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おはよう、世界

通常、 彼の眠りが(さえず)りによってが破られるのは、決まって午前六時である。


だが、今日は違った。


視覚が覚醒すりよりも先に聴覚が、トタン屋根を雨が(せわ)しく走り抜ける音を捕まえた。


この音は、あまり好きではない。


雀から朝の(しら)せを受け取るよりも先に、一翔は目を覚ました。


雨の日はいつにもまして憂鬱(ゆううつ)な気分になる。


無意識に数回(まぶた)を擦り、ぐいと大きく伸びをする。


一翔かずとには朝、目を覚ますと決まってやる()()がある。習慣(ルーティン)というやつだ。


枕元から指紋で液晶画面がベタベタになっているスマホを手に取り、慣れた手つきでパスコードを解除する。そして、彼は動画配信サイトを開き、こう呟く。


「おはよう、あくあちゃん」


一枚の液晶ガラス、たった数ミリの壁に(さえぎ)られているだけで、会うことは勿論、話すことすらも叶わない。彦星織姫伝説の当事者となっているような、そんな気分である。


「今日もあくあちゃんは可愛いなぁ...」


頬を緩ませ、薄気味悪い笑みを浮かべ、またしても一翔は呟く。


“あくあ”は、一翔が推し、好意を寄せている、バーチャルアイドルのことである。


マリンメイド服を着込んでいて、髪色は紫玉葱を彷彿とさせる紫がかった桃色。

くるんと跳ねているツインテール。

本人は一所懸命にがんばっているつもりなのだが、おっちょこちょいでドジなところが堪らなく愛おしいのだ。


カチカチと無機質な音を繰り出す百均の掛け時計は、気づけば六時半を打っていた。


「...学校行きたくないなぁ」



はぁ、と深いため息がつい漏れる。


仮想の波は引き、現実の波が一斉に押し寄せてくる。当分、波は引かないだろう。


汗で湿りついた掛け布団を取っ払い、ギシギシと軋む階段を重い足取りで降り、居間へと向かった。


いつものように、居間へと通ずるドアのハンドルを、ぐっと下に引いてやる。


気が重たいからだろうか。いつもよりドアハンドルが重く、開けにくい気がした。


ギギィ、とドアが音を立て開いたその途端。


突然、(まばゆ)い焼けるような鋭光が一翔の瞳孔を穿いた。

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