雪山の雪ん子
『第5回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』参加作品です。
テーマは『雪山』。
普段と違うテイストをお楽しみください。
昔々、ある山の麓に小さな村があった。
その山は冬になると雪で真っ白になる。
山がすっぽり雪に覆われると、そこに手の平に乗るくらいの小さな雪ん子が現れる。
雪ん子は雪の精。
息を吹いては雪をあちらこちらに振り撒いた。
そんなある年の冬。
人の子ども程の大きな雪ん子が生まれた。
他の雪ん子達は少し戸惑ったが、雪ん子には違いない。
一緒に遊ぼうと誘った。
しかし雪ん子達が口から雪混じりの息を吐いて、ぼこぼこした雪を滑らかにしていくのに対して、大きな雪ん子はどう頑張っても口から雪が出ない。
それどころか力んで息を吸うと、周りの雪を吸い込んで大きくなった。
ごくんと飲み込むと元の大きさに戻ったが、お互いどうしたら良いのかわからず戸惑っていた。
そこに村の子ども達がやって来た。
毎年この山が雪に染まると、決まって子ども達は雪ん子達と遊ぶのだった。
「あ! おっきいのがいる! おら達とおんなじくれぇだ!」
子ども達は大きな雪ん子が珍しく、大喜びで遊びに誘った。
雪ん子達が滑らかにした雪の坂をそりで滑るのだ。
大きな雪ん子が子ども達と楽しそうに滑るのを見て、雪ん子達も笑顔になった。
子ども達のお陰で大きな雪ん子と雪ん子達は、仲良く遊べるようになった。
そうして数ヶ月が経ち、梅の蕾が開き始めた。
雪ん子達は春になれば雪と共に山に溶ける。
そしてまた翌年、雪の中から生まれるのだ。
大きな雪ん子は、また大きな姿で生まれたい、と思っていた。
その時だ。
「じ、地震だ!」
山が、村が、大きく揺れた。
揺れはじきに収まったが、今度は山から不気味な音が響いて来た。
雪解けで緩くなっていた雪が、雪崩を起こしたのだ。
「みんな! おらの後ろに!」
大きな雪ん子は、迫る雪崩に向かって大きく息を吸った。
雪崩はどんどん吸い込まれていき、大きな雪ん子はどんどん大きくなった。
だが雪崩の勢いは収まらない。
小さな山のようになった大きな雪ん子は、心の中で雪ん子達に呼びかけた。
『このままおらを固めてくれ。そうしたらおらは岩になって、村に来る雪崩を逸らせる』
雪ん子達は戸惑った。
ここで固めたら、雪ん子として蘇る事はない。
しかし、
『この子達を、そのおっ父おっ母を、雪崩になんかやりたくねぇ!』
その強い意志に、雪ん子達は頷いた。
ある山の麓に小さな村がある。
村と山の間には大きな大きな白い岩が、村を守るように立っている。
村の人はその岩を『雪ん子岩』と呼んで、今も大事にしているそうだ。
おしまい。
読了ありがとうございます。
最初は雪山で、いかに裸で暖め合う展開に持ち込もうか画策する女の子と、それを冷ややかに見つめる男の子の話を書こうと思ってたんです。
どうしてこうなった。
次回は温泉。
どうしようもなく甘々になる予定です。
よろしくお願いいたします。