハイツ! そうやって世間話で場を繋ぎ、どんなことを言うつもりだったか思い出すのだ!


「この娘は、ギンという――忍者です。

 東方から流れ着いた少々特殊な職業でして、様々な技を使いこなします。

 かの迷宮都市ロンダルでも、この年で早くもSランクへ昇格していた実力者ですよ」


「――ほう! Sランク冒険者!」


 その言葉には、素直に目を輝かせたハイツだ。

 冒険者の最高位――Sランク冒険者というのは、王侯貴族であろうと、会おうとして会える存在ではない。

 それに、まさかこんなところでお目にかかれるとは……。


「始めまして。

 ギンでございます」


「これは、これは、立派な礼を……。

 冒険者というのは礼節に欠けると思っていたが、お前たちの身なりや仕草を見ると、これは見識が浅かったと認めなければならないな」


 席から立ち、スカートを摘んだ優雅な仕草で礼をする冒険者少女に、素直な賛辞を送る。

 そうなると、自然と気になることがあった。

 先ほど、このギンという娘は、ヨウツーに対して先生と呼んでいたが……。

 ならば、ヨウツー自身はどの程度の実力者なのだろうか?


「それで、ヨウツーよ?

 お前自身は、どのランクなのだ?」


 最低でも、Aは固いだろう。

 いや、高確率でSランクであるに違いない。

 第二公子の予想は、しかし、あっさりと裏切られる。


「私自身は、Cランクですよ。

 事実上、最低ランクの冒険者ですね」


「え? そうなの?」


 思わずまた素を出してしまったハイツに対し、先んじて何を言いに来たのか思い出したおっさんは、畳み掛けるようにこう言い放った。


「ですが、経験は積んでいる。

 そして、その経験に照らし合わせると……。

 この開拓、失敗しますな」


「――何だと!?」


 それは、聞き捨てならない言葉であり……。

 ハイツは、思わず腰を浮かせようとしたのである。


 えー、ここでお知らせです。


 この作品ですが、現行のこれはボツ版として、ちょっと遡って書き直させて頂ければと。

 理由としては、他の冒険者たちが出てきてナンボの内容だというのに、全然その兆候がない話の流れにしてしまったことですね。


 我ながら、ちょっと見切り発車が過ぎると反省しています。


 書き直す方は、二回目の更新分からすぐに仲間たちが出てくる形にしていこうかと……(一回目はそのまま)。


 で、供養というわけではないのですが、すでに書き上げたところまでは順次投稿していくので、気が向いたら読んで「あー、確かにこれは失敗したな」と思って頂ければ。


 書き直し分は、月曜から今度こその連載開始を目指していければと思っています。申し訳ありません。

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