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「……大賢者……?五百年以上生きてるという、あの有名な?この方がその有名な大賢者の弟子なの?」


目を瞬かせながらラビニアがそう言った。

それまで腹立たしげに不機嫌さを撒き散らしていたというのに、ロアが高名な魔術師だと知ると途端に別人のように声のトーンを上げて目を輝かせた。


「そんな貴方が忠誠を誓う相手とは……チェルカって、クローの婚約者のあの冴えない女よね?あんな地味な子に忠誠だなんて……今まで周りに残念な女しかいなかったのね、かわいそうに……」


ラビニアはそう言ってロアに撓垂れ掛かるように隣に立ち、下から長身の彼を覗き込んだ。


金色の瞳を縁どる長いまつ毛を優雅にはためかせて潤んだ瞳をロアに向けた。

()()魔力を色濃くして。

が、その途端に……

「ぎゃっあっ!?」

ロアは王女の目を人差し指と中指で突こうとした。

所謂“目潰し”をしようとしたのだ。

まぁ恐らくロアにしてみれば本気で突こうとは考えていなかったのだろう。

思わずムカついてふざけてやったくらいの感覚だと思われる。

現にラビニアでも(すんで)のところで顔を後ろに下げてロアの指を避ける事が出来たのだから。


「ちょっと!危ないではないのっ!」


ラビニア的には九死に一生を得て、再びヒステリックな声を出してロアに抗議した。

瞳術を用いてロアに魅了を掛けようとした自分の行いを棚に上げて。


「危うく目に当たるところだったのよっ、なんて酷いことをするの!?」


「黙れ醜女(しこめ)


「しこっ……?」


この悪口も、今まで悪意ある言葉を向けられた事のないラビニアにはどう反応してよいのかわからない。

そんな彼女にロアは恐ろしく低い声で告げる。


「この俺に魅了を掛けようとしやがって。生憎俺の方がお前と契約している魔法生物より遥かに魔力が上だから屁でもねぇが、今度ふざけた真似をしやがったら本当にその両目をくり抜いて魔獣の餌にするからな」


「……ん?え?」


どうやらラビニアにはロアが言った言葉の半分も理解できなかったようだ。

今まで自分に心地よく都合のよい言葉しか耳にして来なかったせいか、単に頭が悪いのか、あるいはその両方か。

そう考えるロアの耳元で近くにいた精霊が“その両方だよね☆”と囁いた。

「ふっ……そうだな」

ロアが吹き出しながら同意する。


だが、ラビニアには悪口の意味が理解できなくてもクロビスや取り巻きたちにはその言葉を当然理解し、憤慨する。

皆、口々にロアに向けて訂正しろだの謝罪せよだのと喚き散らしてきた。


それをロアは鬱陶しそうに、自らに(たか)る虫でも払うかのように手を振る。

すると途端に、取り巻きたちの口がまるで縫い付けられたように開かなくなってしまった。


種明かしをすると、水の精霊(ウィンディーネ)に命じて唾液を糊のよう変質させて物理的に口を開けないようにしたのである。

なぜなら、当然唾液には“水分”が含まれていて……まぁここら辺の説明は汚いので割愛しよう。


しかしロアはクロビスだけは口が利けるままにし、封じていた体の動きも解放した。

他の者とは逆に、突然自由を取り戻した自身の体に驚くクロビスにロアは言う。


「可愛いチェルカを冴えないとか地味だとかほざく女にうつつを抜かすなど俺には理解できん。まぁ王女の魅了に掛かっているお前に何を言っても無駄だろうが」


「確かにチェルカは可愛いけどっ……それでもラビニア様には到底及ばないよ……!」


クロビスのその発言に、ロアは訝しげな顔をする。


「やっぱりお前の術の掛かり方が奇妙なんだよなぁ……普通、魅了を掛けた術者に精神の全てを乗っ取られて自我は残らないはずなんだが……王女に対する愛情を植え付けられてもチェルカへの好意も残しているとはな。まぁよほど強い精神力の持ち主なら例外もあるが……しかしお前がその強い精神力の持ち主とも思えんしなぁ」


「な、なんだよっ、何が言いたいんだっ」


「……それだけ元のお前はチェルカの事が好きだったという事か。長い付き合いで無意識に漏れ出すチェルカの魔力に多く触れていたのも大きいだろうし……だが、それでも魅了にかかったのはお前の心に隙があったからだ。あの醜女に対して少しでも可愛いだの、憧れだのという恋情に変わりかねない感情を抱いた所為で簡単に術中に堕ちたんだ」


ロアがそこまで言うと、副師長ジスタスが確認すかのように訊いてきた。


「王女に対し、多少なりとも邪な心があったということでしょうか?」


「ああ。スケベ心に付け込まれたんだこいつは」


「なっ……!」


「なるほどスケベ心ですか」


あけすけに言うロアと感心して納得するジスタスにクロビスは反論する。


「違うっ!僕は純粋にラビニア様を敬愛してっ……!」


「嘘つけ。正直に言ってみろ?お前、王女をオカズにした事があっただろ」


ロアの言葉にジスタスが眉根を寄せてクロビスを見る。


「うわっ……キミ、王女でヌイたの……?」


「やめろよ!ラ、ラビニア様の前でなんて事言うんだっ!!」


「なにカッコつけてんだこのスケベ野郎が」


「スケベは仕方ないとしても婚約者がいる身で他の女性でとは……いただけないなぁ」


「うるさいうるさいうるさいっ!!」


ロアとジスタスとクロビス、三人の会話をラビニアは意味がわからずきょとんとして見ていた。

「………オカズ?ヌク?なにかしら?それ……」

王女として下ネタなど聞いたこともないラビニアには当然の反応だろう。


クロビスは慌ててラビニアに言い訳をして誤魔化す。


「ラビニア様っ……僕はただっ……じゅ、純粋に貴女様を愛しているのです!」


「何が純粋だ。てめぇ、チェルカもオカズにしてやがったら腐り落ちる呪いを掛けてやるからな」


「僕にはラビニア様だけだ!」


「じゃあなんでチェルカと婚約を解消しないんだよ」


「それはチェルカの事も好きだからだよ!それにどんなにラビニア様を愛していても結婚はできないからっ……だから」


「ローウェル君で欲を晴らそうと?うわぁ最低ですね」


軽蔑に満ちた目をクロビスに向けるジスタスの隣でロアが射殺さんばかりにクロビスを睨みつける。


「このっ腐れ外道、今すぐ呪いを掛けてやる」


「ヒッ、ヒィッ!ヤダよ!や、やめろよ!」


クロビスは恐怖に慄きながら股間に手を当てた。

それをやはり不思議そうに見つめるラビニア。

はたから見たら何とも言えないカオスな光景である。

そして空気が読めないラビニアはそんなクロビスに甘ったるい声で話しかけた。


「どうしたの?クロー、あなた大丈夫?」


「ラビニア様っ……なんとお優しいっ……!」


「優しくねぇわ。そいつは醜い上にクズだぞ」


「み、醜いだとなんてっ!こんなにお美しいラビニア様をさっきから醜女醜女と言って!キミは目が腐っているんじゃないのかっ!?」


「目が腐ってるのはお前だよクロビス・アラバスタ」


「はあっ!?そ、そんな訳はないだろっ!」


「可愛いチェルカが婚約者という恵まれた立場にありながら一瞬でも他に目が行くなんて俺には信じられん。目どころか脳ミソも腐っているとしか考えられんな」


「なんだとーーっ!確かにチェルカは可愛いけどラビニア様のような美しい方が近くにいて心が動かない男なんて居るわけないじゃないかー!」


「さっきから何ですのっ?皆してあの地味女を可愛い可愛いと連呼して!わたくしの方が女性として優れているのに!」


ずっと喚き続けるクロビスと一緒になってラビニアまで喚き出し、辟易としたロアが言った。


「うるせぇなぁ……じゃあ以前の自分に聞いてみろよ?本当にその醜女にチェルカ以上の価値があったのか」


「え?」


「は?何を……」


訝しむクロビスとラビニアを他所に、ロアは

クロビスの足元に魔法陣を出現させた。


複雑な紋様のように刻まれた精霊文字と古代文字(エンシェントスペル)

その陣から強烈な光が発せられ、側にいたラビニアはその光からまるで拒絶されたかのように弾かれる。


「きゃあっ!?」


一瞬何かが破裂するようにバチンという音と衝撃を発し、ラビニアは後ろに飛ばされるように尻もちを突いた。


ロアは精霊の言語で術式を詠唱する。

精霊魔術による解呪の方法であった。


そして陣から発せられた光がクロビスの全身を包み込み、やがて唐突に光が消えた。


クロビスは自身の身に何が起きたのか訳が分からない様子でわなわなと震え出す。

そして、

「うっ……うわっ……くっ……う、」と小さく呻き声をあげて頭を抱えた。


その様を見ながらロアが言う。


「一時的にお前を魅了の洗脳から解いてやった。今までの己の行いを振り返ってみろ。チェルカに言った言葉、チェルカに示した態度、その全てを振り返り、それでもその醜女の方が素晴らしいと言えるのか是非俺に教えてくれ」






───────────────────




次回、クロビス、懺悔タイム。


これからのざまぁ展開について。

作者の考えをXにポストしています。

もしよろしければお読みになって頂いた上でこれからの断罪を見届けて頂けましたら有り難いです。






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