走り着いた先
あれから三十秒ほどヒト目憚らず疾走し、人気のない路地裏を見つけそこに身を隠している次第である。
中学時代陸上をやっていたので走力と体力には多少自信があったが、もう三年も前のことである。
中学時代の貯金は完全に底を尽き、ここにきて早くも衰えを感じた。
──────なるほど。
いかにも〝路地裏〟という場所だ。
横幅は両腕を目いっぱい伸ばしても少し隙間が空く程度にはあり、どこか湿っぽい。
耳を澄ませば鼠の鳴く声や、黒光りする甲虫のカサカサと地を這う音が聞こえてきそうな、そんな場所である。
壁面にはネオン調のグラフィックアートのようなものが描かれているが、その文字は日本語にも見えないしアルファベットにも見えない。
断言できるのは、自分が刻んできた十七という生涯の内で目にした事の無い言語ということだけである。
先の疾走の疲れもあり、全身の力が抜けたように壁にもたれかかり、そのままへにゃりと地べたに尻をつけた。
疲れがどっと波のように押し寄せてくる。
少しばかり物思いに耽っていると、右の足裏にチクリとした鋭い痛みを感じたので、右手で足首を掴みグッと顔面に近づけてやると尖った小石がいくつか足裏にめり込んでいるのが分かった。
それと同時に、発酵臭、ないし腐乱臭が一翔の鼻をもぎとった。
脂汗を額にじわりと浮かせ、歯を食いしばり、咬合の隙間から、ヒィ、ヒィと情けない音を出し一つ一つ摘んで取り出す。
幸い、流血は少なかった。
しかし、裸足というのはますます先が思いやられる。
この世界の感染症や化膿などのリスクを考慮すると早急に対処したい問題である。
着回しすぎてヨレヨレの灰色スゥエットパンツのポケットに両手を突っ込み、一翔は考える。
──────そもそも何故俺が異世界に?