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仲良し幼馴染

「あ、お姉さん。おはようございます」

「おはよう亜理紗ちゃん。毎朝ゴメンねえ」


 アタシが玄関を出ると、光二がクラスメイトの亜理紗ちゃんと合流したところだった。


「いえ、私が好きでしてることですから。それにコウちゃん、私が迎えに来ないといっつも時間ギリギリで登校してくるので」

「まったく、我が弟ながら情けないわねえ。なんなら……」

「ちょっ! 亜理紗! 余計なこと言うな!」


 あたしのさっきの言葉を思い出したんだろう。光二が慌ててあたしの言葉を遮った。


「余計なことってなによ。折角こうして迎えに来てあげてるのに!」

「分かったから! ありがたいと思ってるから!」


 光二はそう言うと、これ以上余計なことを言うんじゃねえという目であたしを睨んできた。


 はっはっは、馬鹿め。古今東西、姉に勝てる弟など存在しないのだよ。


「じゃあお姉さん、私たち行きますね」

「はーい、行ってらっしゃい」

「ほらコウちゃん、行くよ」

「分かったから! 腕掴むんじゃねえって!」

「なによぉ、いいでしょ別に」

「良かねえよ!?」


 あーあ。


 小六男子が女子と腕組んで登校なんて、見られたらネタにされること間違いなしね。


 ご愁傷様。


「相変わらず、あの二人は仲がいいな」

「あ、淳史」


 初々しい小学生カップルを見送っていると、向かいの家から淳史が出てきた。


 身長一八〇センチと背が高く、黒髪の短髪をしっかりとセットし、おしゃれな眼鏡をかけている容姿は、いかにも優秀な生徒会長のイメージにピッタリだ。


 それでいて実戦武術の道場の跡取りだから、体格もいいし姿勢もピシっとしているし、成績も常にトップクラス。


 完璧。


 まさに完璧超人だ。


 そんな淳史が、光二と亜理紗ちゃんを微笑ましいものを見る目で見ながらこちらに近付いてくる。


 うわああ、朝からそんな笑顔見せんな!


 惚れてまうやろ!


「おはよう麻衣。朝ごはんは……ちゃんと食べたみたいだな」

「食べたけど……なんで分かるのよ?」


 あたしがそう言うと、淳史はフッと笑ってその手をあたしの顔の方に伸ばした。


 うわ、うわっ!


 このシチュエーションって!


 思わず硬直していると、淳史の指があたしの口元をなぞった。


 こ、これは!


 今朝の夢とおんなじ!!


「食べかす付いてる」

「へ?」


 淳史はあたしの口元を拭うと、何かをつまみながらそう言った。


 食べ……かす……?


「な、ななな……」

「慌てて食べたんだろう? ゆっくり食べないと体に悪いぞ?」

「わ、分かってるわよ!」


 ぎぃやああっ!!


 食べかすってなによ!? 食べかすって!!


 よりにもよって淳史にそんなの見られるなんて!


「まったく、そんな格好してるくせに、中身は昔と変わらないな麻衣は」

「そんな格好ってなによ? 可愛いでしょ?」


 バッチリメイクに肩まで伸びたふわふわの茶色い髪、ちょっと丈の短いスカートに少しだけ開いた襟元。


 自分で言うのもなんだけど、どっからどう見ても、今どきの可愛い女子高生じゃん。


「まあ、可愛いっちゃ可愛いんだけど、中身がなあ……」

「中身?」

「昔、ウチの道場に来てた頃の……子猿」

「ムキャアア!!」


 子猿ってなによ! 子猿って!


 そ、そりゃあ昔は多少その、お転婆だったかもしれないけど、子猿はないでしょ子猿は!


「あはは! ム、ムキャアって! そういうところだよ、プッ、あははは!」

「ぐぬぬぬ」


 確かに、思わずムキャって言ったけど!


 くそう、腹を抱えて笑っている淳史に、なにも言い返せない!


「はあ……朝から笑ったわ」

「ふーん! どうせあたしは子猿のままですよ!」

「本当にな」

「ひ、否定してよ……」

「麻衣も、絵里くらいおしとやかになればいいのに」

「う……」


 淳史のその一言で、さっきまでの楽しい気持ちが沈んでしまう。


「やっぱり……淳史は絵里ちゃんみたいなおしとやかな子の方がいい?」

「ん? なんで?」

「だって……」


 あたしがそう言ったときだった。


「あ、麻衣ちゃん、淳史君、おはよう」

「絵里ちゃん! おはよ!」

「おはよう絵里」


 ついさっき、淳史の話に出てきた絵里ちゃんが合流した。


 絵里ちゃんは、あたしと淳史と幼稚園のころからの友達だ。


 ロングの黒髪が綺麗な、おしとやかな深窓の令嬢みたいな女の子。


 制服も、あたしみたいに着崩さず標準できっちり着ても十分可愛い。


 淳史と並ぶと……悔しいけど、これ以上ないくらいお似合いだ。


 あーあ、あたしも絵里ちゃんくらい綺麗だったら、こんな努力なんてしないのに。


「なんの話をしてたの?」

「ああ、えっと……」


 絵里ちゃんがさっきの話を蒸し返した。


 いや、絵里ちゃんはさっきの話を知らないんだけど、できればその話題は……。


「ああ、麻衣の中身が子猿だって話」

「あつしぃっ!!」


 なんでストレートに言っちゃうのかな!?


「こ、こざる……」


 ちょっと絵里ちゃん?


 なんで口を抑えてプルプルしてるのかな?


「だ、だめ、だよ……お、女の子に、そんな、こと、言っちゃ……」

「笑いこらえながら言ってんじゃないわよ!」


 絵里ちゃん! アンタはあたしの味方だと思ってたのに!


 くそっ! そんなやつは羽交い絞めにしてやる!


「きゃあ! ゴ、ゴメ、あはは!」

「ムキャアア!」

「あはは! ほら、また言った」

「ま、まいちゃん、ぷっ……もう勘弁して」


 二人とも笑い過ぎて涙が浮かんでるよ!


 くそう、あたしの中身が子猿なのは共通認識なのか?


「お、なになに? 朝から楽しそうじゃん」


 淳史と絵里ちゃんとじゃれ合いながら登校していると、もう一人合流してきた。


「おう裕二。お前は……朝からいかがわしいな」

「ちょっ! あっくん、ひどくね!?」


 あたしよりも明るい茶髪に、淳史とほぼ同じくらいの身長の男子。


 だけど、淳史に比べるとかなり軽薄な印象を受ける。


 こいつも、淳史や絵里ちゃんと同じく、幼稚園からの友達。


 朝の光二とパパの会話にも出てきた、裕二だ。


 あたしを含めたこの四人は、所謂幼馴染。


 大人しくて可愛い絵里ちゃんと、昔から遊ぶことに命を懸けていた裕二、それを諫める淳史とあたし。


 昔からずっと同じ、仲良し四人組なのだ。


 だから、この四人の間にあまり遠慮とかはない。


 今も、裕二が絵里ちゃんの肩に手を置いて助けを求めている。


「絵里も、あっくんになんか言ってやってくれよ」

「え、ええ?」

「ちょっとお、絵里ちゃんに触るんじゃないわよ。妊娠するでしょ」

「触っただけでするか!」

「どうだか」

「お前なあ!」

「あ、あはは……わ、私は別にいいけど……」

「え? なに絵里ちゃん」

「う、ううん! なんでもない!」

「そう?」

「まったく、朝から騒がしいな」


 裕二と絵里ちゃんとそんな話をしていたら、さっきの騒ぎの元凶がなんか言った。


「いや……あっくんもさっき騒いでたじゃん」

「そうだったか?」

「そうだよ! なあ、なんの話してたの?」

「う……いや、その、ゆ、裕二には関係ない話だから!」


 またさっきの話を蒸し返されてたまるか!


「ええ~? なんだよそれ? 俺だけ仲間外れかよ」

「べ、別にそんなんじゃ……」


 うう……確かに、これじゃあ裕二を除け者にしているみたいに見える。


「なあ、いいじゃんか、教えてよ」


 そう言いながら、裕二はあたしの肩に手を回した。


「あ……」

「む……」


 あうう、どうしよう?


 言わないと仲間外れみたいだし、言ったらあたしが恥ずかしいし……。


 あたしが悩んでいると、淳史が裕二の手をとってあたしの肩から外させた。


「麻衣の中身が子猿だなって話」


 ああ!!


 淳史のやつ、あたしが悩んでいるのにあっさり言った!


「こざる……」


 裕二はそう言ってあたしを見てしばらく考えたあと、下を向いて肩をプルプルと震わせ始めた。


 あ、これは……。


「ぶはっ!! こ、こざる!! フハハハ! た、確かに!!」

「裕二ぃ!! アンタ、絵里ちゃんと同じようなリアクション取ってんじゃないわよ!!」


 下向いてプルプルし始めたときから感付いてたわよ!


 幼馴染だからって同じリアクション取らんでもよかろうが!


「お、同じ……」


 絵里ちゃんがなんか変なリアクション取ってるけど、今のあたしはそれどころじゃない。


 裕二と、要らんことを言った淳史をとっちめないと!


「本当のことだろ」

「確かに。ピッタリだわ」

「ムキャアア!」

「「「ぷっ! あははは!!」」」

「絵里ちゃんまで!?」


 ちくしょう! あたしの味方は一人もいないのか!?


 こんな感じで、あたしたち四人はとても仲がいい。


 付き合いも長いし、まさに『気の置けない友人』ってやつだと思う。


 けど……最近、微妙なこともあるんだよね……。


「あー、朝から笑ったわ」

「ぐぬぬ……」


 笑い過ぎて出てきた涙を拭いながら裕二が言った言葉に何も言い返せないでいると、絵里ちゃんが恐ろしいことを口にした。


「ふふ。あ、そういえば麻衣ちゃん、数学の課題やってきた?」

「え? ……ああ! しまった!!」

「え? そんなのあったっけ!?」


 数学の課題! すっかり忘れてた!


 裕二は課題が出たことすら覚えてなかったらしい。


「おいおい、何やってるんだ二人とも。特に麻衣。お前、今朝ギリギリだったのは夜遅くまで課題をやってたからじゃないのか?」

「う! そ、それは……」

「麻衣ちゃん、今日ギリギリだったの?」

「ああ、口元に食べかす付けて……」

「わああ! それを言うなあ!」


 これ以上、恥の上塗りをされてたまるか!


「もう、相変わらずだなあ、麻衣ちゃんは」


 あっさり受け入れられた!?


 あたしってそんなイメージなの!?


「あ、それより淳史君、一つ分からない問題があったんだけど、聞いていいかな?」

「ん? どれ?」

「えーっとね、ちょっと待って」


 そう言った絵里ちゃんは、鞄から数学のノートを取り出し淳史に見せた。


「この問題なんだけど」

「ああ、この問題は……」


 ……こうして課題のことを話し合っている二人って……。


「……やっぱ、絵になるよなあ……」

「え?」

「ん? ああ、いや。なんでもない」


 裕二があたしと同じ感想を抱いていたことに驚いた。


 そっか、やっぱり誰の目から見ても、あの二人はお似合いだよね……。


「はあ……それに比べてあたしは……ああ、怒られる未来しか見えない……」

「しょうがねえよ。仲良く一緒に怒られようぜ」

「ゆうじぃ……」


 そんな風に、優等生二人の後ろで裕二と劣等生同士の友情を確かめていたら、前を歩いている二人が急に振り返った。


「ま、麻衣ちゃん! 良かったら、私の課題写す?」

「しょうがないな。裕二、俺の見せてやるから、授業までに写せ」

「「え!? いいの!?」」


 二人だったら、課題は自分でやらないと意味がないとか言いそうなのに!


「わーい! ありがと、絵里ちゃん!」

「わっ! ふふ、お安い御用だよ」

「うおお! やっぱ、あっくんはサイコーの友達だ!」

「ぬわっ! 暑苦しいから抱きつくな!」


 あたしたち劣等生を救ってくれた救世主な優等生二人に、思わず抱きついてしまった。


 これがあたしの日常。


 ほんの数週間前までは、こんな日常がずっと続くと思ってたのになあ……。


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