脳を壊しにかかってる
どうにかこうにか現場から脱出したあたしたちは、人気のないビルの屋上に集まっていた。
「はあ……ビックリした。まさかTV局のリポーターがいるとは……」
「私、カメラとマイクを向けられるのが、あんなに怖いとは思わなかったです……」
まさか、TV局の取材を受けるとは思いもしなかったあたしと亜理紗ちゃんは、ビルの屋上で四つん這いになり、荒い息を吐いていた。
「あれくらいで動揺するとは、なんとも情けないことだな」
そんなあたしたちの横には、さっきのNINJAが立っていた。
その姿は、憎らしいくらい余裕に溢れている。
コイツ……今まで聞いたことないから新人でしょ?
後輩のくせに、なんでこんな偉そうなのよ!
「うるさいわね! それよりなによ? とある機関のエージェントって? アンタの頭、中二で止まってんの?」
「しょうがないだろうが! 本当のことを言って信じて貰えると思うか? 我らは宇宙人の手によって装備を与えられ、謎の暗黒生命体を殲滅する任を負っていると。誰が信じるというのだ?」
「そ、それはそうかもしれないけど……」
「ああいうのは、適当なことを言っておけば、皆憶測で話を進めるものだ。陰謀論やら、悪の組織の暗躍論やらな」
「あ、悪の組織……」
喋り方といい例え話といい、やっぱりコイツの頭、中二で止まってるわ。
笑いを堪えてプルプルしていると、NINJAの雰囲気が剣呑な感じになってきたので、あたしは慌てて話題をすり替えた。
さっきのアイアンクロー、マジで痛かったし……。
「そ、そういえば。アンタも適合者っていうなら、やっぱりサポートのぬいぐるみいるの?」
「ああ」
「ぬいぐるみって言わないでくれるかしら?」
あたしの問いかけを肯定したNINJAから、大人の女の人の声が聞こえた。
……またか……。
NINJAの肩口から現れたのは、ネルやアルと同じ姿。
ただし、色は青のネル、黒のアルと違って薄い紫色だ。
「メル、お前だったか」
「お久しぶりです、隊長。無事、適合者を見つけられましたわ」
ネルに、メルと呼ばれたそのぬいぐるみは、トコトコとネルのもとへとやってきた。
相変わらずその姿は可愛らしいのだけど、声が……なんというか、洋画の色っぽいお姉さんの吹き替えをしてそうな艶めかしい声だ。
しかも、そこにアルまで加わった。
「メル先輩。お久しぶりです」
「あら、アル。元気にしてた?」
「そりゃあもう。メル先輩は、相変わらず綺麗ですね」
「あら、お上手ね」
「メル、アル、無駄話はそこまでだ。お互いの情報共有をするぞ」
「「了解」」
ネル、メル、アルの三人で会話していると、まるで洋画でも見ているような錯覚に陥る。
ただし、見た目はぬいぐるみ……。
相変わらず綺麗って……あたしには色以外で三人の見分けすらつかない。
「うおお……頭がおかしくなりそう……」
「確かに……この光景はキツイな……」
「目を瞑ればいいんですよ! そうすれば、ドラマCDを聞いてる気分になります!」
おお! 亜理紗ちゃんいいこと言った!
早速あたしとNINJAも目を瞑り、三人の会話に耳を傾けた。
「それにしても……メルのところもこんななのか……」
「え、ええ。正直、この姿になったときは驚きましたわ」
「俺もです。他の国の連中も似たような感じらしいですけど……」
「この星の文化はどうなってるのかしら?」
「まあ……姿はともかく、ギデオンは殲滅できているんだ。それで良しとしよう。それより、他のギデオンの様子だが……」
ネルたち三人の会話を聞いていたあたしたちは、なんとも居たたまれない空気になっていた。
魔法少女の次は、NINJAだもんなあ……。
ネルの装備は、なんか近代的な鎧みたいな感じだったし、そうなると思っていたのかもしれない。
それにしても、この装備を使えるのは、ピュアな心の持ち主だと聞いていたけど、このNINJAは、なにがピュアだったんだ?
「ねえ」
「なんだ?」
「アンタ、どういう理由で選ばれたの?」
今まで適合者として選ばれたのは、ローティーンの女の子が多いと聞いていた。
多いだけで、男が皆無ではなかったらしいけど……。
それでも、やはり選ばれた男の子はローティーンの子だったらしい。
だけどこのNINJAは、どう見てもハイティーン以上。
覆面で顔が見えないから何とも言えないけど、成人している可能性だってある。
そんな人間が適合者に選ばれる理由って?
それが気になって聞いたのだが、NINJAはフッと鼻で笑って言った。
「正義を愛する心だ!」