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盲腸で入院してみた話  作者: のろろん
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1日目ー①

 俺はゴミ、異物が嫌いだ。世の中の清浄を愛している。


 小さい頃は町の清掃を、そして大人になってからは世界の清掃を担ってきた。


 この世のゴミを除き、清らかな世界を維持したい。そんなことをしてそろそろ20年、いつの間にかそれなりに名が知られるようにもなっていた。


「ふーー、今日もなんとか生き延びたな……」


 今日もまた1つ異物を取り除いた。今までなかなか姿を確認できず、対応に時間がかかっていた異物だったがなんとか対象を特定し、取り除くことに成功した。


 拠点のある自宅から仕事先に移動し、任務を淡々とこなす。仕事が終わると疲れをいやしつつ英気を高める。その繰り返しだ。


 明日も同じ場所で任務があるため、今日は最寄りで宿泊することにする。


 世の中には当然俺と同等、いやもしかしたらそれ以上もいる。ゴミを取り除く自信は俺にもあるが、さらなる高みを目指したい。


 そんな俺の最近のはやりは、純シリコンのカタログを見ることだ。限りなく異物がない単結晶の輝き、イレブン9、ツウェルブ9、そんなものが俺に安らぎを与えてくれる。


 そしてようやく眠りにつくことができた。



 どのくらい眠っただろう。1人でいるため周りの音などで起こされることはまずないが、なぜかふと目が覚めた。熟睡感はあるが、外はまだ暗い。時計を見ると3時だった。


 トイレかなとも思ったが何か違う。腹、とくにみぞおちのまわりに違和感がある。


「何か昨日の晩飯が悪かったかな?」


 誰も返事をしないことはわかっているがつい声に出してみる。


 せっかくだからトイレに向かって用を足す。腹を壊したような気がして、念のため5分待機する。


 思った通りだ。予想通り出るものが出て、無事任務を完了した。



 これでいつもならすっきりするはずだと立ち上がったが、腹の違和感は収まらない。かえってごろごろと音がする。


 布団に戻って寝ようかとも思ったがどうにも腹が痛くなってくる。地震のときはトイレが一番安全らしいが、こういうときもトイレが一番安全だ。まだ外に出るには危険すぎ、やむくもに動いてはいけないと判断した。


 致命的なほど痛くはないが無視できるほどでもない。この激しい拒絶反応から、異物キラーの俺の腹の中に何かしらの異物があることが推測できた。



 それでも結局痛みだけでそれ以上の何かが出てくることはなかった。仕方なく布団に戻って横になるが、一度寝ていることもあって眠れない。


 時計は3時半だ。なんとなく食あたりなどが気になり、もう一度立ち上がってトイレに向かうが、やはりこれといった成果はない。


 異物は体外に排除できたのだろうか? それとも異物以外の何かが原因なのか。 


 結論が出るわけでもないが、そんなことを考えながら部屋に戻る。軽く飲み物を取って横になった。



 明日も異物を除去する任務があるため、なんとかしなければとも思うが、改善の兆しはない。腹部の違和感があるまま、時間だけが過ぎていった。


 ……4時、……5時、……6時。


 腹の痛みが治まる気配はなかったが、かといって極端に転げまわるような痛みでもない。地味に続く鈍い痛みだ。



 そろそろ今日のために準備をし始めないといけない時間だ。起き上がって食事を取ろうと思う。食欲はないが食べないとそれはそれで困ることになる。


 そう思った瞬間、みぞおちの上あたりから突き上げるような突然の吐き気があった。


 あわててトイレに走る。


 この吐き気は抑えることができずトイレ前でうずくまるが、前日から何も食べていない。当然出るものといったら胃液とわずかな水分だけだ。


 やがてそれすらも出なくなった頃、なんとか吐き気は治まってきた。おそらく出し切ったため、圧迫がなくなったためだろうか。だが、吐き気の減少に反してなんとも言えない不安が増していく。


 通常の食あたりなら一通りの異物除去が終わると経験的に腹痛は治まっていくが、今回は時間とともに増していく。もう腹の中には大したものが残っていないような気がする。


 すると食べ物じゃないのか? 毒を仕込まれるとは思わないが、これといった心当たりがない。


 みぞおちあたりの鈍い痛み、吐き気、虫垂炎や腸閉塞か? そう考えて飛び跳ねてみると右わき腹の下、腰骨あたりが少し痛い気もする。


 まだ今の状態ではいいが、このまま悪化していくとまずい気がする。


 業務開始の時間と不安との駆け引きが続く。俺は時間にシビアなことでも有名だ。焦りはあるが、時間通りに動き出した。



 着替えは問題ない。前かがみで靴下を履くのも問題なかった。


 身なりを整え、靴を履き家を出る。ここも順調だ。駅に向かって歩き出した。




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