幼馴染なんてそんなもの?
「おはよう、淳史」
大騒ぎだった週末を終え、今日からまた学校が始まる。
今日も迎えに来た亜理紗ちゃんと光二を見送っていると、向かいの家から淳史が出てきたので朝の挨拶をした。
んだけど……。
「あ、あれ? 淳史?」
挨拶をしたのに、淳史は険しい顔をしたまま返事を返してくれなかった。
武道を嗜む淳史が、今まで挨拶を欠かしたことなんてない。
けど、実際に今返事を返してもらえてない……。
え? あ、あたし……なにかした?
そんな不安に駆られていると、淳史は一旦後ろを向き、大きく深呼吸をしてからもう一度あたしを見た。
「おはよう麻衣」
ようやく返事を返してくれた。
けど……今のなんだったの?
「う、うん。どうしたの?」
「いや、別になんでもない」
「そ、そう……」
うう……本当になんでもないんだろうか?
今まで、あんな反応したことなんてなかったのに……。
メッチャ気になるけど、なんでもないって言われちゃったし、これ以上追求するのも怖いしなぁ。
そんなことを悶々と考えていたから、なんか変な雰囲気になっちゃって珍しく終始無言で通学路を歩いていた。
「麻衣ちゃん、淳史君、おはよ……どうしたの? 二人とも」
途中で合流した絵里ちゃんも、あたしたちの妙な雰囲気を感じ取ったのか、会うなりどうしたのかと聞かれた。
「え? あ、いや。別になんでもないよ?」
「そうなの?」
絵里ちゃんはそう言うと、敦史を見た。
「ああ、別になんでもない」
「そう、ならいいけど……」
そうは言いつつも、ちょっと腑に落ちない感じだな絵里ちゃん。
あたしもだよ……。
「そうだ、絵里ちょっといいか?」
「ん? なに?」
「いや、今日の放課後のことでな」
「ああ、委員の集まりね」
「そう。ちょっと頼みたいことがあってな」
「うん、いいよ。なに?」
「実は……」
あ、また二人で難しい話してる。
今話してるのは、クラス委員会議の話かな?
あたしは、今まで一度もクラス委員なんてものに選ばれたことがないから、二人の話は全く分かんない。
絵里ちゃんは昔から頭がいいし、優しくて面倒見もいいからよく委員長に推薦されてた。
淳史にいたっては生徒会長だ。
なので、あたしは二人の会話に入っていけない。
それでなくても、淳史と絵里ちゃんが二人で話す内容は難しいことが多くて、二人が話し出すとあたしは蚊帳の外に追いやられた錯覚に陥ってしまう。
なんか……やだな……。
朝から淳史の態度は気になるし、絵里ちゃんと二人で話してるのを見てモヤモヤしていると、救世主が現れた。
「おーっす!」
「おっす裕二!」
一人で勝手に疎外感を味わっているところに、同士が現れた。
思わず大声で挨拶しちゃったよ。
「お、おう。なに? 朝からテンション高いな麻衣」
「そう?」
「なに? なんかいいことでもあった?」
「べつに?」
「なんだよー、俺にも教えろよー。仲間はずれは良くないぞー」
「だから、ホントになんでもないって」
あー、裕二の相手すんのってホント楽でいいわー。
裕二は基本バカだし、あたしも同じくバカだから気負わなくて済む。
朝から憂鬱だった気分が一瞬で吹き飛んだ気がした。
淳史と絵里ちゃんは、裕二に軽く挨拶したあと、また二人で話し始めてしまったので、あたしは裕二と二人で他愛もない話をしながら歩いていた。
すると、裕二がこんなことを聞いてきた。
「なあなあ麻衣、今日暇?」
「今日かあ」
あたしはそう言いながら、チラリと前を歩く二人を見た。
淳史は生徒会に剣道部の部活もあるから基本放課後は一緒にいない。
絵里ちゃんも、今日はなんか委員会があるみたいだし。
「特に予定はないなあ」
「じゃあさ、放課後カラオケ行かね?」
「お、いいねえ! しばらく行ってないから熱唱しちゃうよ?」
「おっけーおっけー、じゃあ放課後迎えに行くわ」
「分かった。けどなに? 急に」
「いやあ、今日遊ぶ予定だった奴が急な用事ができたって昨日連絡あってさあ。今日暇なんだよね」
「あたしゃ穴埋め要員かよ」
「いいじゃん、どうせ暇だったんだろ?」
「まあね」
「それに、幼馴染なんだからさ、たまには遊びに行こうぜ」
「まあ、それもそうだね」
そう言いながらもう一度前を歩く二人を見た。
昔は放課後よく四人で一緒に遊んでいた。
それが中学に入った頃から、部活だの委員会だので一緒に遊ぶことが少なくなった。
幼馴染なんて、そんなもんなのかな? なんて思いもするけど、朝は毎日こうして一緒に登校してる。
仲が悪くなったわけじゃないから、たまには四人で遊びに行きたいなあ。
そんなことを思いながら、登校し、学校に着くころには、カラオケで何を歌おうかな? なんてことを考えてた。