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トンデモ話を聞かされた

 話に全く理解を示さないあたしを見て、ネルは深い溜息を吐いた。


「やれやれ、やはりそう言う反応か。色々と情報収集をしてみたが、この星の生命体が他の星の生命体を認識していないというのは本当だったか……まあ、これだけ辺境にあるのだ、無理もないか……」

「ちょっと、何言ってるのかさっぱり分かんないけど、悪口言ったのは分かったわよ?」

「おっと、これは済まない。どこの星に行っても、私が名乗れば大抵は敬意を表してくれるものでね。まさか存在すら知られていないとは思わなかった」


 なんだコイツ。


 いちいち話し方がイラっとするな。


「情報収集したんでしょ? それくらい分からなかったの?」

「分かっていたけど、信じられなかった」


 くあぁ!


 なんかムカつく!


「しょうがない、この星……地球だったかな? 地球流に話してあげよう」

「別に、無理して話してもらわなくても結構ですけど?」


 コイツの言動にムカついていたあたしは思わずそう言ったのだけど、次のネルの台詞で、話を聞かざるを得なくなった。


「ほう、いいのかい? 話を聞いてくれたら君を助けてあげようと思っていたのに」

「……」

「見たところ、君はアイツに手も足も出なかったんだろう? だから必死に逃げてきた。それを助けてあげようじゃないか」

「……本当に助けてくれるの?」


 あたしがそういうと、ネルはニッコリと笑って言った。


「ああ、もちろんだとも」


 こうしてあたしは、ネルの話を聞かされることになった。


「私は君たちの言う所の宇宙人だ」


 ……いきなり凄いのぶっ込んできたわね……。


「私たちの任務は、宇宙に漂う諸悪の根源、暗黒生命体を殲滅することだ」


 SF? っていうか、暗黒生命体って……なにその厨二ワード。


「暗黒生命体は、肉体を持たない。それ故に肉体を持っている知的生命体に憑りつきその個体を支配して暴れまわり、その星を滅ぼす」


 悪魔かなんかな?


「なんの目的で?」

「目的なんかないさ。ただそういう存在として存在しているだけ。まあ、病原菌みたいなものだな」


 なにそれ、なんて傍迷惑な。


「私たちは、数多くの暗黒生命体を殲滅してきたのだが……個体名『ギデオン』だけは私たちの追求を逃れた」

「それって、取り逃がしたってこと?」

「む……と、とにかく。私たちは、その逃げた『ギデオン』を追っていた。そしてこの辺境の地まで追い詰めたのだが……まさか、こんな宇宙の果てに知的生命体がいる星があるとは思わなくてな……」


 さっきからコイツ、地球のこと田舎だって馬鹿にしてない?


「暗黒生命体は、知的生命体に取り憑くと一部の感情を増幅させ暴れまわる」

「一部の感情?」

「負の感情だよ」


 そう言われたとき、あたしの中でなにかがストンと腑に落ちた。


「知的生命体は、大なり小なり負の感情を持っている。暗黒生命体はそいつを餌に増幅するのだ」


 さっきの大学生も、暗い欲望を全開にしてた。


 そうか、アイツはそういう負の感情を持ってたから憑りつかれちゃったのか。


 そんで、その感情を暴走させたからあんなんになったと。


「でも、おかしくない? 負の感情を暴走させたって言っても、あの様子は普通じゃなかったわよ?」

「暗黒生命体に憑りつかれた知的生命体は、いわば操り人形だ。無理矢理身体を動かされているから尋常ではない力を発揮する。だからいくら肉体を攻撃しても、それは有効手段にはならない」


 だからアイツは、投げても殴ってもなんにも効かなかったのか。


 けど……。


「だったら、どうすればいいのよ!?」


 攻撃が効かないなら、倒す手段なんてないじゃない!


「だから、私が君にアイツを倒す手段を与えようと言っているんだよ」

「倒す……手段? そんなの持ってるなら、さっさとアイツを倒しちゃってよ!」

「それが出来れば苦労しないさ」

「なんで!? なんで出来ないの!?」

「体のサイズが違い過ぎる」

「……」


 確かに、目の前で偉そうに喋っているネルは、あたしの足首よりちょっと上くらいまでの身長しかない。


「まさか、こんな辺境の地に巨人の住む星があったなんて……正直、私では力が足りないのだ」

「巨人って言うな!」

「そこで隊員たちと協議した結果、現地の知的生命体、すなわち地球人に協力をしてもらおうという結論になってな」

「……つまり助ける代わりに、あたしにその……ギデオン? とやらを殲滅する手伝いをしろと?」

「そういうことだ」


 そう言われて、あたしは考え込んだ。


 確かに、今のあたしは大ピンチだ。


 でも、この提案を受け入れると、あたしはコイツの言う通りギデオンとやらを殲滅する手伝いをさせられることになる。


「……ちなみに、ギデオンってどれくらいいるの?」

「世界中に散らばったからな。何千か何万か……」

「マジか!?」


 ちょ、それだけの数を殲滅するのを手伝えってか!?


 交換条件として最悪でしょ!


 そんなあたしの心情を察してか、ネルがフォローしてきた。


「ああ、心配しなくていい。流石にその数を一人で殲滅するなんて無理だ。なので私の部下たちが世界中で君と同じような適合者を探しているよ」

「適合者?」


 なにそれ?


 その武器? とやらを使えば誰でもギデオンを倒せるんじゃないの?


「これはね、ある資質を持った者でないと装備できないんだよ。それだけにとても強い力を持っているんだがね」


 ということは……。


「あたしにその資質があるってこと? っていうか初対面だよね?」

「いや、実は数日前から君に目を付けていてね。君がギデオンに襲われるのを待っていたんだよ」

「見てたんなら助けてよ!」


 コイツ! あたしが襲われているのをずっと見てたのか!? なんて性悪なんだ!?


 可愛いぬいぐるみみたいな見た目してるくせに!


「言っただろう? 私では力が足りないのだ」

「ぬぐぐぐ……」


 そういえばそうだった!


「君の資質は、私が調べたところでは群を抜いている。極上と言ってもいい」

「極上の資質って……」


 そう言われると悪い気はしない。


 けど、そうなるとどうしても分からないことがある。


「で? その資質ってなんなのよ?」


 あたしは、自分で言うのもなんだけど、なんの変哲もない女子高生だ。


 特別頭がいいわけでもないし、運動神経だって普通だ。


 そんなあたしが極上の資質持ち?


 一体なんのことかさっぱり見当がつかない。


「これを使うのに必要な資質、それは……」


 ネルは、少し溜めたあとこう言った。


「ピュアな心だ」


 ……。


 一気に胡散臭くなった。


「なんなのよ!? ピュアな心って!?」

「今説明した通りだが?」

「さっぱり意味が分かんないわよ!」

「はあ……そこから説明しないといけないのか……」

「コイツ……」


 こんな状況でなければ思い切り殴りたい。


「この装備は、使う者の心に反応する装備なのだ」


 こ、心って……。


「その使用者の心がピュアであればあるほど、その効果を発揮する」


 なんだろう……ピンチになると強くなる少年漫画の主人公みたい。


「その内容はなんでもいい。私の場合は悪を取り締まる正義の心がピュアなためこの装備を使用することができる」


 正義の心って……。


 今コイツがやってることって、あたしの弱味につけ込んだ取引にしか見えないんだけど?


 正義のためなら、どんな犠牲の厭わないっていうピュアすぎる心ってこと?


「君がなにに対してピュアな気持ちを抱いているのかは分からないがね。とにかく君の心に私のレーダーが強く反応しているのだ」

「……ちょっと、気持ち悪いこと言わないでくれる?」


 なによ!? あたしの心にコイツのレーダーが反応したって!?


 どんな気持ち悪い口説き文句よ!?


 そう思ったのだが、ネルは不思議そうな顔をしている。


「気持ち悪いって……ただ、このレーダーに反応があっただけなのだが?」


 ネルはそう言うと、またさっきの装置からなにか取り出した。


「ほら、君に強い反応が出ているだろう?」

「……え?」


 見せられたのは、ネルが持つのにちょうどいい位のタブレット。


 小さくてちょっと見づらいけど、その画面にはあたしを示す矢印と、レッドゾーンまで振り切っているメーターが写っていた。


「どうだい? 納得してくれたかね?」

「え? どういうこと? あたしの心を機械が判定してるってこと!?」


 ネルが言っていたのは気持ち悪い口説き文句じゃなく、機械が判別した事実だった。


 けど、どういうこと?


 心を判別する機械なんてありえるの?


 その機械自体を信じられない気持ちで見ていると、ネルが驚いたように言った。


「まさか……精神力の数値化すらできないのか?」

「精神力って、根性とかのこと?」


 あたしがそう言うと、ネルはわざとらしく大きい溜め息を吐いた。


「はあ……やれやれ。辺境だとは思っていたが、ここまで文明が遅れているとは……」

「ちょっと……その言い方、ムカつくんですけど」

「事実だからしょうがない。精神力の数値化なんて旧時代の技術だぞ? 今はその力をどう有効利用するかということに重きを置いているというのに……」


 いちいち上から目線の発言がムカつく。


「まあ、その辺りはそう言う技術があるということで納得してくれたまえ。そもそも、精神力を数値化できなければ、実体のない暗黒生命体なんて感知できないだろう?」

「言われてみれば……」

「そういった負の精神に対して、陽の精神。つまりピュアな心がギデオンに対抗しうる力となる」


 ネルはそう言うと、再び装置からなにか取り出した。


 それは、言うなれば、光の玉。


 電球とかなさそうなのに光っているそれは、実体がないように見えた。


「これを手に持ち、自分が思う強い存在を想像するんだ。そうすれば、君はその姿になり力を使えるようになる。私なら……」


 ネルはそう言うと、腕に付いている腕輪を触って念じた。


 するとネルの姿が光に包まれ、やがてその姿を現した。


「こういう姿になる」


 それは、ベイ〇ー卿っぽい鎧を身に付けたぬいぐるみの姿だった。


 こういう、ゆるキャラいたような?


「これは、過去に実在した英雄の姿を模したものだ。どうだい? 格好いいだろう?」

「いや……悪の総大将にしか見えない……」


 ベイ〇ー卿っぽいもん。


「なっ!? この格好良さが分からんとは……流石は辺境の星だな。とにかく、君もこれを手に取るんだ」

「わっ!」


 あたしの発言に気分を害したネルが、さっき取り出した光の玉をあたしに放り投げた。


 慌てて手を伸ばすと、その光の玉はあたしの手のひらに乗った。


 どうなってんのこれ?


「それを握り締めて、強い存在を思い浮かべるんだ」

「わ、分かったわよ……」


 色々と文句を言ったが、今のあたしはコイツの指示に従うしかない。


 あたしは光の玉を握り締めると、強い存在を思い浮かべた。


 とはいえ、強い存在……。


 あたしが思い浮かべるものっていったらこれくらいしか……。


 そう思ったとき、握り締めていた光の玉が、強い光を発した。


「え!? うそ!? これに反応すんの!?」


 ちょ、ちょっと待って!


 うそでしょ!?


 今、あたしが想像したのって……。


 あたしの戸惑いをよそに、光はどんどん強くなり、ついには私を完全に覆ってしまった。


「おお、この強い光! これは相当な……」


 あたしを覆っていた光に興奮していたネルだが、その光が収まり、あたしの姿を見ると絶句した。


 それはそうだろう。


 あたしだって信じたくない。


 だって、今のあたしの姿は……。


「な、なんでそんなフリフリの衣装なんだ!?」

「あ、あはは……」


 どこからどう見ても、日曜朝の女の子向けアニメに出てきそうな、魔法少女みたいな衣装を着ているのだから。


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