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盲腸で入院してみた話  作者: のろろん
21/22

退院後①

 10時半過ぎ、今日は快晴だ。1週間ぶりに浴びた太陽の光は眩しくて暑かった。


 目の前にうどん屋と定食屋がある。病院職員御用達だろうか?


 今日からは何でも食えることになる。もともと消化器系でも大きなダメージは受けておらず、マグロカツを食った後なら大抵は食えるはずだが、そういえば昼は自前で用意しなければならない。


 開放感もあるが、ノルマ(昼飯とか、掃除、洗濯)もくっついてくる。好きにしてご飯が出てくるまで散歩していいのはおしまいだ。


 10分歩いた。カバンは重くはないが、歩くとしっかり汗が出る。拭けるほどの汗が出たのは入院前以来だろう。ふと生き慣れたスーパーが目に入った。昼を買って帰ろうと思い立ち寄った。


 この6日間おやつを食べていない。昼ごはんよりそっちが気になるが、炭酸はお腹が膨れそうだし、スナック菓子も躊躇われる。カラダがまだ早いと言っているのか。結局チョコもポテチも買う気にならず、とパックうどんとかき氷タイプのアイスだけ買った。


 家に着いた。買い物していたから病院出たから30分ほど経っているが、それでも12時までにはまだ時間がある。


 たった6日しか経っていないが見慣れた玄関も久しぶりだ。扉を開けて、見慣れた部屋を見る。


 買い物したものを整理して最初に床に寝そべってみる。手すりがない状態でうまく寝ころべるかを試すため、そっと慎重に腰を下ろし腕を使って寝そべる。床に直接寝転がるため、けっこうお腹に力が入った。立ち上がり時も同じだ。


 パソコンデスク椅子もゆったりしいるため腰が沈むようで、これもお腹を曲げ気味にしないといけない。地味な痛みがあり、とても良い姿勢でないと、お腹が圧迫されることに気づいた。姿勢よく座れる食事用の椅子を取ってきた。それぞれの場所で最適姿勢を探す。


 昼食後はもう一度買い物にいく。信号を渡ろうとしたら点滅になり、少し駆け足になった。早歩きまでは問題なかったが、さすがに飛び跳ねると少し痛みがある。ただ張り付いた血のりでも剥がれているのか、パリパリという音がする。10mほど小走りに進むと痛みが減った。こういう刺激もほどほどには必要なように思えた。


 無理はしないようにする一方、普段の生活に近づけていかないといけない。難しいところだ。


 重いものは持つなと言われたが、牛乳や飲み物をいろいろ買うと10㎏くらいにはなった。わき腹に当たらないように持てば、このくらいは問題なさそうだ。だが家まで帰ると、往復で30分とかかっていないのにかなり疲れた。結局そのままひと眠りしてしまった。


 移動するので疲れたようで、初日は結局そのまま終わった。風呂も言われた通りにシャワーだけにした。


 翌朝、座り仕事はできそうだったが、いいのか悪いのか今日は休めと言われた。仕事はたまってそうなものだが、一日座れるかどうかの懸念もあった。出張等移動もあるため、まずは生活できるか、移動できるかを見極めろという意味でもあり、大人しく言われた通りにした。


 そう言われて向かった先は保険屋だ。


 保険申請の給付は初めてだ。そもそも普段は引き落としのみなので、手続きですらきたことがない。出迎えてくれた女性の担当者は会った記憶がない。見た目から社会人になって数年は経ってそうな方だが、いつの間にか担当者の世代も変わっているようだ。


「今回は大変でしたね。わざわざお越しいただきありがとうございます」


「えぇ、まぁ、幸い無事終了しました」


「痛みなどは大丈夫でしたか?」


「幸い早めに行けたのと、手術が翌日だったのがよかったですね。タイミングがよかったです」


「そうですか。お疲れ様でした」


 何世代目かの担当者と自己紹介を兼ねた世間話をする。


 用事がないと会うこともないのはなんとなく決まずいが、事務所にきたからかお菓子をいただいた。手術後の病人におかきとは、いいのかわからないが遠慮なくいただき、申請手続きに入った。


 手術関係の申請は、当初の確認通り、やはりそれなりの高ランクの手術の要だ。領収書でも貼り付けるのかと思っていたが、どうも写真撮影ですむらしい。

 

 事前に持ってきた支払い時の領収書、その中にあった明細書に手術名や投薬などの詳細リストが書いてある。念のため紙面の記載内容を確認してもらった。


 ダブルチェックも兼ねて、すぐにもう一人


 これをタブレットで写真を撮り、そのまま所内のどこかにアップしてもらうだけだ。そのまま10分ほど待機。無事アップデートと、社内での承認が完了したのだろう。


 郵送して、同意の手紙をもらって、不備がありましたなどと言われる手間が対面だと一気に終わる。




 この日は思った以上に歩き回った。お腹は歩く分には痛くない。時折小走りもいい刺激になるのだろう。保険の申請、食料、平日なので銀行の手続きなどで歩き回る。荷物は軽いが万歩計は15000歩近い。いい運動になった。


 歩くことは問題なさそうだが、やはり非常に疲れるようだ。体力が落ちているようで、食事すると眠い。病院では動かなかったからなかなか寝れなかったが21時までには寝てしまった。


 翌日も出かけることになった。この日もいろいろと回って用事をすます。久々だから外食などもしてみた。重いものでも20㎏くらいまでは問題なさそうだ。歩くこと自体は慣れ、小走りもするが初日に比べるとほとんど痛みはない。たまにパリッとするが、痛いというよりは、かさぶたが剥がれるようなものと思え、気にしないようになっていた。


 歩き回ったおかげか、たまっていた雑用はほぼ終わった。ただやたらと疲れる。昼寝が必要なくらいだ。虫垂炎そのものというよりは、入院している間の運動不足で相当体力が削られたようだ。


 学生の頃、ひたすら寝て過ごして、学校が始まってからへろへろになったことがあるが、そのときも歩いたり自転車に乗るだけで体力が激減した。それに近い感覚だ。


 2日ほど経ち、生活自体は日常に戻ってきた。再び週末がやってきた。一応動き回ることには慣れたが、まだ腹筋は無理だ。寝起きもうっかりするとお腹がかなり痛い。虫垂のあった右わき腹はそうでもないが、切ったヘソの下はまだ治ってはいないようだ。


 風呂もしばらくはシャワーにしてくれと言われていたから守っている。水圧などはわずかな隙間にもダメージがあるだろうから、皮膚が完全にくっついていないとまずいのかもしれない。


 ただ幸いにして便秘になることもなく体調はよい。どちらかというと緩いくらいで、せっかくもらった便秘系の薬は結局飲まずじまいだ。逆に少し硬めにする薬が欲しくなるような贅沢な悩みになっていた。そして食欲はかなりある。お腹が減るし、出るものも出る。順調だ。


 土曜日はとても天気がよかった。ジョギングでもしたくなるくらいだが、表立った運動は控えるように言われていた。自転車もしばらくは控えたほうが良い気がする。土日もせいぜい散歩くらいの運動で体力回復を図った。


 翌週、久しぶりの仕事が始まる。早速だが出張が入った。


 10日ぶりに会う面々、正直複雑な気持ちだ。


 丸1週間休んで迷惑をかけたところは間違いない。しかも、引継ぎらしきものは一切ない。やむを得ないところではあるが、だからといって休んで当然という態度はとれるはずもない。大人として当然の対応だ。


 だが一部はそうでもないやつらもいる。出社日に腹が痛いと訴えたが、


「おぃおぃ、絶対ちがうってー。盲腸はもっと痛いぞ。もうちょっと痛がれよ。ほんとに休む?」


「なんかへんなもの食ったんじゃないの?昨日何食った?


「おぉー、ひさしぶりだなぁ、痛かった?」


「いや、速やかに行動したので、そうでもなかったよ」


 などとのたまった者達には当然どや顔をする。自身の判断力の高さ、無事に終わったことを3割増しで伝える。こちらについては遠慮する必要はなかった。


 ある程度復帰の儀式が終了すると、あとは以前と何も変わらない。休んでいたこともあり、あらたまった配慮もなく、いきなり実戦投入だ。定時後の作業も含め、いつも通りの負荷をいつも通りの時間でこなした。


 疲れたがこれは純粋に疲れだと思える。筋力持久力が衰えたため疲れが大きく感じられるのだろうが、虫垂炎そのものではなく間接被害だ。


 電車での移動や長時間の作業は特にないが、まだ胃腸の調子が十分に戻っていない。下剤が必要なかったのはいいが水分の吸収がまずいのか下痢気味が続いていた。


 月、火と順調に過ぎていくが、やはり体力低下のせいか寝るのが早い。夜更かしというのがさっぱりできなくなっていた。


 かといって朝早く起きるというわけでもない。寝る時間が増えているようだ。


 食生活も規則正しくなったと言える。特にカップラーメンなどのインスタント系が味覚が変わったのか食べると下痢がひどくなる気がする。野菜や肉類はふつうに総菜屋で売っているものはいいが、コンビニなどの保存料が入っているものは厳しい。


 やはり胃腸にもそれなりのダメージがあるようだ。食生活には気を使う。ジュース類もせいぜい乳飲料くらいまでで、炭酸やましてやアルコールは控える気になった。


 なるべく総菜屋と自炊で食事をすませ1週間を乗り切った。仕事自体は特に問題もなく、疲れやすいことを除くと問題なく完了した。


 再び週末だ。このころになると、歩くだけで疲れるということはなかった。信号の小走りも問題ない。そして寝床からの立ち上がりなどもあまり気を使わなくてもできるようになった。


 多少無理をしても痛みがない。ただおなかはずっと膨らんでいるように思う。ガスでもたまっているのか、ズボンのウェストがきつい気がする。退院してから1週間以上経過していることもあり、運動も兼ねて、自転車で出かけてみることにした。


 小走りならば大丈夫だし、ジョギングほどには上下運動がないと思ったからだ。


 だが自転車は思った以上にお腹にダメージがあった。普段は気にもしていなかったが、歩道などの段差などではかなりお腹に衝撃がある。ペダルをこぐこと自体は問題ないが、一定の振動が地面から伝わり、お腹が揺すられている感じがする。


 なんとなく吐き気がするような気もして、小一時間程度で自転車は切り上げた。やはり無理をしてはいけないようだ。お風呂も湯船につかるのはもう少し控えようと思った。


 この頃になると卵や肉類は食べられるようになっている。お腹の傷も盛り上がりがなくなってきていたが、逆におへそ周りの傷口はかなり硬くなっている。以前にも増して骨のような塊になっていた。


 翌週が始まる。電車移動や仕事での運搬、立ち仕事などはほぼ問題なくなっていた。睡眠時間は多いままだが、歩くだけで疲れるということは減った。自転車などの運動効果があったのかもしれない。


 終末が近づくと少々お腹に力を入れても痛みがないことに気づいた。試しに腹筋をしてみたが、ちょっと引きつるかなくらいで、痛みはほぼない。腕立て伏せも1回試してみたが問題なくできた。そのまま5回ほど試してみる。


 初めてお腹に力を入れてもいいんだと実感できた。回復は順調に進んでいるようだ。



 最終の金曜日は経過観察のため、診察の予約がしてあった。病院に向かう。予約時間は8:30。朝一の予約にあわせ8:15分に着いたが、この時点ですでにけっこうな人数がいる。5分前どころか30分以上前から来ているのではないかと思われる病院熟練の元気なお年寄り部隊だ。


 予約受付も自動化されており、端末に診察券を差し込むと、何やら診療予定が勝手に印刷されて出てくる。クリアファイルに入れて持ち運べるようになっていた。


 名前を見ると、もともとの担当医は外山先生で、待ちの病室前の表札も外山先生の名札がかかっているが、担当は手術時の執刀をしてくれた紫畑先生だった。


 待ち時間はそこそこありそうだ。8:30を過ぎてもすぐ呼ばれるわけでもなくそのまま待機する。その間に就職活動ではないが、面接の質疑応答の練習をした。


 いくつか聞きたいことがある。


・少し下痢状態だが、体調はこれが普通なのか

・いつからふつうの運動ができるのか

・へそのしこりはこれが普通なのか


 他にもあったが面接のシミュレーションをしているうちに時間が経ったようだ。30分以上遅れたが、名前を呼ばれて中に入った。



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