なんでこうなった?
「ちょっと! 外じゃ喋んなって言ったでしょ」
今は学校のお昼休み。
ちょっと用事があるって絵里ちゃんたちに嘘ついて、一人屋上に来ている。
こうして楽しいお昼休みを無駄にしているのは、全部コイツのせいだ。
コイツとは……今、目の前にいるやつ。
今朝、絵里ちゃんが見つけたぬいぐるみだ。
あたしは今ソイツに話しかけている。
……傍から見たら、頭のおかしい奴に見えるんだろうな、あたし……。
でも、別にあたしの頭がおかしくなったわけじゃない。
その証拠に……。
「すまんな。お前たちのやり取りがあまりにもむず痒くて、つい言葉にしてしまった」
ぬいぐるみが返事をしているのだから。
……やっぱり、おかしい光景だよね、これ……。
とはいえ、コイツは一見ぬいぐるみに見えるけど、ぬいぐるみじゃない。
じゃあ、なにかと言うと……。
信じられないだろうけど、コイツは地球外生命体。
いわゆる宇宙人だ。
ただ、見かけは凄く……物凄く可愛いキャラクターのぬいぐるみに見える。
小さくて、モフモフしてて非常に可愛らしい。
だけど、あたしはコイツが憎らしくてしょうがない。
それはなぜかと言うと……。
「ったく、誤魔化すの大変だったんだからね」
「だから、すまないと謝っているだろう」
まずその声だ。
さっきからあたしと会話している声は、非常に渋い中年男性の声。
バリトンで、ちょっと甘い感じのする、外国映画の渋いオッサンの吹き替えしてる声優さんみたいな声。
けど、目の前にいるのは、非常に可愛らしいぬいぐるみみたいな見た目……。
ぬおおっ……コイツが喋る度に生じるこのギャップに、あたしの頭がおかしくなりそう……。
それともう一つ……。
「まあ、約束を破ったのは申し訳ないが、私が側にいないと『ギデオン』が発生したときに感知できないだろう?」
「それはそうだけど……」
コイツが、宇宙人であることがバレるリスクを背負ってまで、あたしに付いてきている理由。
それが憎らしいのだ。
そんな私の態度から、コイツ……一応ネルっていう名前があるんだけど、ネルが色々と察したらしい。
わざとらしく両肩を竦めて頭を振った。
「ふう……やれやれ、君は私に助けられたという事実を忘れているようだ」
「べ、別に忘れたわけじゃないわよ!」
「では、なぜそんなに不満そうなのかね? あのとき約束しただろう? 君は助けてもらう代わりに、私に協力すると」
「~っ! 分かってるわよ!」
「それならいいんだ」
くそう、あたしの弱味に付け込みやがってぇ……。
「っていうかさ。アンタ、宇宙の警察みたいなもんなんでしょ? こんな脅迫じみたことしていいわけ?」
「脅迫とは心外だな。これは取引だよ。私は君を助けた。今度は君が私を助ける。ほら、何もおかしいことなんてない」
「……なんか、すごく不公平な取引じゃない?」
「そんなことはないさ。それともなにかい? 君はあのとき、助けは必要なかったのかい?」
「それは……」
ぐぬぬっ!
それを言われてしまうとなにも言い返せない。
そんな出来事があった。
それは数週間前。
運悪くコイツと出会ってしまったときの話だ。