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盲腸で入院してみた話  作者: のろろん
2/22

1日目ー②

 秋口の朝だというのに、外は思った以上に暑かった。歩いていると、すぐに汗がでてきた。不思議と歩いていると痛みは柔らいできたように思える。これならいけそうか。


 15分ほど歩き、出発間際の電車に乗る。いつもならガラガラのはずが、タイミングが悪いのか、事故があったようで満員だった。


 職場までほんの2駅ほど、時間にして10分とかからないが異様に長く感じる。1駅目までですでに気分が悪い。まだ吐き気はたいしたことはないが、念のためしゃがんでおく。そのままでじっとしていた。


 

 5分で1駅目についた。降りる人がいるので駅について一度立ち上がったが出発すると再びしゃがんだ。人が降りたので少し広くなっている。


 そのまま目的地の2駅目までなんとか耐えた。


 階段が少しきつかったが、歩き始めると不思議と腹痛も吐き気も治まり仕事場まで移動できた。


 

 着替えも無事に終わってPCを起動する。だが椅子に座るとダメだ。再び腹痛を感じるようになる。


 腹を曲げるとダメなのか?


 やはりここは中途半端ではダメな気がする。だからといって仕事先から自宅まで戻るのは電車で2時間。


 自宅そばには近くに医療センターがあり何かあったとしても往来も簡単だ。


 このまま様子を見ながら仕事をして何かあったら職場の最寄りの病院に駆け込むか、それとも2時間耐えて自宅まで戻るか悩む。


 もちろん職場の最寄りの病院とはいっても隣にあるわけではない。ここから相応の時間、30分程度は必要だ。そして自宅からだと荷物などを置いてから移動できるのもメリットが大きい。


 単なる下痢ならそのうち治っていく気がするが、朝からの様子ではその気配は見られなかった。



 結局悩んだ時間はせいぜい10分程度。今のうちなら戻れる痛みの範囲だ。体力的にもまだ大丈夫だ。


 みぞおちの下あたりが痛く、右下腹部、腰骨の上あたりにも違和感がある。虫垂炎等も心配して、ここは自宅に戻ることにした。


 簡単に体調不良の連絡をして職場を辞す。この段階では今日は休みますとだけ伝える。


 急いで駅まで戻るが、やはり歩いているうちに腹痛、吐き気がよくなっていくのは変わらない。不思議だが歩き回っていると軽減してしまうらしい。


 駅に着いた。どうやら、先ほど電車が出たばかりのようだ。20分以上待つことになるが仕方がない。


 歩いて汗が出ているが、ここで飲み物を飲むと朝と一緒で吐き気がぶり返す気がする。あえて飲まず食わずで我慢する。


 腹が痛いわりにおなかがぐーっとなるのが、どっちかにしろと一発殴りたくなってしまう。もちろんそれも我慢したが。



 電車がきた。幸い、行きと違ってすいている。座ることに対する不安もあるが、じっと立っているよりはマシだ。不安もあるが戻って病院に行くなど、なんらかの診断をしてもらわねば始まらない。

 

 電車に乗ると空席を探す。通勤時間がずれているからか空席が多い。人との接触がないように4人用のボックス席の窓際に腰かけた。


 電車は予定通り出発する。次々と駅を通り過ぎて行くが、特段の体調変化はない。吐き気などが気になるため、暑さで喉が渇きはするが、道中は何も取らないようにした。


 腹痛はまったくおかまいなしに、腹はぐーぐーとなる。昨日の夜食った後はほぼ飲まず食わずだから仕方がない。


 いろいろと腹痛のことを調べていると時間が経つのも早い。乗り換えも終了し、昼前に無事に自宅そばの駅にたどり着いた。



 まだ痛みはあまり変化していない。みぞおちあたりの痛みは歩く分には支障がないが、鈍い痛みが続いている。


 虫垂炎などでは軽くジャンプして痛みが増すかどうかを見るというのを知っていたので、階段などの段差で強めの衝撃を加えると右腰骨の上の鈍い痛みが強まることは確かめられた。


 自分の経験では下痢などは主に左下腹部が痛いことが多い。あきらかに症状が違う気がする。


 一足早く戻ってきたことが正解の可能性が高く、俺ちょっとやるなと思う一方で、このままではやっかいなことになりそうだという気持ちも大きくなる。



 自宅に到着した。ここまでたどり着いた以上病院に行かないという選択肢はない。


 まずは第一段階は完了。これで不要な荷物を安全に保管することができ行動が楽になる。少し状況を整理しつつ病院に電話だ。診察可能か症状の判断が妥当かを問い合わせする。


 電話はすぐにつながった。症状を手短に話す。


 早朝からの下痢、吐き気と腹痛を伝え判断を待つ。だが長時間電車で移動している上に歩ける程度の適度な腹痛の状況から、俺は腹が痛いんだという深刻さが今一つ伝わらない。


 確かに虫垂炎であれば七転八倒するとの話もよく聞く。歩いて病院にきましたというのが妥当なのかわからない。もちろん事実ではあるんだが信用度が低くなるのはやむを得ないだろう。


 

 だがなんとか信じてはもらえたようだ。まぁどちらにしろ診察してもらわないとわからないのは向こうも同じなのだろう。


「この時間からですと、急患扱いですがよろしいですか?」


 時計を見ると時間は正午前、すでに一般外来の受付時間は終了しているのだろう。急患だと若干値段が高くなるとかそんな意味の確認だと思うが、正直そんなことはどうでもいい。


「もちろんです。今からいけますか?」


 すぐに了承し診察してもらえることになった。そう答えると追加の質問がいくつかあった。


「熱はありますか? 咳とかは?」


「36.7℃、ちょっと高めかな。でも、咳はないです」


「では、通常の受付からお越しください。いつ頃、どうやってこられますか?」


「今から歩いていくので、15分後くらいにはつきます」


「では、お待ちしています」


 診察予約とはこんなものか? あまりに病状を心配されても困るが相手からしたら日常のことかも知れない。質問自体もどちらかというと流行りのウィルス性の病気による発熱確認と思われた。


 お大事にとは言われたが、熱もないことから過剰な心配もなくあっさりと了承をもらえた。WEBでは腹痛から来る発熱とかの例もあったため、そうなっていたら厄介だっただろうが、幸い今回は熱はあがっていなかった。


 遅れてはいけないと急ぎ準備する。


 何がいるだろうと考えるが、支払い用のクレジットカード、保険証、時間つぶしのスマホと飲み物、タオルなどを持ち、負担にならないように軽装で移動することにした。


 

 再び徒歩移動だ。道中は動けなくなったり吐き気がすることもなく、トラブルなく移動できた。


 歩き出すとなんとなく症状が軽減するのはこれまでと同じだ。


 それでもさして暑くないにも関わらず汗をかいている。冷や汗なのかそれともこの程度で汗が出るほど体は疲弊しているのだろうか。


 息が切れたり心臓がどきどきしたりはしない。信号が変わりそうなとき、横断歩道を小走りで渡ると少し下腹部に違和感、鈍い痛みががあったくらいだ。それでもなんとなく異常があるような気がする。


 そのまま歩いて15分。予定通り病院前に到着した。



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