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盲腸で入院してみた話  作者: のろろん
11/22

2日目ー③


 ふっと目が覚めた。物音がしたのか人の気配だったのか、周りを見渡すと看護師さんが点滴の交換をしているのに気づいた。


 どうやらいつの間にか寝ていたようだ。時計を見ると14時を回っている。寝ていた時間は1時間半ほどだ。


 安静ノルマ4時間の半分が過ぎたことに少しホッとする。


 寝る前と違うのは意識がはっきりしていることだ。考えることができるようになった。



 目を覚ましたことに気づいた看護師さんと少し話をする。麻酔をかけた後は一旦目が覚めてもまだ体内に残っているそうだ。


 普通の人は何度か寝たり起きたりを繰り返すと言われた。それで戻った直後にボーッとして頭が回らなかった理由がわかった。


 

 今は先ほどと違い目覚めスッキリ感がある。おそらく残っていた麻酔はかなり抜けきったのだろう。


 動かさないことによる腰の痛みと、管が入っている圧迫による尿管の痛みは相変わらずだが、ここで尿管の方は幾分マシになっていた。


 うまく言えないが、無理に入れた突っ張り感が減り少しずつ動く中で馴染んでいったように感じる。

 動かすことで1番安定した位置に落ち着いたと言えばいいのか、急な変化で動かしたりしなければ痛みはない。


 点滴は続けており体内に液が入り続けているため、当然腎臓の濾過機能も続いているだろう。絶えず漏らすような不快感はあるが、じっとしている限りは痛みや不快感はなくなっていた。


 

 それからは完全に目が覚めてしまい全く眠くなることはなかった。眠ろうと思っても眠れないレベルだ。スマホでマンガ、ニュースを見て時間を潰す。




 虫垂炎の体験談もある程度読み飽き、これという興味あるネタもなくなったままネットを彷徨い続ける。病身で秒針のゆっくりした動きを確認するのはなかなかつらいが、これといったイベントもなく、そのままひたすら耐えてなんとか4時間経った。


 すでに陽が傾いてきている。これで絶対安静の呪いは期限切れとなった。これで少しは動かしてもよくなったはずだ。実際大して変わり映えはしないが、切った傷はある程度くっついてきているのだろうか。


 もちろん動き回ったりはしないが多少腰を浮かすくらいはいいはずだ。


腰の動きによって、おへそ周りはチクチクと痛むが皮が引っ張られているだけの表面的な痛みで、問題なく耐えられた。


 そして何より心理的に最悪状態を脱出したという安心感が大きい。10分前と大して変わらないだろうが解放されたような気がした。



 そうすると時間の流れが早くなった気がする。


 次に気付いたときには、いつのまにか外は暗くなってきており、夕食の時間だ。周りから食器の音がするが当然自分には何もない。その時、カーテンが揺れた。


「夕食をお持ちしましたー」


 おっと思う。もう早速何か食えるのだろうか。


 だが、たしか今朝は終日食事がないと言われた記憶がある。


「絶食ですねー、間違えましたー」


 わかってた。


 でも一瞬喜んだだけにとても心が痛い。腹の数倍は痛みを感じる。遅延信管でも入っているのか、あとになるほどじわじわとダメージを食らう。


 まぁ食べられたとしてもジュースレベルだろうと諦めるしかない。


 ただ食欲はあるが、点滴のせいか空腹は感じなかった。時折ぐーとなるだけだ。ぐーの音は看護師さんも言っていたように、腸が動いているということだろう。


 この音がすると内臓が動いていると安心できた。かなり頻繁に鳴っている。


 

 またしばらくすると点滴があった。点滴は1時間に1度くらいのペースで様子を見に来る。心電図の測定もあわせてされているが、異常がなくても見に来るのだろうか。


 それが何度か続き、点滴交換のついでで検診もあった。体温が37.5℃ほどでちょっと高いが、切ったところの回復のためこの程度は正常だそうだ。免疫機能が切り傷のところで闘っているため発熱するとのことだ。



 そのかわり血圧が100ちょいしかない。普段130弱ある上、寝ていると高めに出るそうだがずいぶん低い。


 

 そして血栓防止の靴下は終了となった。


 流石に膝を抱えるまでは自力では厳しくうまく脱げない。これも地味に痛かったがようやく解放だ。脱がしてもらったがふくらはぎの圧迫や指先の締め付けがなくなり、さらにパワーが回復した実感がある。


 「じゃぁこれからは時々足を曲げたり伸ばしたりしてくださいよ」


 「わかりました」


 そのかわり時々体の位置を変えたり足を動かすことがノルマになる。片足ずつであれば痛みはまったくないが、両足同時に持ち上げるのは腹筋に力が入りかなり痛みがある。まだ無理だった。


 言われなくてもするが、なんとなくうれしくて余計に動かしている自分に気が付いた。この程度でどれほどの運動になるかはわからないが。逆に筋力を落とさないようにしようなどと考えてしまった。



 その後は全く眠くならなかった。看護師さんからは何度も眠くないのですかと聞かれたが、麻酔の残りはすっかり抜けたのだろうか。


 目が覚めてすっきりしたので、本なども読み始める。時間はさらに過ぎていった。



 周りの夕食後も2時間置きくらいに検温、点滴、そして腸の動きの確認などが続く。腸の音というのはどんなものなのか聞いてみたいが、残念ながら聞かせてくださいと頼むことはできなかった。


 聴診器のようなものはあるが、さすがに貸してはくれないだろう。ただ元気に動いてますよとのお言葉をいただき安心する。言われなくてもグーグーなっている。


 動かなかったら大変なとこだ。ここは素直に喜ぶところなのだろう。



 額に手をやると少し暖かい。熱はずっと37℃台前半が続いている。体の中では頑張って回復しようとしているのだろう。いたわりつつスマホで時間を潰すしかない。



 いつの間にか消灯になり、周りが静かになる。



 22時を過ぎると廊下を歩く音やゴソゴソと何かをしているような音もほぼ聞こえなくなる。


 みんなそんなに寝れるものなのだろうか。そういえばいびきの音もたまたまなのかすることがない。

だが向かいのベッドからうんうんうなる声が聞こえた。それも自分とは違いちょっと我慢できない感じのうなり声がする。


 自分でナースコールができるはずだろうから、しんどいのであれば自分で呼ぶはずだ。それとも呼んであげたほうがいいのか? おせっかいはよくない気もして、そのまま様子を見る。


 たしか向かいの患者さんはペースメーカーを入れるとかなんとか聞こえた記憶がある。検診時の血圧も180とか、そんな値が聞こえた。みんなどこかしら痛いところがあるのだろう。


 自分自身も節々が痛いがこれはある意味安全な痛みだ。自分自身がのたうち回るほどでないことを考える。苦しそうな声はしていたが、そのうち気にならなくなってしまった。



 ちょっと本を読んでいた。どのくらい経ったのか、いつの間にか0時を回っている。ずいぶん時間が経ったようで集中していたらしい。


 向かいのうんうんうなっていた患者さんは、巡回の看護師さんがきたタイミングで痛みを訴えたのか痛み止めの説明の声が聞こえてきた。


「痛みは無理に我慢してもいいことはないですよ。痛いときは痛いといってください。明日手術日ですからもう少しです」


 看護師さんの声に対して、はいという声も聞こえる。自分は昨日が手術だったが、どうやら今日が本番の患者さんのようだ。やがて薬が効いたのか向かいのうなり声も聞こえなくなっていった。


 痛みはつい我慢したくなってしまうが、我慢することで体力を消耗すると治療にも影響が出そうな気がする。


 自分も含めてついなんとなく我慢してしまいそうになる。


 ただ先ほどのやり取りを聞くと、常習的に服用して効果が落ちるレベルまでいくと問題がありそうだが、そういうのは無駄な努力になりそうな気がした。今度から痛いときは痛いと言おう。そして、我慢しろと言われてから考えよう、そう思った。



 気が付いたら朝だ。時間は6時前だった。


昨日は結局眠れず、3時を回ってようやく眠気がでてきた。動いてないため疲れていないのとそれなりの違和感があるため眠りにくかったが、なんとかひと眠りできたようだ。



 朝食前の検診が終わる。熱はずっと下がらず37℃前半のままだ。何も固形物を食べていないからか、トイレに行きたいという気持ちもおこらなかった。


 一晩経つと時間的なものなのか、色々変化があった。


 まず朝からガスが出るようになっていた。看護師さんにも元気に(腸が)動いていますよと言われて安心もしていた。


 もともと腸本体を切っているわけではないから動きが落ちないだろうとたかをくくってはいたが、実際に動いていることを実感できて安心する。


 手術用ローブを着たままだが、独特の臭いがするようにもなっていた。

  

 病院患者臭とでもいえばいいのか、以前病院に見舞いにきたときにも気になったことがあるが、この薬品の臭いや体臭、他にもいろいろと混ざり合った臭いがする。


 ローブを着たときは気にならなかったから服の素材からでもなさそうだが、素材に体臭や汗などが混ざるとこういう臭いになるのかもしれない。不快ではないが好きにもなれない、独特のものだ。



 寝転がること自体にも慣れてきていた。


 これは多少は体を動かしかたがわかり、体の痛みの軽減方法がわかってきたのが大きい。切った部分以外は単純に動かせばなんとかなる類のものだ。


 入院が長い人は独自の痛み防止のノウハウを持っていそうだ。聞きたくなってしまう。ほんとに寝たきりになると褥瘡(床ずれ)などもあると聞くが、これも知っているのと知らないのでは寝方も変わりそうだ。



 ここで大きな盲点に気づく。病院のベッドは電動で角度が変えられるのだ。今まではずっと水平に寝転がっていたため、ある意味おなかがちょっと引っ張られる状態だった。体重も腰回りに力がかかっている気がする。


 そこでこのベッド。パラマウントと書かれていたが、2度単位くらいで電動で上半身、または、下半身が持ち上がる。


 角度をつけると力のかかり方が変わる。当たり前だが、これは大きい。少し体を持ち上げるだけで、背中の痛みがすっと楽になった。角度が変わるときに切ったあたりが少し痛みはするが、上昇下降を止めると痛みは和らぐ。


 何度か繰り返すと、15-20度くらいでほとんどストレスがなくなることがわかってきた。あとでもっと詳細に調査しようと思うが、これでさらに寝転がっている時の負担が減りそうだ。もっと安静状態と言われている時にも試せばよかったかと残念に思った。



 まだ腹筋には強く力を入れるとかなりの痛みがあるが、片足を上げるだけなら問題はなかった。


 ふと、ふとももが見えた。


 なぜだ。右側のふとももだけ足の毛がない。たしかにこの手の手術では股のところの毛を剃るのは聞いたことがあったが、本当に膝と腰の間あたりだ。


 こんなところを剃る必要があるのか。それも右側だけ?


 答えはもちろんないが不思議だった。




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