亜理紗の提案
放課後。
家に帰ると、昨日と同じく亜理紗ちゃんが家にいた。
「おかえりなさい、お姉さん!」
「ただいま」
「……ちっ」
光二と一緒にやっていたゲームを中断し、あたしに近寄ってくる亜理紗ちゃん。
あたしも挨拶をしながら亜理紗ちゃんの頭を撫でていると、舌打ちが聞こえた。
その発生源に心当たりがあるのでそちらを向くと、ブスッとした表情の光二がいた。
亜理紗ちゃん、彼氏候補が拗ねてますぜ?
「早くお部屋に行きましょ!」
「あー、着替えてくるから、光二と遊んでて?」
さすがに、二日続けて亜理紗ちゃんを独占するのも光二に悪いと思ってそう言ったのだが、亜理紗ちゃんは不服そうだった。
「えー? 早くしてくださいね?」
亜理紗ちゃんはそう言うと、さっきまで光二と一緒にやっていたゲームへと戻った。
「はは……」
そんな亜理紗ちゃんに苦笑を浮かべつつ、あたしは部屋に入った。
「いやはや、亜理紗ちゃんに慕われるのも悪くないけど、光二との仲が悪くなるのは、流石に気が引けるなあ」
あたしは着替えながらそう言うと、あたしによって目隠しをされたネルが答えた。
「まあ、こんな身近に先輩がいたんだ。あの歳では頼りたくなるのもしょうがないだろうな」
ネルは、種族の違う女の裸など見ても興奮しないと言っていたけど、そういう問題じゃない。
見た目はぬいぐるみでも、ネルは男なのだ。
淳史以外の男に、下着姿など見られたくない。
そういうわけで、着替えのときはいつもネルに目隠しをしている。
そんな目隠しをしている状態のネルと会話しながらゆっくり着替えていたのだが、それも限界がある。
しょうがないと思いつつ、二人がゲームをしているリビングに行くと、さっきは気付かなかった鞄があることに気付いた。
「ん? なにこの鞄?」
そう言ったあたしの声に、さっきまでゲームに集中していた亜理紗ちゃんが振り向いた。
「それ私のです!」
「あ、おい、亜理紗!」
協力プレイでもしていたのだろう、突然ゲームを止めた亜理紗ちゃんを光二が呼び止めるが、本人はそんなことはお構いなくあたしの所まで来てしまった。。
「なんだよ……」
結局ゲームオーバーになってしまい、またブスッとした顔でブツクサと文句を言いながら一人でプレイをしだす光二。
……さすがに申し訳ないな。
いつも喧嘩しているとはいえ、寂しそうに一人でゲームをしている光二に罪悪感を抱いていると、亜理紗ちゃんはさっきの鞄を持ち上げた。
「よいしょ……っと」
「随分重そうね?」
「ええ……昨日、アルが借りていった漫画の一部です……」
「ああ……」
鞄を持った亜理紗ちゃんが、小声でそう言ってきた。
そういえば、アルが借りてったんだっけ。
「持ったげるよ」
「わ、ありがとうございます」
重そうにしている亜理紗ちゃんを見かねて、あたしが持つことにした。
小学生よりは力があるからね。
そう思って亜理紗ちゃんから鞄を受け取ったのだが……。
「い、意外とズッシリくるわね」
「大変でした……」
高校生のあたしでも、結構重く感じるのだ。
小学生の亜理紗ちゃんが持ってくるのは大変だったんだろう。
ちょっと遠い目をしていた。
「アルもなんだかよく分からない収納装置みたいなの持ってるんでしょ? それに入れて持ってくればよかったのに」
あたしの部屋に入りながらそう言うと、亜理紗ちゃんははにかみながら言った。
「実は、お姉さんの家にくる口実に使っちゃいました」
ペロッと舌を出しながら、そう言う亜理紗ちゃんに思わず訊ねた。
「口実?」
でも、うちには結構遊びに来てるよね?
「はい! お姉さんから漫画を借りたから返しに行くって。それと、続きが気になるからお泊りして読ませてもらうって」
「へえ、そっか」
なるほど、そういう理由……。
え?
ちょっと待って?
「お泊り?」
「昨日、特訓が中途半端で終わっちゃったじゃないですか。明日はお休みですし、お泊りならずっとお姉さんと一緒にいられます!」
満面の笑みでそう言う亜理紗ちゃんに、あたしは思わず戦慄したのだった。
どんだけ押しが強いんだ、この子。
これが……若さか……!
麻衣もまだ17歳です。