亜理紗はセンパイ?
翌日、玄関を出た先で亜理紗ちゃんが待っていた。
「お姉さん、おはようございます!」
「おはよう、亜理紗ちゃん」
朝の挨拶を交わしたあと、亜理紗ちゃんはあたしに近付いてきて、コッソリと耳打ちした。
「今日も……遊びにきていいですか?」
耳打ちしたあと、上目遣いでモジモジする亜理紗ちゃんに、あたしの心は撃ち抜かれた。
なんだ? この可愛い生き物?
「もちろんよ。楽しみにしてるわ」
あたしがそう言うと、亜理紗ちゃんは不安げな表情から、パッと花が咲いたような笑顔になった。
「約束ですよ!」
「おい、もう行こうぜ」
「あ、ちょっとコウちゃん、引っ張らないでよ!」
亜理紗ちゃんが、自分よりもあたしに懐いているのが許せないんだな。
あたしと楽しそうにお喋りしている亜理紗ちゃんの手を、光二が強引に引っ張っていってしまった。
なに? 姉に嫉妬してんの? 弟よ。
「なんだ、随分と懐かれてるな」
光二に引っ張られながらもあたしに手を振っている亜理紗ちゃんに手を振り返していると、向かいの家から淳史が出てきた。
「あ、淳史。おはよ」
「おう、おはよう。それより、どうしたんだ急に。あの子、光二の彼女だろ?」
「彼女……なのかなあ? 小学生って早すぎない?」
「そうか? 俺らが小学生のときもクラスにいただろ」
「あー、そういえばいたねえ。速攻で別れてたけど」
「あれは傑作だったな。なにせ別れた理由が『どうして男ってこう子供なの!?』だったからな」
「小学生なんだから、間違いなく子供だっつーの」
「あの子はそんなことなさそうだけどな。毎朝光二を迎えに来るなんて、健気じゃないか」
「可愛いよねえ、亜理紗ちゃん」
あたしがそう言ったあと、淳史はなぜか黙り込んだ。
「淳史?」
「麻衣、お前……あの子のこと狙って……」
「そんな趣味無いわよ!!」
「でもお前、あの子と随分親密な感じだったぞ」
「あれは、あたしが亜理紗ちゃんの悩みを解決してあげたからよ。頼れるお姉さんに憧れちゃったんじゃない?」
あたしは、至極真面目にそう言ったのだが……。
「頼れるお姉さん? 誰が?」
コイツ、なに言ってるんだって顔で淳史が言った。
「あたしが!」
「お前、そんなありもしないことを堂々と……恥ずかしくないか?」
「悩みを解決してあげたのは本当よ!」
「んー、まあ、小学生の悩みだしな。お前でも解決できるか」
「失礼な!」
そうして二人でギャーギャー言いながら登校していると、いつものように絵里ちゃんと裕二も合流した。
はあ……なんだろう、恋愛関係では、亜理紗ちゃんに先を越されているような気がしてならない……。