亜理紗ちゃんの特訓
ネルによる亜理紗ちゃんの指導が行われた。
大きな公園にある、人気の少ない雑木林の奥で行われたネルの指導は、あたしも大いに参考になった。
それにしても……改めて客観的に魔法少女になった亜理沙ちゃんを見ると、コイツらの技術は凄いな。
こんなの見せられたら、地球が田舎の星だと言われてもなにも言えない。
普段の服から魔法少女に変身する亜理紗ちゃん。
強化された身体能力で、木から木へと飛び回る亜理紗ちゃん。
そして、突如生み出された魔法のステッキから攻撃を放つ亜理紗ちゃん。
まさにテレビから飛び出したような魔法少女がそこにいた。
あたしも、これと同じことをしてるのか。
皆にコスプレやイメクラと言われながら……。
その事実に膝をつきそうになるけど、グッと堪えた。
気を取り直して特訓している亜理紗ちゃんの様子を見る。
今ネルが行っているのは、亜理紗ちゃんの放つ攻撃の改良だ。
亜理紗ちゃんがどんなに力を込めても、光の筋とも言えるようなレーザー以上の攻撃は出せなかった。
ならば、そのレーザーを有効的に利用しようというのだ。
それを簡単にできてしまうところが、コイツらの技術の凄いところだ。
あたしたち、地球の常識では考えられないことを次々としでかす。
そもそも、精神力を検知するってなによ?
ネルとの特訓がようやく終わり、亜理紗ちゃんが新しい攻撃方法を取得できたそのとき、見学しているあたしの隣でずっと漫画を読んでいたアルがふと顔を上げた。
……なんであたしの漫画持ってきてんのよ?
っていうか、今特訓やってる亜理紗ちゃんはアンタの担当でしょうが。
ちゃんと訓練に参加しなさいよ。
「隊長、ギデオンの反応です」
「む、そうか。よし、じゃあ亜理紗、さっそく特訓の成果を試してみよう」
「はい! 先生!」
亜理紗ちゃんの中で、ネルは先生になったらしい。
「うむ、では行くぞ。麻衣、なにをボサっとしている。お前も行くぞ」
「……先生って言われて、ちょっと調子に乗ってない?」
「そうか? いやはや、麻衣もあれくらい素直になってくれると嬉しいのだがな」
「あたしがネルを先生なんて呼ぶ日は一生ない!」
あたしがそう言うと、ネルはヤレヤレといった感じで肩を竦め両手を上に向けて首を横に振った。
うわあ……腹立つ。
ともかく、あたしも装備を展開し、いざ現場に向かおうとしたところで、ふと気が付いた。
「亜理紗ちゃん。もう夕方だけど、帰んなくていいの?」
「あ!!」
昨日は、家をコッソリ抜けてきたのだろう。
だけど、今日はウチに遊びに来たあと、まだ家に帰っていない。
夜になっても帰ってこないとなると、まだ小学生である亜理紗ちゃんの親御さんは心配するだろう。
「今日は帰んなさい」
「……はあーい」
亜理紗ちゃんは残念そうに装備を解除すると、家路に着こうとした。
そのとき。
「待ってくれ亜理紗」
アルが亜理紗ちゃんを引き留めた。
「え? なに?」
亜理紗ちゃんがアルに問いかけるが、アルはあたしをじっと見ていた。
「なによ?」
すると、あたしをじっと見ていたアルが、口を開いた。
「この続き、貸してくれ」
アルは、さっきまで読んでいた漫画を持ち上げてそう言った。
「……勝手に持っていきなさいよ」
「そうか! ありがとう麻衣!」
どんだけ漫画に嵌ってるんだ! この俺様系イケボ!
「亜理紗! 早くさっきの部屋に戻るぞ!」
「ちょ、ちょっと待って! そんな姿で走り回らないで! それと、その声でそんなこと言わないでえっ!!」
あたしの家に向かって走って行くアルを、亜理紗ちゃんが叫びながら追いかけていった。
その二人の後ろ姿を、あたしとネルは呆然と見送った。
「……アンタの部下って、あんなのばっか?」
ネルに向かって冷ややかな視線を送ると、ネルは悔しそうに拳を握っていた。
「くっ! アルめ! それでは私が続きを読めんではないか!」
……。
アンタの影響かよ!
その後、ギデオンに取り憑かれた人をさっくり元に戻して、あたしは家に帰った。
部屋に戻って見た光景は……。
ゴッソリ漫画が無くなっている本棚だった。
その光景を見て、ネルが膝をついていた。
……なんだ、コイツら……。