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盲腸で入院してみた話  作者: のろろん
3/22

1日目ー③


 病院の受付についた。すでに受付時間は過ぎているためか人が少ない。


 ようやくほっと一息つける。これで最悪何かあっても行き倒れにはならない安心感がある。


 一方で予測していたことではあるが、自分が診察というスタートラインにようやく立ったということを認識する。


「先ほど電話で連絡したものですが?」


「聞いています。まずは、体温と血圧をそちらで測定してください。それから問診票をお書きください」


 言われるままにすぐそばにある機械で測定した。血圧は120/74、心拍は69でごく普通。非接触で検温されたが、特に体温も上がっていないようだ。直接は見れなかったが37.5℃はなかったと思われる。


「アレルギーなどの既往歴はありますか? 過去の手術歴は?」


「特にありません」


 心臓病などをわずらったこともないし、過去の病状なども聞かれるが既往歴はない。正直、お薬手帳も持っていないくらいだ。


「では急患の待合室でお待ちください」


 そう言われてそのまま待合室まで移動した。



 数人の他の急患の方々がいる。


「では、ただいま混んでいますので、1時間程度はお待ちいただくと思います」


 そう案内の方に言われた。



 これは予測していたことではあるが、恐れていたことでもあった。スタートまでが長い。



 幸い現時点では歩き回れる程度の痛み、みぞおちの下あたりからヘソの上あたり全体が痛いだけだ。


 移動中に調べた情報も踏まえると、虫垂炎は右下だから位置が違うが序盤はこのあたりが痛むということが記載されていた。これが徐々に右下に移動して全体的に痛くなるようだ。


 七転八倒するような痛みではないが、これがギリギリまで粘った状態でさらに1時間と言われたら致命的な気がする。


 本当に重度な症状があるのか、ただの下痢程度なのかは別にして、少しでも早く来院したことに安堵した。



 痛みの変化もなく時間は無事に過ぎ去っていく。


 やったことと言えば、スマホを使ってひたすら虫垂炎を中心とした腹部の鈍痛の症状についての情報収集だ。


 虫垂炎は徐々に大腸に沿って痛みが移動していくとも書いてあるが、イメージがついたせいか、そう書かれると痛くなったような気がする。


 気のせいなのか本当の痛みなのか曖昧になっていく。だが致命的と言うほどの痛みがない状態のまま、なんとか自分の名前が呼ばれた。


 学習に集中していたからか1時間は比較的短く感じた。



 急患室に入る。


 そこそこ大きな病院なだけあってけっこう広い部屋だ。ざっと見ただけでも10弱くらいは診療用のベッドやスペースらしきものが見え、20人程度はスタッフがいた。


 指定されたところに座り今日の当番医に問診を受ける。男性だ。見た目からして新米の医師ということはなさそうだ。


 受付で言ったことを整理しつつ基本的には同じ話をするが虫垂炎のことが気になるため、それらしいことを匂わせる話し方になる。いろいろと受け答えする中で、やがて腹痛から虫垂炎に関する質問をされた。


 いつごろ(午前3時半くらいから)、どこが(みぞおちとヘソの間くらい)、どんな痛み(にぶい痛み、我慢でき強さに波がある)、熱は特になく、早朝あった吐き気も今はないこと、そして歩くときも少し痛みがあるため前かがみになっていることを2分ほどで伝えた。


 事前に聞かれることを想定していたし、事実であるからよどみなく話せた。


 受付など今までと違うのは、それなりの会話の中でこれが最後の説明だろうとの安心感があること。紐づけされた追加の質問がくるくらいだ。


「そちらに横になってください。服を脱いでシャツだけになってください」


 そう言われ奥の診察台に寝かされ触診された。


 そういえば完全に横になるのは部屋を出て移動してからは初めてかもしれない。水平に寝るだけだが、少しお腹が反るような形になり『張り』を感じた。


 天井が目に入る。


 その横の通風孔に埃がたまっており、埃が揺れているのが見える。ここにも異物があるななどと思いつつ、どこが痛いか実際に触診されながらの確認が続いた。


「うーん、昨日、何かへんなもの食べました? 吐いたりはしましたか?」


「吐き気はありましたけど、朝吐いた限りでは胃液くらいしか出てない気がします。食べ物はでなかったですね」


「うーん、そうだなぁ。そのわりに痛がってないのが気になるけど。ちょっと立ってみてください」


 調べた内容にもあった。虫垂炎の場合は飛び跳ねたりして揺するとそれなりに痛みが変化するそうだ。


 爪先立ちになり踵を落とす。あるいは少し勢いをつけて飛び上がってみた。


 ストン


 そんなに全力で飛び上がってはいない。そのせいか痛みの増減もわずかな変化しかない。


 過去に食中毒になったこともあったが、そのときは出すものを出すと楽になった記憶がある。出し切った後も徐々に痛みが増していく今回は違う気がする。この2時間を振り返ると、今後もさらに痛みが増していく予感がある。


 そう思うとやはり飛び跳ねると痛みが強くなる気がした。



「飛び跳ねるとやはり少し痛みが増す気がします」


 嘘をついても仕方ない。思った通りに言う。


 先生も大変と思う。患者から言われたとおりに信じていいのかも含めての判断になる。騙そうと思ってるわけではないが、こういう主観的な判断を正しく見抜くことは難しい気がした。下手に会話を誘導してしまうとそれに沿った結果になりかねない。


 一方で自宅に戻ったこと、特に外国でなかったことには安堵する。


 外国語だとズキズキ痛いってどういうの? 考えても思い浮かばない。そもそもそういう表現があるのか。


 虫垂炎の単語は知っていたが、正しく伝えられる気がしなかった。



 先生は悩んでいるのがわかる。それでもそう長くはかからない。跳躍で痛みが増すと説明したこともあり、良いかどうかは別にしてとりあえず虫垂炎前提で検査していくことになった。


 しかし何か違うと思われているのもわかる。そんな中、すぐにその場で血液検査のための採決をする。負圧式ではなく指で吸引するタイプ、10cc程度の注射器だ。献血慣れした身としてはこのくらいはなんでもない。もちろん、ちくっと痛みはするが。


 アルコールの反応を聞かれたくらいでサクッとクリアする。



 次は超音波だ。一度部屋を移動しする。


 部屋に着くとまずは心電図を測定された。心電図は吸盤式ではないようで、シールのようなもので端子をつけて測定するらしい。


 検査するのは比較的若い女性の方だ。看護師さんだろうか。


 しばし会話をしながらの測定だが、心電図は問題なしだった。



 そしてそのまま道具が入れ替わり超音波だ。


 ローションのようなものを塗りながら、少しぐりぐりされる。ヒヤッとした感覚がある。


 仰向けに寝ているからか痛みは幾分和らいでいたため、自分も横目でモニター画面を見ることができた。


 右上から順に、胆嚢など他の所も順に検査されているらしい。そして右下、虫垂付近にプローブが移動した。


 それまでなんとなくグレースケールの映像の中に、一際白っぽい何かが見えた気がした。そこを重点的にチェックされる。


 歯医者でここですかーぐりぐりとされるように、超音波検査のエコープローブが何度も腹部に当たる。


 あたたたっとい痛みが増す一方で、その痛みがあることは予測通りだった、これではっきりするとの安堵が痛みを中和し、安堵も増す。


 もちろん看護師さんは一気に緊迫しているようだ。


「ダブルチェックをしますので少々お待ちください」


 そう言うと奥からベテランっぽい看護師さんをもう1人連れてくる。


 もう一度簡単にプローブでのチェックがあり、話の状況からどうやら同じ判断になったようだ。


「では、外に出て先ほど診療を受けられた部屋に戻ってください」


 結果は言われなくても予測はついたが、そう言われ急患室に戻ることになった。


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