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盲腸で入院してみた話  作者: のろろん
4/22

1日目ー④

 急患室の診察台ベッドに戻った。


 少しじっとしていてくださいと言われたが、急にまわりに人が集まってきた。明らかに先ほどまでと違う。入れ替わり立ち代わりで人がうろうろとしている。


 さっきまでと違い診断がはっきりしたため、具体的な処置が決めやすくなったのだろうか。



 急患室で最初に問診を受けた先生から血液検査などの数値を聞き、それに対する判断結果の説明を受けた。


 白血球数が異常に多い。通常の10倍程度はあるとのこと。


 自分の認識でもちょっと怪我をするだけでも白血球は大きく増える。やはり何かしら炎症が起きているのは間違いないようだ。


 以前怪我をしたときも白血球の数値は2桁変わるくらい増えたことがあった。


「虫垂炎の可能性が高いと思われますが、念のため腹部の画像診断をしてもらいます」


 あっという間に次々にするべきことが決まっていく。CTを用いた画像診断、より精度を高めるため造影剤も使用するとのことだ。


 

 すぐに部屋を出るように言われ、そのまま撮影室に行くことになる。



 案内してくれる看護師さんの後ろを無言でついていくが、病院にきてから随分歩き回っている気がする。


 病院に着いてからみんなこんなに動かないといけないのだろうか?もっと痛みのひどい時もこうなるのだろうか?


 それだとかなりつらそうだ。そんな状況だったらと想像して思わずびくっと身震いしてしまった。



 CT室に着くと既に準備がされていた。


 中央に大きなドーナツがあり、その中心の穴を通り抜けるようにベッドがある。そんな機械が設置されている。


 その脇には造影剤がセッティングされていた。


 造影剤の入れ物がでかい。


 投薬は100ccと聞いたが、注射器状の目盛りのついた容器が異様に大きく見える。なんだか人体実験でもするときの道具のような威圧感があった。


「じゃあ点滴打てるようにちょっと準備しますね」


 おそらく虫垂炎が確定した場合もしかしたらしなくても、炎症などを抑えるために何度も点滴を打つ可能性が高いのだろう。


 これまで点滴を打たれたことがない身としては、点滴は金属の針を刺すのだと思っていたが、どうやら違うようだ。


 毎回針を刺されるのは気分的にもつらいため、接続用の細いチューブを血管に挿入し、入り口を作ることになった。


 刺すときはちくっとするが、いったん刺してしまうと、あとは細くて柔らかいパイプが血管の中に入っているだけだ。


 つなぎ口から接続するだけで次回からは針で刺さなくてもすむようになる。


 ささったパイプ部分はかなり柔らかいようで、軽く腕や手を動かすくらいでは痛みもない。


 強力な粘着テープで固定されると、よほど強く手を握りしめたりしない限りは抜けそうになかった。



 それが終わると金具のある服を全て脱ぎベッドに横になる。Tシャツと短パンだけだ。


 看護師さんから検査の説明を受ける。特に造影剤についてだ。薬液を入れた容器からのチューブを、先ほど左手の甲に刺した


「薬剤を入れると、入れたところから、カーっと熱くなりますけど、気にしないで下さい」


 そう言われた。一瞬意味がわからなかったが、投与が始まると言われた意味がすぐにわかった。


 熱いというわけではないが、室温に保管されていたとしたら25℃くらいであるはずの液体だ。体内に入れたら冷たく感じるはずだが確かに熱い。


 体に入ったところから順番に、腕から脇腹、そして、足の付け根から太ももの内側あたりまで、ぬるま湯が流れ行くような妙な感覚がする。


 ここが大きな血管のあるところなのかな、そうわかるくらいはっきりと局所的な感熱があった。


 しかしそのぬくもりもそう長くはない。膝から下や臍より上は熱くない。せいぜい30秒くらいですぐに熱さは感じなくなっていった。


 ふと横を見ると先ほどの大きな注射器状の容器がしっかり根元まで押し込まれている。


 100ccあったあのサイズのものが、せいぜい10か15秒くらいの時間で全部体内に入ったことになる。

 

 こんな勢いでいれてもいいのか?


 ふつうの血の流れに加えてあれだけの液体が流れていくのだとしたら、血の流れって思っている以上に早いのだと実感した。実際温かい場所が移動するためはっきりとわかった。


 献血だと400㏄抜くのに10分弱はかかるのに、短時間であれだけ入ることも驚いた。



 そう思っていると待機部屋から声がかかり撮影が始まる。


 息を吸って、止めて、そうした指示が何度かあり、その都度撮影が行われているのだろう。数回の指示にて撮影は完了し、退室してもよいとの許可がでた。



 服を着なおして戻ると当初の急患対応の先生はいなくなっており、あきらかにもっと年配の先生が待っていた。


 しばらく何やら指示をしたあとこちらにやってくる。にこやかな笑みだ。すぐ横に看護師さんもついている。いろいろと状況を説明されたあと、最終的に帰れないよ宣言があった。


「えー、というわけなんですが、今日は経過観察も兼ねて泊っていただきます。明日、手術の予定が空いているんですよ。どうします? 今なら明日対応できますよ」


 うっと唸る。


 虫垂炎といえば薬で散らすという対応もあるはずだが、いきなり帰れないときた。


 しかも思ったより深刻なようで、腫れている部分が大きく、下手すると根元から大腸部分まで炎症が広がっているらしい。

 

 超音波診断の時も見えたが、虫垂に明らかな固形物がつまっているとのこと。これが引っかかって炎症を起こしている可能性が高いということだ。


 そうなると、仮に今炎症を抑えたとしても、この根本的に詰まった異物を取り除かない限りはいつ再発してもおかしくないことになる。


 手術、そもそも病院にすらろくにきたことがない。たしかに入院ということにまったく興味がなかったわけではないが、それが目の前で選択する状態になると、やはり避けられるなら避けたくなる。


 うーむ、どうするか。


ゆっくりと考える時間はなさそうだが、即決できるほど心は決まっていない。


 ただ詳しく聞くといくつか選択肢はあるらしい。


① とりあえず今回は薬で炎症を抑え、次回に再発するまで様子見。しかし、今日は入院


② 一旦薬で炎症を抑え、切除する部分を減らす=最悪でも大腸を確実に切らずにすむところまで改善させる。入院必須。


③ 明日手術。入院必須。


 この3つを示された。


「わかりました。では一旦帰って考えます」


「いや、今日は帰れないって。状況を見るから」


 

 やはり動揺しているのか? 


 そうだったと思いなおす。今晩は悪化するかもしれないから2、3日様子を見ると言われていた。


 ついさっきまでは入院ってどんなんだろうと思っていたことは事実だ。だが選択肢がなく確定となると一気に緊張する。おまけに手術についても今決めろという状況だ。


 どうするべきか、どちらにも一長一短がある。しかしゆっくり考える時間はあまりなかった。


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