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ヒーロー? は遅れてやってくる

「麻衣」

「おわっ! びっくりした!」


 絵里ちゃんちからの帰り道、人通りがなくなったところで急にネルから声をかけられた。


 ちょ……マジでビックリしたんだけど……。


「アンタ、また外で話しかけてきて!」

「人がいなくなるまで待っていただろう。それより、麻衣」

「なによ? ……って、まさか?」

「ああ、そのまさかだ」


 ええ? このタイミングで?


 ここ、外なんですけど?


「今なら人目はない。すぐに変身するんだ!」

「あーもう! 分かったわよ!」


 人通りが無くなるまで待っていたという言葉からするに、ギデオンが発生したのはもうちょっと前になるんじゃないか?


 そう思ったあたしは、文句を言いつつも人目がないことを確認したあと、すぐに装備を展開する。


「それで? ギデオンの反応はどこ?」


 あたしがそう問いかけるが、ネルからの反応がなかった。


「ネル?」

「……ギデオンの反応は」


 返事がなかったネルに再度問いかけると、ようやく反応してくれた。


 そして、その口から出た言葉に、あたしは驚愕した。


「……今、麻衣が出てきた家だ」

「……え?」


 一瞬、その言葉の意味が理解できなかった。


「ちょっと……もう一回言って」

「だから、ギデオンの反応は、麻衣がさっきまでいたあの家」


 ネルはそう言いながら、視線をある一点に向けた。


「絵里の家だよ」


 絵里ちゃんの家を見ながら、そう言った。


「うそ……」

「嘘じゃない。とにかく、急いで行くぞ!」

「あ、うん……」


 ネルの言葉に呆然としてしまっていたあたしは、フラフラとした足取りで絵里ちゃんの家に向かった。


 おぼつかない足取りでようやく着いたとき、今まで絵里ちゃんの家からは聞いたことがない大声が聞こえてきた。


「絵里! 絵里! どうしちゃったの!? やめなさい!!」

「ぅううあああっ!!」


 その声を聞いたあたしは、二階にある絵里ちゃんの部屋の窓まで飛び上がり、中の様子を窺った。


 するとそこには、今まで見たことがない形相で暴れる絵里ちゃんと、意味が分からず狼狽えるおばさんの姿があった。


「まさか……絵里ちゃんが……」

「信じたく無い気持ちは分かるが、これは現実だ。早く絵里を解放してやらなくてはならない」

「わ、分かってるわよ!」


 思わずそう叫んだけど、それでもあたしはまだ信じ切れずにいた。


 だって、あのお淑やかで優しい絵里ちゃんが鬼みたいな形相で暴れてるんだよ?


 そんなの、実際にこの目で見たって信じられないよ。


 しかし、現実は残酷だ。


 あたしがそうやってグズグズしていると、新たな展開があった。


「あ! 絵里!」

「え? きゃあ!?」


 絵里ちゃんが部屋の窓を突き破り、外に出てしまったのだ。


「マズい! 追うぞ麻衣!」

「う、うん!」


 辺りはもう暗くなり始めているとはいえ、人が屋根伝いに飛び回っていると誰かに見られるかもしれない。


 そうしたら、絵里ちゃんはご近所から奇異の目で見られるかもしれない。


 それはなんとしても避けないと!


 あたしは、ネルと共に絵里ちゃんを追いかけたけど……。


 くっ! やっぱりギデオンに取り憑かれた人間は、身体能力が大幅に上がるのか、移動するスピードが尋常じゃない。


 あたしだって必死に追いかけてるけど、中々追いつかない。


 しかも、この方角は……。


「ヤバイ……このままだと繁華街に出ちゃう!」

「そうなると、大勢の人の目に晒されるな。動画も撮られるだろうし、配信もされるだろう」


 そんなの! 絶対にさせられない!


 どうにかして繁華街に着くまでに捕まえないと!


 そう思って必死に追いかけるあたしの目に、とても都合のいいものが映った。


「あそこなら!」


 あたしの目に映ったのは、以前亜理砂ちゃんと一緒に練習をした公園だ。


 あそこに連れ込めば人目にもつかない。


 そう判断したあたしは、全力を振り絞って絵里ちゃんに追いついた。


 そして……。


「絵里ちゃん、ゴメン!」


 思いっきりタックルした。


「げふっ!」


 強化されて、普通の人間には傷一つ付けられなくなっているけど、あたしはネルの装備を身に付けている。


 そんなあたしからタックルされた絵里ちゃんは、ちょっとヤバ目な声を出して吹っ飛ばされた。


「ああ! え、絵里ちゃん、ゴメン!!」

「おい麻衣、あまり絵里の名前を呼ぶな。周囲にあれが絵里だと気付かれるぞ」

「そういうアンタも、あたしのことほいほい名前で呼ぶんじゃないわよ!」

「そんなことより、奴が立ち上がってきたぞ」

「くっ! 露骨に話題を逸らしたわね……」


 そういえば、さっきは動揺していて見逃したけど、コイツ絵里ちゃんのおばさんの前でもあたしの名前を呼びやがったわね。


 おばさんも混乱してたと思うから、聞こえてはないと思うんだけど……。


 もし知り合いにこんなことしてるのがバレたらどうしてくれるんだ!


「! 来るぞ!」

「うぅうぅ……ああああっっ!!」


 絵里ちゃんが、今まで聞いたこともない声を出し、今まで見たこともない表情をしてあたしに襲いかかってきた。


 そのあまりに異様な光景に、一瞬身が竦むが、間一髪で絵里ちゃんの攻撃を避けることができた。


「くっ!」

「すぐに離れるんだ!」

「分かってるわよ!」


 ギデオンを浄化させる攻撃を放つにしても、多少の溜めは必要になる。


 近すぎると攻撃されるのでギデオンからは離れないといけない。


 けど絵里ちゃんは、強化された身体能力を使って、離れようとしているあたしに肉薄してきた。


「うそっ!」

「ああああっ!!」

「わっ!」


 思いっきり振りまわしてきた右腕を間一髪でしゃがんで避ける。


 あっぶな!


 今の食らってたら、いくら強化されてても吹っ飛ばされちゃうよ!


「なにこれ!? 絵里ちゃん、強くない!?」


 必死に絵里ちゃんから遠ざかりながらネルに尋ねると、とんでもないことを言った。


「それだけ、心に巣くっていた闇が大きいんだろう! それがギデオンにより増幅されてしまっている!」

「そ、そんな……」


 まさか、絵里ちゃんが?


 あのお淑やかで、優しくて、怒ったところなんて見たことがない絵里ちゃんが?


 心に大きな闇を抱えていたっての?


「う、嘘よ! そんなの信じられない!」

「信じようが信じまいが、今目の前で起こっていることが現実だ!」


 あたしは、ネルのその言い分に言い返すことができない。


 いくらあたしが否定しようと、絵里ちゃんはギデオンに取り憑かれて悪霊憑きになっているし、今までの悪霊憑きになった人と比べても身体能力が高い。


 それは、認めざるを得ない事実だった。


「っ! また来た!」


 いつまでもあたしがウダウダしているせいで、絵里ちゃんは体勢を整え、またあたしに向かって突っ込んできた。


 その攻撃も、なんとか躱す。


 身体能力は上がってるけど、理性がないみたいだから動きが直線的なのが救いだな。


 真っ直ぐ向かってきてくれるので、まだ避けられる。


 けど……。


「このままじゃ、浄化の光が使えない!」


 動きが速すぎて、溜めに必要な時間と距離を保てない!


 打つ手がないと思ったそのとき。


「麻衣! 危ない!」


 どうしようかと一瞬考えた隙に、絵里ちゃんが目の前まで迫っていて、その腕を振るうところだった。


 ヤバイ、避けられない!


「きゃああっ!!」


 思わず手を交差させて防御する体勢を取った。


 けど、いつまで経っても衝撃はこない。


 あたしは、恐る恐る目を開けてみた。


 すると、そこに……。


「随分と苦労しているようじゃないか、魔法少女」


 絵里ちゃんの攻撃を受け止めているNINJAがいた。


 そんなNINJAに、あたしは不覚にもドキッとしてしまった。



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