NINJA
「な、なんでNINJA?」
「お姉さん! 忍者ですよ! 忍者!」
「亜理紗ちゃん違うわ。あれはNINJAよ」
「え? 違うんですか?」
「ええ、違うのよ」
忍者とは、闇に生き、闇に死んでいく者。
あんな堂々と世間に姿を晒し、忍ぶつもりがない奴は忍者じゃない! NINJAよ!
「どう違うのか分からないですよ……どっちも『にんじゃ』じゃないですか」
違うの! 全然違うの!
ああ、小学生にはこの違いが分からないかあ。
あたしと亜理紗ちゃんの認識の違いを、どう訂正しようかと考えていると、亜理紗ちゃんが声をあげた。
「あ、忍者さんがなにかしますよ」
「え?」
亜理紗ちゃんの声で、NINJAの方を見てみると……あれってクナイっていうのかな? それを悪魔憑きの男の人の足元に投げた。
そして、次の瞬間……。
「滅せよ! 火遁の術!!」
NINJAがそう言って、二本の指をピンと立て天に向かって突き上げると、悪魔憑きの男の人の足元から紅蓮の業火が立ち上った。
その炎は、悪魔憑きの男の人を骨まで焼き尽くす勢いで燃え上がる。
その様子を見た亜里紗ちゃんがポツリと呟いた。
「あー、死にましたね。これ」
「そうね」
……。
なにやってんのアイツ!?
絶対焼け死んだじゃん!!
「ちょっとアンタ! 殺してどうすんのよ!? あの人、操られてるだけなんだからね!!」
あたしたちの目的は、人間に憑依したギデオンの殲滅であって、憑依された人を殺すことじゃない。
憑依しているギデオンを浄化すれば、その人は元に戻るのだ。
だからあたしたちはギデオンだけを殲滅できる攻撃をしているというのに!
火遁の術? を発動させ、満足気にその様子を見ているNINJAに文句を言うと、覆面の間からわずかに見える目が、驚いたように見開いた。
「ま……」
「ん? なに?」
NINJAがなにか言ったが、口元まで覆面で覆われているので、言葉が籠ってなにを言ったのか分からなかった。
聞き返すが、NINJAはふと目を逸らして「なんでもない」と言った。
そっちはなんでもないのかもしれないけど、こっちはそうはいかない。
「なんで殺したのよ!」
あたしは大声でそう言うが、NINJAは不思議そうに首を傾げた。
「殺した? なにを言っている?」
「なにって! 現にあの人、焼き殺したじゃない!!」
あたしがそう言うと、NINJAはフッと笑って顎をクイッとやった。
「よく見てみろ」
「え?」
NINJAが顎で示した先は、先ほど炎に包まれた悪魔憑きの男の人。
その炎が収まり、その中から出てきたのは……。
「あ、あれ?」
「我らの攻撃は、ギデオンにしか効かぬ。忘れたのか?」
「え? え?」
炎が収まった先にいたのは、全くの無傷で倒れている男の人。
その身体から溢れていた黒いモヤも消えている。
そしてコイツは、今『我ら』って、『ギデオン』って言った。
ってことは……。
「ちょっ、ちょっと待って! まさか……アンタも適合者!?」
あたしは思わず叫んでしまった。
するとNINJAは、こちらに視線を向けこう言った。
「まったく、そそっかしいな、魔法少女は」
「魔法少女って言うな!!」
「なにを言っている? その姿……魔法少女以外の何者でもないではないか」
「うぐっ……」
そう言われると、ぐうの音も出ない……。
っていうか。
「そ、そっちこそ。適合者ってことは、普段は普通の人間なんでしょ? なに? 我らって、随分なりきってるじゃない、NINJAに」
揶揄われて悔しかったあたしは、思わず揶揄い返した。
「ぐぬっ……」
お、どうやら効いたらしい。
「それに身長も随分高いし、結構な大人なんでしょ? いやあ、恥ずかしいわねえ、いい大人がNINJAなんて」
一八〇くらいだろうか?
体格もガッチリしてるし、何歳くらいなのかは分からないけど、結構な大人なのは間違いない。
調子に乗って言ってやると、思わぬ反撃を受けた。
「う、うるさい! それを言うならおぬしこそ、いい歳してそんな格好をして恥ずかしいと思わんのか!?」
「いい歳とか言うな!!」
「お、お姉さん」
気付けばあたしとNINJAは、ぐぬぬと睨み合い、亜理紗ちゃんは横でオロオロしていた。
それがいけなかった。
「すみません! TV局のものですが、お三方のことを伺ってもよろしいですか!?」
「「「え?」」」
あたしたち三人に割り込んできたのは、大きなカメラを肩に担いだ男性とその後ろでケーブルを持っている助手。
それと、マイクを持っている女性だった。
やばっ、TV局のリポーターだ!