あの合コンは、普通の合コンだった?
いつもながらに退屈な授業が終わり、ようやく放課後になった。
授業が終わった解放感と、今日これから久々のカラオケに行くことで、あたしのテンションは密かに上がっていた。
「じゃあ、麻衣ちゃん。私、委員会に行くから今日は先に帰ってて」
「ん、おっけー」
「じゃあね」
「はーい、委員会頑張って」
そう言って絵里ちゃんを委員会に送り出したあと、すぐに裕二が話しかけてきた。
「おーい麻衣、もう行ける?」
「おー、もう大丈夫だよ」
「そんじゃ、行こうぜ」
「うぇーい!」
カラオケが楽しみすぎて、変なテンションになってしまった。
そんなあたしを見て気になったのか、友達が話しかけてきた。
「あれ? 麻衣っち、裕二君とどっか行くの?」
この子は、あたしをあの合コンに誘った子、由利ちゃんだ。
「んー、カラオケー」
「へえ……二人で?」
ん? なんか変な目してない?
あ……そっか。
由利ちゃん、あたしが淳史のこと好きなんだって知ってるんだっけ……。
それなのに裕二と一緒に遊びに行こうとしてるから、おかしいと思ってるのかも。
「まあ、裕二は幼稚園からの幼馴染だからね。一緒に遊びに行ってもおかしくないっしょ?」
「あ、そうなんだ。幼稚園から? 凄いね」
「まあね。ちなみに、淳史と絵里ちゃんもそうだよ」
「へえ! そうなんだ。なんかいいねえ」
あたしが由利ちゃんと話しをしてると、裕二も会話に参加してきた。
「お、なんだったら由利も一緒に行く?」
「あー、行きたいのはやまやまなんだけど、今日は無理なんだー」
「えー、なに? デート?」
「えっへっへ。実はそうなんだ」
「うぇ!?」
冗談のつもりで言ったのに、まさか本当だったとは!
っていうか、彼氏いんのに合コン参加してたの?
「この前の合コンで知り合った大学生の人なんだけどさあ」
おっと、あの合コンで彼氏ができたのか。
でも、あの大学生の中から彼氏って……。
「え……それって大丈夫なの?」
「大丈夫って、なにが?」
「えっと……変なことされてない?」
「されてないよー。彼、すっごい優しいし。大学生で大人だから、なんてゆうか余裕? みたいなのあるし」
「そ、そうなんだ……」
あたしにとっては最悪な思い出しか残ってないから、参加してた人みんなあの人みたいなんだと思ってたよ。
そんなあたしの様子に気付いたのか、由利ちゃんは苦笑していた。
「あー、確かにあのとき麻衣っち、変なのに絡まれてたもんねえ」
「……あの印象しかないから、参加者みんなクズばっかだと思ってた」
「あー、あはは。そういえば、彼が麻衣っちに謝っといてって言ってた。嫌な思いさせてゴメンって」
「謝るくらいなら、最初から参加させないでよ……」
アイツが参加しなければ、女子の人数が足りなくなることもなかったし、あたしもあんな目に合わずに済んだ。
それに、ネルにあって魔法少女になることもなかったのに。
あたしが愚痴をこぼすと、由利ちゃんは少し真剣な顔になった。
「例のあの人が幹事だったんだけど、まさか相手高校生なのに居酒屋予約してるとは思わなかったって。それに、まさかあんな態度に出るとは思わなかったらしいよ? 普段は大人しい人だって言ってたし、それに……」
由利ちゃんは、そこで言葉を切ると小声で言った。
「ほら……例のアレの、最初の感染者らしいし……」
「あー……」
ギデオンに取り憑かれた悪魔憑き。
具体的な理由を知らない世間一般では、悪魔憑きになった人のことを感染者と呼んでいる。
それにしても、そうか。
普段からそういう人だから、ああいうことになったと思っていたけど、そうじゃないんだ。
そういう願望があっただけってこと?
それだと、誰がギデオンに取り憑かれてもおかしくないってことか。
「それにしても、麻衣っちはよく無事だったね?」
「え? あ、ああ。あたし、速攻で逃げて帰ったから……」
思わず考え込んでいたところに、由利ちゃんから声をかけられたから、咄嗟に嘘を言ってしまった。
ホントの事話すわけにもいかないし。
由利ちゃんは、そんなあたしの嘘に納得した顔をした。
「そっかー。それじゃあもしかして、麻衣っちに逃げられたから暴れ出したのかもねー」
「あ、あはは。そ、そうかもねー」
なんでズバリ言い当ててんのよ。
由利ちゃん、怖っ。
「あ、そろそろ行くね。カラオケ、楽しんできてね」
「うん。由利ちゃんも、デート楽しんでね」
「はーい、裕二君もまたね」
「おう」
由利ちゃんはそう言うと、さっさと教室を出て行ってしまった。
さて、それじゃあたしたちもそろそろ行こうかと思っていたところで、裕二に声をかけられた。
「麻衣、お前……」
「なに?」
その顔は凄く真剣だ。
なんだろ?
不思議に思っていると、裕二は凄く悔しそうな顔をしながら言った。
「……なんで俺も合コンに誘ってくれなかったんだ!」
「……」
「ああ! 俺も合コンしてえっ!」
「……はぁ」
なんでコイツは、こんなに残念なんだろうなあ……。
「あたしだって別に参加したくてしたわけじゃないよ。由利ちゃんが女子の人数が足りないっていうから、人数合わせで行ったの。裕二が来たら、また女子足りなくなるじゃん」
「それもそっか」
軽っ。
さっきの真剣な顔はどこいったのよ。
「そんじゃ、そろそろ行こうぜ」
「……あー、そうね」
はぁ、もう。裕二のことで深く考えるのやめよ。
心配とか、同情するだけ損だし。
とりあえず、今日はカラオケを楽しむか。
「あ、そうだ。俺も友達誘って合コンしよ」
「勝手にすれば?」
そんな会話をしつつ、あたしと裕二はカラオケ店に向かうのだった。