揺れる想い?
「怪我はないか?」
そう聞いてくるNINJAの声であたしはハッと我に返った。
「お、遅いのよ!!」
あたしは、赤くなった顔を誤魔化すように、NINJAに悪態をついてしまった。
するとNINJAは、呆れたように言った。
「助けてもらっておいて、その言い草はないだろう」
「う……」
確かに、その通りだ。
NINJAはあたしのピンチを救ってくれた。
それに対して文句を言うのはさすがに無礼過ぎる。
「あ、ご、ごめん。その、ありがと……」
あたしがお礼を言うと、NINJAは覆面から唯一見える目を大きく見開いた。
ちょ、なにそれ。
「まさか、素直に礼を言うとは思わなかった」
「助けてくれたんだから礼くらい言うわよ」
「そうか。それにしても、お前が苦戦するとは、一体どんな……」
そう言って、攻撃を受け止められたあと、あたしたちから距離を置いている絵里ちゃんを見たNINJAは動きを止めた。
コイツ、咄嗟に攻撃を受け止めたから絵里ちゃんのこと見てなかったな。
そういやコイツ、あたしの知り合いかもしれないんだっけ。
ということは、絵里ちゃんのことも知ってる可能性があって、絵里ちゃんが悪魔憑きになってるから驚いたのかも。
それは確かめておかないと。
「ねえ」
「なんだ?」
「アンタ、この子のこと知ってるの?」
「……」
「やっぱり……アンタ、あたしの知り合いなんだね」
「それは……」
「そのことは今はいいや。それより、このこと誰にも言わないでくれる?」
「このこと?」
「絵里ちゃんが……こんなことになってるってこと」
「それは……」
「お願い。絵里ちゃんのことはあたしがなんとかするから、まだ誰にも迷惑かけてないから。だから誰にも言わないで!」
あたしは、必死にお願いをした。
世間では、心に闇を持っている人間が悪魔憑きになりやすいと認識されている。
それは間違いではないけど、絵里ちゃんが悪魔憑きになったと知れたら、絵里ちゃんは心に闇を持ってると皆に見られる。
そんなこと、絶対言わせない。
そう思ってNINJAにお願いした。
すると。
「分かった。このことは我の心にしまっておく」
NINJAは、このことを口外しないと約束してくれた。
「そう。助かるわ」
「別に構わん。それで、どうするんだ?」
離れた場所からあたしたちの様子を伺っている絵里ちゃんを見ながら、NINJAがそう言った。
どうするとは、どうやって絵里ちゃんを正気に戻すかってことね。
「正直、今までの人と比べて動きが早過ぎる。あたしが力を溜めてる暇がない」
「そうか、なら……」
NINJAはそう言うと、絵里ちゃんに向かって行った。
「我が足止めしておいてやる!」
突然飛び掛かってきたNINJAを、絵里ちゃんは拳で迎え撃った。
絵里ちゃんのそんな攻撃的な姿と、般若みたいな顔を見て、あたしは悲しくなった。
だって、あの絵里ちゃんが……あたしの親友の絵里ちゃんが、長い髪を振り乱し、鬼の形相でNINJAに攻撃をしている。
こんな姿、見たくなかった。
「お、おい! なにをしている魔法少女! さっさと力を溜めろ!!」
「はっ!」
NINJAの言葉で、我に返った。
さっきからNINJAは、自分から攻撃していない。
最初の一撃は、絵里ちゃんの意識を自分に向けさせるためのものだったんだ。
それ以降は、ずっと絵里ちゃんの攻撃をいなし続けてる。
それは身体能力向上だけでは片付けられない、洗練された動きだった。
多分、武道経験者なんだろう。
装備によって身体能力が向上している今のNINJAなら、多分絵里ちゃんを抑え込むのは造作もないはず。
なのに、絵里ちゃんが怪我をしないように、自分から攻撃をしかけないなんて……。
アイツ、口は悪いけど、意外と良い奴なのかも……。
って! あたしはなにを考えてるんだ!
淳史以外の男を、ちょっと良いなと思うなんて!
あたしって、意外と浮気者なの?
ちょっと、うそ、信じられ……。
あ、NINJAがこっち向いた。
「てめえ! いい加減にしろ!」
「あっ、ご、ごめん!」
ヤバ、変なこと考えて力を溜めてなかった。
あたしは、急いで力を溜め始めた。
その様子に気付いた絵里ちゃんがこちらに向かおうとしてるけど、それをNINJAが必死になって止めていた。
「うあぁあぁあぁ!!」
「お前の相手は我だ! アイツに手は出させん!!」
だから! そんなちょっとドキッとすること言うんじゃないわよ!
意識しちゃうじゃない!
そんなはずはないと、自分に言い聞かせながらステッキに力を溜める。
そして、やっと力が溜まった。
「絵里ちゃん! 元に戻って!!」
あたしは、そう言いながら絵里ちゃんに向かって力を解放した。
「ちょ……お前ええ!!」
「あ」
あたしの放った極太の光線は、絵里ちゃんを包み込んだ。
足止めしていたNINJAと共に。
とはいえ、一度放出したものは止められない。
そのまま光線を撃ち続け、ようやく光が収まったあとに残っていたのは……。
倒れて意識を失っている絵里ちゃんと、膝をついているNINJAの姿だった。
「あ、あれ? 無事だった?」
「お前えっ!!」
「ひゃっ!」
膝をついていたNINJAが、突如あたしに詰め寄ってきた。
ちょっ! 近い! 近いから!!
「怖かった! メッチャ怖かった!! 我らの攻撃がギデオンにしか効かないと分かっててもメッチャ怖かったぞ!!」
「あ、ご、ごめんて! 悪かったわよ! だから近寄らないで!」
あたしが必死にそう言うと、NINJAは離れてくれた。
どうしよう……NINJAに迫られたとき、不覚にもドキドキしてしまった。
え? うそでしょ……この長年の想いが心変わりしたっていうの!?
あたしは急いで淳史のことを思い浮かべた。
やっぱりドキドキする。
うん、これはあれだ。
吊り橋効果ってやつね。
緊張状態にあって、ちょっとアイツの格好いいとこ見ちゃったから、意識してしまっただけよ!
良かった、あたし浮気者じゃなか……。
「おい」
「ひゃい!」
思わず変な声が出てしまった。
咄嗟に口を塞ぐあたしを、NINJAは変な目で見てきた。
「な、なによ?」
「なにって、お前……コイツのことどうするつもりだ?」
「あ……」
NINJAの視線の先を辿っていくと……。
そこには、ギデオンを浄化され意識を失い、すぅすぅと寝息をたてている絵里ちゃんの姿があった。