第十八銀河警備隊、辺境調査部所属、特殊捜査隊
「あ、あわわ……」
「そんな反応は傷付くんだが……」
離れた場所にあったぬいぐるみが、目の前にいた。
さらにそのぬいぐるみが喋ったことで、あたしの混乱はピークに達し、気が付けば両手を合わせて拝んでいた。
「な、なんまんだぶなんまんだぶ! どうか安らかに成仏してください!」
異常な男には付きまとわれるし、こんな心霊体験はするし、今日は人生最悪の日だと、このとき本気で自分の人生を呪ったわね。
「成仏ってなんだ? というか、君はまともに話もできないのかね?」
「なんまんだ……え?」
「まあ、私の容姿は君たちとは随分違うからな。すぐに認められないのも無理はないが……」
ぬいぐるみに憑り付いた幽霊かと思ったのだけど、そのぬいぐるみは話をすることを望んでいるようだった。
「え? え? 幽霊じゃないの?」
「幽霊? ああ、肉体が死亡したあと離脱する精神体のことか。私はまだ死んでいないよ」
「え? え?」
この時点で、私の頭の中はクエスチョンマークで一杯だった。
まず、なにより……。
「ようやく話ができそうだな……」
「可愛らしいぬいぐるみが、渋いおじさんの声で喋ってる!?」
「本当に失敬だな君は!!」
「だ、だって……」
普通、こういう外見だったら、声は可愛いアニメ声って相場は決まってるでしょ。
それなのに、渋いおじさんの声で喋られたら、混乱するに決まってる!
「はあ……まあいい、それよりも説明しようか」
「説明?」
「おっと、その前に……」
そのぬいぐるみが腕に付いているブレスレットを触ると、なんか機械が現れた。
「え? はあっ!?」
このときのあたしの混乱が分かるだろうか?
目の前の動くぬいぐるみは、見たところ鞄らしいものを持っていなかった。
なのに、その小さい身体では隠しきれないほど大きな機械を突然取り出したのだ。
その光景でさらに混乱しているのに、ぬいぐるみはあたしに構わず語り続けた。
「これは、一時的にアイツの感知から外れる装置だ。ちょっと話が長くなるからね」
「……え? は? 感知から外れる?」
「実際見た方が早いだろう」
意味も分からずおうむ返しにしたあたしを放置してぬいぐるみはそう言うと、取り出した機械を起動させた。
すると……。
「うあ……?」
「え? アイツの動きが……」
さっきまで、フラフラしながらも、まっすぐあたしの方に向かっていた大学生が、突然なにかを見失ったように彷徨い始めた。
その動きはまるで……。
「……ゾンビみたい」
「ああ、動く死体のことか。アイツは死んじゃいないよ。憑りつかれているだけだ」
「憑りつく?」
「ああ『ギデオン』と呼ばれる精神生命体にね」
「ぎでおん?」
精神生命体って……一体なにを言ってるのだろう、このぬいぐるみは?
「さて、これでようやく落ち着いて話ができるな。それではまず、私が何者なのか教えよう」
ぬいぐるみはそう言うと、改まってこう言った。
「私は、第十八銀河警備隊、辺境調査部所属、特殊捜査隊隊長のネルだ」
……。
こいつは一体なにを言っているのだろう?
言ってることが一ミリも理解できない。