そこに触れちゃダメ!
「「「「はぁ……」」」」
四人同時に溜め息が出た。
「「「「……」」」」
な、なに?
なんで急にこんな雰囲気になってんの?
さっきまでのバカ騒ぎはどこに行ったの?
「な、なに?」
「う、ううん。何でもないよ?」
「そうそう、何でもない、何でもない」
絵里ちゃんと裕二はなんでもないって言うけど、同じタイミングで溜め息って……。
と、そんな疑問を持ったとき、淳史が恐ろしいことを口にした。
「……やっぱり、課題は見せるべきじゃなかったかと思ってな」
「「今さらそれはひどい!!」」
「あ、安心して! 私は見せてあげるから!」
「絵里ちゃん、マジ天使!」
「あっくんは悪魔だ! このインテリヤク……」
「あ?」
「いえ……なんでもありません……」
あーあ、馬鹿だねえ裕二。それは禁句なのに。
それはともかく、裕二と淳史のせいでみんなの溜め息の理由を追及しそびれた。
あ、でも、それを追及すると、あたしの溜め息の理由も話さないといけないし……でも気になるし……。
ああ、もう!
「……冗談だ。ちゃんと見せてやるから」
「あっくぅん……」
「だあっ! 気持ち悪い目でコッチ見るな!」
「ひどいよ、あっくぅん」
「ふふふ」
なんか、いつの間にか元の雰囲気に戻ってる。
なんだかなあ、最近こういう微妙な雰囲気になることが多いんだよねえ。
(なんともまあ、青春だねえ)
「っ!!」
唐突に聞こえた呟きに、あたしは思わず身体を硬直させた。
「ん? 今なんか聞こえなかった?」
げっ!
裕二のやつ、頭悪いくせに耳はいいんだから。
「え? 別に聞こえなかったけど……」
「裕二お前、幻聴が聞こえるって……なにかヤバイことしてないだろうな?」
「してないよ! あっくんひどい!」
ナイス淳史!
淳史のツッコミのお陰で、裕二に聞こえたのは空耳ということで収まりそうだ。
「麻衣は聞こえたよな!? なんかビクッてしてたし!」
なんでコッチに振るのよ!?
っていうか、よくそんなとこまで見てたわね?
「し、してないわよ。幻聴だけじゃなくて幻覚まで見えるって……」
「裕二……やっぱりお前……」
「だあっ! 違うから! おっかしいなあ……確かに聞こえたと思ったんだけど……」
良かった……。
どうにか裕二の気のせいで終わりそうだ。
ホッとしたあたしは、思わず自分の鞄を睨んでしまった。
「あれ? 麻衣ちゃん、そんなぬいぐるみ持ってたっけ?」
「え?」
あたしの視線を追ったのか、絵里ちゃんが鞄に付いているものに気付いた。
やばっ。
「おお、本当だ。へえ、結構可愛いじゃん」
「そういえば、ちょっと前からつけてるよなそれ。どうしたんだ?」
他にも色々と鞄に付けてるからバレてないと思ってたのに、淳史は気付いてた?
そのことはちょっと嬉しいけど、この場はなんとか誤魔化さないと。
「え!? あ、景品! UFOキャッチャーの景品だよ!」
「へえ、どこのゲーセン?」
なんで裕二はそこ突っ込んでくるかな?
いいじゃん、どこでも!
「え、駅前のよ」
「ああ、あそこかあ。私も行ってみようかな」
絵里ちゃんまで!
「ど、どうかな? あそこって結構景品の入れ替わりが激しいから、もう無いかも」
「そっかあ、残念」
ほっ……なんとか引き下がってくれた……。
「それは自分で取ったのか? それとも……」
なんで淳史まで乗っかってくるのよ!
「自分で取ったに決まってるでしょ!」
「本当か? お前、そういうの苦手だったろ」
ああもう、こういう時なんでも知ってる幼馴染って面倒くさい!
「た、たまたま取れたのよ」
「そうか」
あ、あれ?
意外とあっさり引き下がったな。
「でも、本当に可愛いよね、これ。なんてキャラクターなの?」
「え? えーっと、なんだったかなあ……あはは、忘れちゃった」
「そっか。でもいいなあ、私もどっかで見つけたら絶対取ろ」
「み、見つかるかなあ……」
見つけたら見つけたで、とても面倒なことになるよ?
なんせこれ……。
ぬいぐるみじゃないから。