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盲腸で入院してみた話  作者: のろろん
19/22

5日目ー②

 雑談も終わり、再び1人になる。


 その後も散策をし、疲れて通路脇の談話コーナーでぼけっとして休憩することにした。


 行きがけに自販機で冷たいお茶を買ったが、その際取り出し口でしゃがんだときにお腹の痛みがなかった。


 いつも痛み備えて身構えていたが、確かに痛くない。力加減がわかった可能性もあるが回復もしてそうだ。


 病室に戻った。


 することと言えばあとはスマホしかない。今までは病気のことを調べることが多かったが、もう大抵の思いつくことはチェック済みだ。


 明日で退院となると当然退院後の行動に興味がうつっている。買った冷たいお茶を飲みつつ調べていく。


 まず、すでにそれなりに歩けるのはわかっているが、運動が気になる。


 看護師さんも運動しろと言う人から、ゆっくりと慣らしたほうがいいという人までいろいろだ。もちろんやりすぎない範囲でしたほうがいいのはわかってる。問題はどこからやりすぎなのかわからない点だ。


 確か執刀した紫畑先生は『無理するとヘルニアですよ』とことあるごとに言っていた。


 無理するなと言う意味だろうが、さすがにまだジャンプする気にはなれなかった。きっとかなり傷口に力が加わるだろう。


 

 そういえば時間が経って傷口がどうなっているか見てみた。初日は明らかに縫いたてとわかったが、縫合跡、左右の肉の段差などはずいぶんとなだらかになっている。


 ただ、皮膚のつながりの滑らかさの一方で、縫い口の周りがすごく固くなっている。骨といってもいいくらいの固さだ。


 無理はしないが、この硬さは強く摘んでもへこまない気がする。肉の弾力というものが感じられなかった。


 そのせいもあってシャツのところに当たるのか、擦れて皮膚が赤くなっている。歩いている時からヒリヒリしていて気になっていたが、触るタイミングはなくこのせいかと今頃気づいた。


 このしこりは気になったが痛みはない。今すぐ大騒ぎする必要はなく、次の検診で聞くことにしても問題ないだろう。配膳の音が聞こえてきたので、気持ちを切り替える。


 メインイベントだ。


 夕食の特別食、それはマグロカツのタルタルソース。ちなみに普通食はフィッシュカツのタルタルソースだったはずだ。

 

 値段の差=マグロとフィッシュの違いが何か気になる。だがここは悟られないように平然と気にしないふりをしつつ期待して待つ。


 ガチャ


「夕食ですよー」


 音がして今気づきましたという雰囲気を出して振り返る。


 運んできたのは若手の男性だったが、フタを取るなり


「おぉっ、これめっちゃうまそうですね」


そう言われた。ドキドキを悟られないように覗き込む。


 確かに美味しそうだ。カツがしっかり茶色に揚がっている。ソースの方も少し卵が入っているようだが、普通のタルタルソースで美味しそうだ。


 運んでくれた男性スタッフはすぐ次に行ってしまったが、その間にも味に対する期待レベルが上がっていった。


 早速カツからいく。ソースをつけて食べたが、柔らかさ、揚がり具合、味はその辺の食堂にまったく引けを取らない。人に勧められるレベルだ。


 これならわざわざ外で食べたいと思わない。おまけにこれでカロリーも計算されている。まさに完璧な食事だった。


 今日1日で昼の牛丼も入れて1900kcalちょっと。塩分も8.2g。


 一般食が1650kcalの6.9gだから、量も味も濃いめだが納得がいく。



 味わいたかったが、美味しいからぱくぱくとあっという間に食べ終わってしまった。


 満腹だ。ベッドに横たわる。元気になってきているからだろうが、今日で退院も終わりかと思うと少し寂しい。一方で明日からはすべて自分でやらないといけない。これからは自分で動き回りつつ生活していかねばならないことを考えると今のままでは体力的にもしんどくなる。


 まぁ無理して運動のために歩いているのが生活の一部になるともいえるが、必要なものも買い出しに行かねばならないし、荷物を運ぶこともあるだろう。


 そんなことを考えられる余裕があるのも執刀してくれた先生や看護師さんのおかげだ。


 向かいのペースメーカーを埋め込んだ人も心拍を数えるらしい練習をしている。


 熱にうなされたり痛みを訴えることもなく順調そうだ。ここにいる人はみんなそれなりに元気で、あと数日で退院になりそうに思える。


 そんなことを考えているうちに時間も過ぎていく。22時に形式的な検診があるが、血圧と体温を測定する。最後に傷を見ると言われ、念のため腸の動きの確認もあった。


 結局腸の音とやらは一回も聞く機会がなかったが問題なしで無事終了した。


 手の甲を何気なく見てみた。カテーテル後もかなり傷がふさがっているが、穴の部分がちょっとくぼんだようになっていた。


 夜の間はこれといったイベントはなく朝になった。食事前からトイレも快調だ。だいたい6時間寝ると目が覚める体質のせいで、早めに寝た分早く目が覚める。


 今朝も5時過ぎに目が覚めてしまう。暗かった空が徐々に明るくなっていくのを見ながらごろごろしていた。


 明るくなったころカーテンが揺れ看護師さんが顔を出した。濠さんだ。昨日の晩からだが6日の入院で初めてだと思う。もっとも若手のように見え、その分ゆっくりだが丁寧な感じがした。


「今日は退院日、検診の時も10時くらいが目安で11時までに手続きをお願いしますね」


 いつもと違って退院の準備があるため、いつもはない時間的な説明を受ける。といっても特に目新しいことはない。いつも通り食事とそのあとの検診、そして時間がきたら診察券を持って受付にいって精算だけだ。


 朝6時の検診も終わり周りが騒がしくなっていく。いつもなら運動の時間だが、最終日なのでゴソゴソと後片付けをしておく。


 先日の洗濯などで干した服なども畳んでおいた。


 それでも7時過ぎ。検診が終わったため、結局時間を持て余して歩くことにする。


 一般の患者向けの配膳時間まではまだあり今が人通りのない時間帯だが、部屋を出たところで向かいから出てきた女性とばったりあった。たしかトイレ横にある検査室だったか。


 緑の制服は薬剤師さん、服縞さんだ。念のためスマホの時計を見る。7時15分だ。


「こんな時間になぜここに?」


 昨日の昼間も見かけたし、休日の出勤だとしてもちょっと早すぎる気がしたが、


「昨日は泊りだったんですよ」


 意味を考える。昨日の昼間からずっと仕事ということになる。自分なら12時間仕事するとけっこうへとへとだ。


 そう考えると思わず声がでた。昨日の昼から朝までいるということは連続で16時間勤務になる。病院のシフトはそう組まれるのだろうか。消防署とかは24時間交代とか聞いたこともある。


「おぉ、それは……たいへんだ」


 心からそう思う。体力仕事が多い看護師さんはもっと大変なのかもしれない。おそらく帰宅前の一番疲労の高い状態だろう。それ以上しゃべるのもはばかられ、結局服縞さんとはそのまま会釈して別れ、それ以降会うことはなかった。



 部屋に戻ると、朝食、最後の食事が運ばれてきた。この2日は同じ、ジャム、パン、牛乳と何かのサラダのパターンだ。パンの形がバターロールから、コッペパンに変わっていたところが違うくらいであとはほぼ同じだ。


 うっかり忘れていたが、今朝も特別食らしく昨日に引き続きバナナが1本ついていた。


 正直朝としてはちょっと多い。食欲はフルに戻ってはいるが、バナナは結局食べずに持って帰ることにした。


 食事が終わると検診がある。もちろん痛みも力を入れない限りはなく、体温も37℃以下で平熱だ。あとは退院手続きに入るまでのんびり過ごすこととなった。

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