NINJAは心配性
夜の住宅街を、闇に紛れて忍者が疾走していた。
なにを言っているのかと思うが、実際に疾走しているのだからしょうがない。
そして、その忍者は屋根伝いに走りながら溜め息を漏らしていた。
「はあ……まさかあの魔法少女がアイツとは思ってもみなかった」
「うふふ、驚いたわねえ」
「メル……お前、知ってただろ?」
「さあ? なんのことかしら?」
「ったく、とぼけやがって」
「心配?」
どことなく不満そうな忍者に向かって、メルはからかうようにそう聞いた。
「心配……ということはないな。アイツの攻撃を見たが……なんだあれ? 強力すぎだろ」
「そうね……それより、戦力的に問題がないのなら、なぜそんな不満そうな顔をしているの?」
メルの、何気なく放った言葉に、忍者は一瞬口をつぐむ。
少し考えたあと、忍者は口を開いた。
「……あの恰好」
「え?」
「あの恰好はどうかと思ってな」
その忍者の言葉を聞いたメルは、お前が言うなと内心で思ったが、それを口に出すことはなかった。
「別に、あの子がどんな格好をしようと自由なんじゃないの?」
「そ、それはそうだが!」
そこで言葉を切った忍者は、少し黙ったあと言いにくそうに言った。
「……ちょっと、露出が多くなかったか?」
その言葉を聞いたメルは、思わず笑ってしまった。
「フフフ、なに? ヤキモチ?」
「ちっ、ちがっ!!」
「じゃあ、なに?」
「そ、それは……」
「それは?」
ドギマギする忍者が面白くて、メルはついからかうように忍者を問い詰めていった。
しばらくあれこれと考えていた忍者は、おずおずと話し出した。
「……防御力に問題があるんじゃないかって……」
「この装備の外見は、装備者のイメージを反映してるだけであって、防御自体はシールドが張られてるわよ?」
「そ、そうなのか?」
「ええ。だから、あの子の防御も万全だから、もう懸念することはないんじゃない?」
「い、いや、しかし……」
「しかし?」
「……ええい、うるさい! あんな露出の多い恰好で人前に出るなど! もっと慎みを持てと言いたいのだ!」
その忍者の叫びを聞いたメルは、大袈裟に溜め息を吐いた。
「やっぱりヤキモチなんじゃない」
「違う!!」
忍者はそう叫ぶと、それ以降口をつぐんでしまった。
ちょっとからかい過ぎたかと反省したメルは、この話題を切り上げ別の話をすることにした。
「それにしても、折角の初陣が複数の悪魔憑きとはねえ」
「ああ。今までそんなことはニュースになっていなかった。珍しいのか?」
「いいえ、よくある話よ。最初は単体で力も弱い。けれど、時間が経つと複数同時発症を起こしだす。そして、単体でも強い個体が現れるようになるわ」
「それって……」
「ええ。成長するの。人の負の感情を取り込み続けてね」
「ということは、これからも複数の悪魔憑きは現れるということか」
「そうね。そうなると、またあの二人とかち合うかも」
メルがそう言うと、忍者は少し不満げな雰囲気になって黙り込んだ。
「あら、あの二人との共闘はご不満?」
「いや、共闘が不満なのではなくてな」
「じゃあ、なに?」
「……できれば、アイツには危険な場所に行ってほしくない」
忍者の言葉を聞いたメルは、呆れたように言った。
「はあ……さっきあなたも言ってたでしょ? 私だってあんなの見たことない。それくらい強力なのよ? いわば私たちの最高戦力を動員しないでどうするの」
「しかし……」
「それに、彼女に付いているのは隊長よ。むしろ率先して現場に出てくるわね」
それを聞いた忍者は、眉間に皺を寄せた。
そんな忍者の様子に、メルは再度先ほどと同じ質問を投げかけた。
「やっぱり、心配なんでしょ?」
「……当たり前だ」
またからかうように言ってきたメルに対して、忍者は半ばヤケクソ気味に答えた。
まさか素直に言うとは思わなかったメルは一瞬言葉を失うが、すぐに復活した。
「愛されてるわね。あの子」
「な!? なにを!」
「あら、違うの?」
「……うるさい。さっさと帰るぞ!」
「はいはい」
しつこく絡んでくるメルをバッサリ切り捨て、家路を急ぐ忍者。
その様子に、メルはクスクスと笑いながらついて行く。
「あら? 随分と遠回りして帰るのね」
「……悪いか?」
「いーえ? まっすぐ帰ったらあの子にバレるかもしれないものね」
「……」
メルの言葉に、忍者は無言を貫いた。
そんな忍者の様子を、メルは楽し気に見ているのだった。