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盲腸で入院してみた話  作者: のろろん
17/22

4日目ー④

 そろそろ戻ろうかと思いつつ、道路沿いのテラスにある談話室でくつろいでいると看護師さんがやってくるのが見えた。


 そういえば検温をすっかり忘れていた。


「……さん、ここにいましたか」


 電気が幻灯されて少し暗い上にマスクをしているにもかかわらず名指しできた。きっとわずかばかりの気を探知されたのだろう。闇の使い手かもしれない。なかなかの検知能力だ。などと遊ぶ。


 さすが田植さん。すでにこの日で3日目で顔も覚えていて、恐らく行動パターンも読んでいるのかもしれない。



 なかなか部屋に戻らないから探していたようだが、さして広くはない上、時間が時間だ。風呂場も洗濯室もすでに施錠されている。


 行けるところはトイレくらいか。ピンポイントでこれなくもないのか。


 だがそんな妄想はお構いなしで検診が始まる。


 動き回っていて血管が広がっているところに、座って安静にしたからか血圧が低めで105しかない。


 どうも入院中は血圧が低い気がする。110を超えたのは初日130台があった時だけに思う。


 やはり動き回っていないから体力が落ちているのか? とはいっても1日でそこまで落ちるとも思えない。それなら手術時の出血のせいなのか?


 献血したことがある。1回400㏄献血すると、血液不足から筋力低下になって、元に戻るまでに2、3ヶ月かかるが、今回も同じくらいはかかるのかもしれない。


 ただ気にはなったがそれも一時のこと。気になったからといって改善するわけでもない。おまけに体温が36.8℃で平熱に戻ったことで気にならなくなってしまった。



 ベッドに戻ると間もなく消灯。その後は一気に静かになる。


 もう4日目も終わりかけになると慣れている。まっくらになってしばらくすると22時の点滴だ。点滴時間は30分だが、これも時間はすぐに経つ。


 空になっても看護師さんは忙しいのかなかなかこないが、点滴に空気が入ってももう気にならない。


 終わった後カテーテル内を掃除するために生理食塩水を入れるのもすっかり慣れた。あの冷たい液が入っていく感覚はなんか不思議で癖になりそうだ。



 点滴中でも歩けなくはないが、あの点滴の台を持ってうろうろするのはいろいろと面倒なのでベッドで大人しくしていた。


 この点滴で外から体内に異物、といっても体液に近いはずだが、こうしたものを入れることで覚醒するのか、それともやはり運動量が少ないからなのか、さっぱり眠くならないことも経験上わかってきている。


 まだしばらくは寝れそうにない。


 その後も毎度のことだが消灯後もスマホなどで時間をつぶす。今日は向かいも隣も静かで何も聞こえてこない。


 手術を受けたり新しく入ってくる人もいなかった。


 みんな体調は良好のようだ。自分自身も体調変化はなく物音をほぼ立てないで過ごせているはずだ。寝てるときのいびきは知らないが。



 リクライニングのベッドの角度もすでに最適角度がわかっていて、ベッドを起こして20から22度くらいに設定しておくと腰にも傷にも負担がかからず痛みがない。バランスよく体重が分散している。ずいぶん慣れてきていた。


 この姿勢でいると長時間でもあまり痛くなったりしない。


 参考までにこういうベッドの値段を調べたところ、20万程度でふつうに売ってるらしい。まぁ高いものはいくらでも上があるんだろうが確かに快適だ。寝る時の角度でこれだけ負担が変わるなら、このベッドがちょっとほしくなっていた。



 だが寝れないと思っていたわりには、そんなことを考えている間にいつの間にか寝てしまったようだ。たしか3時前までは起きていたが、気付いたら6時前。空がもう明るくなっている。


 6時過ぎになると、朝の検診と点滴がある。どちらにしろ起こされることになるが、寝ていた時間の割にはすっきりと目が覚めた。


 1日病院にいるのは今日が最終日。できれば、体調が万全に戻ってから退院したいと思っていたせいか、希望通り体温は36℃半ばくらいまで下がっていた。血圧は相変わらず低めではあったが、これで平熱がそれなりに続いている。万全の体調で退院ができそうだ。



 朝食までまったりと過ごす。時間は8時、そろそろ特別食が運ばれてくる時間だ。中身は通常食プラスで一品追加となっていた。


「お待たせしましたー」


「おはようございます」


 挨拶もそこそこにお膳が配られて内容を確認する。パン&ジャム、薄味の野菜の総菜、牛乳、そしてバナナ。


 一品ついていたがバナナ。メニューを見落としていたか。軽く果物程度だと油断していたかもしれない。感覚的には倍くらいの量に見える。


 たしかに食欲もあり、食えるようになっていたが、通常食だけで普通にお腹いっぱいになるレベル。早々に残すことにした。


 おやつの時間にまた食べれば、少しは空きスペースができて食べられるだろう。そういう保存という意味ではバナナはお手頃だった。そのままテーブルに放置しておいた。



 そのあとは定番の薬を飲むことと点滴があった。30分我慢したあと、後片付けにきた看護師さんに今朝の点滴で最後になると言われた。そのあと左手の甲に入っていたカテーテルを引き抜くことになる。


 あらためて抜いたものを見る。長さ3㎝、幅1mmちょっとの透明で柔らかいナイロンのような細い管が出てくる。たしかに触ってみると柔らかく、動かしても血管に傷がつかないのもわかる。


 このカテーテルの幅1㎜は細い気もするが、もちろん本来の血液も流れているの。さらに血管自体には余裕があることになるはずだ。血管の中に入るとしたら意外に太い血管なのだろうか。



 カテーテルをとめている透明なテープを剥がす。防水性を維持するためか、ちょっとやそっと動いても外れないようにするためか、通常の絆創膏などと違いかなり粘着力がある。


 メリメリと皮膚が引っ張られながら剥がれるのがわかるが、意外に毛は抜けないようだ。



 手の甲にはしっかりと1㎜ほどの穴が開いているのがわかるが、押さえつけていると血はすぐにとまった。これで完全に元の状態に戻った。


 今までは手の甲にカテーテルを束ねたものをつけていたため、トイレなどで手を洗う時はけっこう邪魔になっていた。だがこれでもう何もついていない。


 完全に何もついていない自由な状態だ。開放感が半端ない。


 あとは抗生物質を薬で飲むことと、定期的な体温、血圧などの簡単な検診があるだけ。身軽になった。



 早速動きやすくなった身でするべきこととして洗濯を選択した。別に明日には退院だ。それからでもいいのだが、買ってから一回も使っていない1000円TVカードを使ってみたかったのもある。


 ずいぶん前に身内が入院してたときは、冷蔵庫やTVはこうしたカードで日払いしていたのを見ていたが、結局今回は買いはしたけれど1回も使っていなかった。


 コインランドリーはこのカードで支払うらしく、使う唯一のチャンスだった。


 だが行ってみると稼働中だった。2台あるが2台ともだ。意外に動ける人も多いらしい。


 残り時間があるのでタイマーを設定してそのタイミングにあわせていく仕様だが、設定時間がマックスになっている。動き始めたばかり、あと一歩出遅れているのだろう。


 このフロア50人弱いるはずだが、自由に洗濯できるほど動ける人がどのくらいいるのかわからないが、洗濯機は2台。1回の洗濯で、洗濯+乾燥で約1時間。フル稼働なら1日16人までしか使えない。


 そんなことを2回ほど繰り返してしまったあと、ようやく洗濯することができた。


 大半は乾燥機で乾燥するが、タオルなどは病室の隅に干していた。病院は湿度が管理され、それもかなり低湿度で乾燥している気がした。


 さすがに目が乾燥したりはしないが、その乾く速さには驚いた。シャワーを浴びたときのタオルなどもそうだが、2時間もかけておくと乾いていた。


 おまけに空気の流れる音があるくらい循環させている。吸気口の埃は気になったが、いろいろと漂う細菌などもフィルターで取り除いているのだろう。


 洗濯量は大したことなく1回で終わる。ベッドに持ち帰ったが物干場などはない。あるのは小さなクローゼットだけだ。


 乾燥機で乾燥させてはいるが、まだ若干の湿り気はあるためここに干していく。ハンガーでつるし終わった頃に12時となった。

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