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国王の執務室にて

床に這いつくばらせたラビニアを魔術で引き起こしながら、ロアはラビニアの取り巻きの青年たちやメイドの方へと視線を向けた。


意識を刈られず残っていた数名のメイドは皆、チェルカに陰湿な嫌がらせをした者たちだ。


全員が体を硬直させたまま口を開く事も出来ずに怯えた目でこちらを凝視している。

そんな彼らにロアは告げた。


「お前らのように最初に意識を失わず今も立っている奴らは全員、クロビス・アラバスタと同じく一般解呪の対象者だ。他の者は次に目を覚ました時には王女の魅了から解放されているが、お前たちはせいぜい苦しみながら解呪されるがいい。ちなみに、その硬直は解呪が始まるまで解けねぇからな。マネキンのように運んで貰うことだな」


ロアの言葉に、皆一様に絶望に満ちた目をした。

表情が動かせないにも関わらず目の動きだけでその感情が他者にもわかるほど、彼らはロアが下した処断に銷魂した。

その(さま)を見てジスタスがぽつりとつぶやく。


「うわぁ……容赦ないですなー……」


「本当なら全員、顔の形が変わるほどに殴り倒してやりたいのをこれでも我慢してるんですよ。まぁ女を殴るわけにはいきませんが……」


「そんなことをしても、ローウェル君は喜びませんもんねぇ」


「だから正規の法に基いた処置をしてるんです」


「それが正解だと思います。それで、これから王女をどうされるおつもりですか?」


ジスタスの質問にロアは術により宙吊りにされたラビニアを一瞥して答える。


「保護者の元に連れて行きます。そこでこの女がこれからどうなるか、本人と保護者に理解させる……ですね」


「理解させる?ガードナーさんが罰を与えるんじゃないんですか?」


「俺が手を下さなくてもコイツの末路は決まっていました。()()と契約を結んだ時点でね」


ロアがそう言うと、魔術師であるジスタスには凡その事が解ったようだ。

途端に堅い表情となり、王女を見ながら言った。


「……王女が契約したのは魔法生物ではないんですね……?」


「そういう事です。どうしますか?一緒に来ますか?」


ロアがジスタスにそう訊ねると、彼は小さく頷いた。


「この国に仕える魔術師として、最後まで見届けます」


「それは重畳。では行きますよ」


その言葉と共に空間が歪む。

ジスタスはロアが空間転移を行ったのだと瞬時に悟る。

次に視界に入ったのは、国王の執務室であった。

執務室というにはあまりに広く、まるで美術館のような部屋だ。

美しいものに目がなく、美術品を集めるのが趣味だという国王の珠玉のコレクションが所狭しと飾られている。


それらを見たジスタスが小声で言った。


「……なるほど。過剰な審美眼からの、美しい王女への溺愛ですか……」


「ち、娘も美術品の一つかよ……だから躾も何もなってねぇんだな」


ぽつりとそう唾棄するロアと宙吊りにされた娘を見て、国王は驚愕に満ちた声を荒げた。


「なっ……なんだ貴様はっ!?ラビっラビニアに何をしたァっ!?」


「大陸憲法で重罪とされる罪の一つを犯した王女をこれより連行します。いずれ大陸裁判にかけられるでしょう」


裁判まで保てばな、とロアは心の中で付け足した。


「大陸憲法違反!?ま、待てっ、ラビニアのように純粋で虫も殺せないような愛らしい娘にそのような罪を犯せるわけがないだろうっ!」


「純粋?虫も殺せない?……この状況下で何も深く考えずにペロっとそう言える事が、この醜女(王女)の罪を立証する一つなんですよ」


その時、突然現れたロアたちにしばし呆気に取られていた側近や護衛騎士たちが我に返って口を挟んできた。


「き、貴様ら何者だっ!?陛下の御前で無礼であるぞ!だいたい執務室には転移魔法を防御する術が掛けられていたはずっ……それを掻い潜り、どうやってこの部屋へ侵入したのだっ!」


側近のひとりのその言葉に、ロアはしれっと答える。


「どうって?普通に転移して来ただけだ。あんな程度で防御魔法とか笑わせるな」


「な、なにいっ!?」

「貴様っ……!」


中の騒ぎを聞きつけ、国王の護衛騎士たちが次々に執務室へ入って来て抜剣(ばっけん)した。

それを見てジスタスが慌てて騎士たちに告げる。


「や、やめておきなさいっ!キミたちが何人束になってかかっても敵う相手ではないよっ!」


「なんだと……?」

「たかが若造ひとりに、我らが引けを取るとでも言いたいのかっ」


騎士たちが今度はジスタスに食ってかかる。

ジスタスは嘆息しながら頷いた。


「はいそうですよ。この国の全騎士と全魔術師を投入しても、彼のローブに埃をつけることすら出来ないでしょうな」


「何をデタラメな……」


ギリギリと歯噛みする騎士にロアが言う。


「なら試してみるか?」


「調子に乗るなよ若造が!」


ロアと騎士たちが一触即発となったその時、困り果てた声を出しながら執務室に王太子アルマールが入室して来た。


「もー……ガードナー特級魔術師。先に移動するならそうと言ってください」


「お、王太子殿下っ!?」

「アルマールそなたっ……ハイラムに居たのではないのかっ」


突然現れたアルマールの姿を見て、国王と騎士たちは目を丸くして彼を見た。


そんな彼らを他所にロアがアルマールに返事する。


「申し訳ない!あまりにも醜女に苛ついて失念しておりました。それで、頼んだ物は取って来て頂けましたか?」


「仕方ないですねぇ……。ええ、王家の蔵書庫から持ってきましたよ。異母姉(あね)上が読んだと思われる魔導書を」


アルマールはそう言ってロアに一冊の魔導書を手渡した。


「ああ、これに間違いないですね。王家の禁書ですから、殿下に取りに行って貰うしかないでしょう?蔵書庫は王族以外立ち入り禁止なんですから」


「でも貴方ならどんな場所でも勝手御免で自由に出入り出来るでしょう?」


「そりゃあまぁ。だけど出来るからこそやってはいけない☆と昔から師匠に言われてきましたからね。規則は守らないと」


「なるほど。さすがは高名な大賢者です!さぞご立派で偉大な人格者なのでしょうね!」


「………………うん」


ロアはこれ以上自分の師の人格についての明言を避けようと思った。


ロアとアルマールの会話に国王や側近たちが唖然として見ている。

そして徐に国王が息子である王太子に言った。


「アルマール……そなた、その()れ者の事を知っておるのか……?」


アルマールは父親の方へ向き直り、それに答える。


「父上、痴れ者だなんてとんでもないです!この方はロア・ガードナー特級魔術師。かの高名な大賢者バルク・イグリード様の唯一のお弟子さんですよ。父上も名前くらいはお聞きになった事があるのでは?」


「大賢者の弟子っ……!?」


国王をはじめ、執務室に居た者たちが騒然となる。

騎士たちの中では構えていた剣を下ろす者、剣を鞘に戻す者が続出する。

それを見たロアがひとり()ちた。


(あんなん)でもネームバリューは相変わらずということか。俺が、というより師匠の名前にビビってやがるなコイツら」


そしてロアは吊り下げられたまま眠っているラビニアをベチッと床に下ろした。


「ぎゃうっ」


変な呻き声をあげてラビニアは意識を取り戻した。


「おおっ……!ラビニアっ!」


「お父様ぁっ~~!」


身を案じて駆け寄った国王にラビニアはしがみついて言い募る。


「あの男、酷いのですっ!わたくしの事を悪く言ったりみんなを虐めるのです!早く捕まえて処刑してくださぁい……!」


ラビニアの泣き言に国王ではなくロアが返した。


「何が処刑か。死ぬのはお前だ、王女。いや……人間の法の下でひと思いに処刑される方がどれだけいいことか」


「は?何をバカなことをおっしゃっているの?」


「お前はこれから、自ら犯した罪の代償を支払う事になるということだ。他者を使うのではなく、自分自身でな」


ロアはそう冷たく言い放ち、魔導書のとあるページを開いた。






────────────────────



次回、いよいよ王女の末路がわかります。

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