表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/46

げんじつはきびしい

「あ! お姉さん! お帰りなさい!」

「た、ただいま……」


 悪魔憑きが暴れている現場で衝撃の出会いを果たした翌日、学校から帰ると、家で亜理紗ちゃんが待ち構えていた。


 朝は朝で大変だった。


 光二を迎えに来たはずなのに、あたしに対して今まで以上に懐いた態度を見せる亜理紗ちゃんに光二が不機嫌になるし、あたしと亜理紗ちゃんを引き離そうとする光二に対して亜理紗ちゃんが不機嫌になるし……。


 今も、亜理紗ちゃんと一緒にいる光二はブスッとした顔をしている。


 こりゃあ……相当機嫌が悪いな……。


「お姉さん! お姉さんのお部屋に行っていいですか? 色々とお話がしたいです!」


 光二は、ここ最近見たことがないくらい不機嫌マックスなのに、亜理紗ちゃんの方はご機嫌マックスだ。


「あー、それは……」

「……駄目ですか?」


 くっ……そんな潤んだ瞳で見ないで!


 結局、うるうるしている亜理紗ちゃんの願いを断ることはできず、不機嫌マックスな光二をさらに不機嫌にさせて、亜理紗ちゃんはあたしの部屋にきた。


 そして、部屋に入るなり話を切り出してきた。


「お姉さん! お姉さんの妖精さん見せてください!」

「は? 妖精?」


 なんのこっちゃ?


「私たちを魔法少女にしてくれた妖精さんですよ! お姉さんにもいるんでしょう?」


 あー……やっと意味が分かった。


「あのさ、亜理紗ちゃん。アイツらは妖精じゃないよ? ああ見えてれっきとした宇宙じ……」

「あーあーあー! 聞こえませーん!」


 話の途中で、亜理紗ちゃんは耳を手で塞ぎ、聞こえないと思い切り拒絶された。


「女の子を魔法少女にするのは妖精さんと相場は決まっているんです! 決して宇宙人なんかじゃありません!!」

「いや……思いっきり宇宙人だって認識してるじゃん……」

「聞こえません! 信じません! あの子は妖精さんなんですー!!」


 どうもこの子は、アニメの世界に並々ならぬ憧れがあるようで、魔法少女のパートナーは、ファンタジーな存在しか認めたくないらしい。


 そんなに現実を拒否してもな……。


 そう思ったときだった。


「やれやれ……亜理紗には困ったもんだ」


 どこからか、乙女ゲームのメインキャラクターみたいなイケボが聞こえてきた。


「こいつもか……」


 あたしと亜理紗ちゃん以外に誰もいない部屋で声が聞こえてきても、あたしはもう動揺したりしない。


 だって、二回目だから。


 ソイツがどこにいるのかと辺りを伺っていると、亜理紗ちゃんの鞄がゴソゴソと動き、その中からネルそっくりな奴が出てきた。


 見た目はそっくりだけど、色が違うな。


 ネルは全身が青色なんだけど、亜理紗ちゃんの鞄から出てきた奴は黒色だ。


「アル、お前だったか」

「その声!? 隊長ですか!?」


 あたしの鞄に括りつけているネルが、その紐を解き部屋に降り立った。


 そのネルを見た亜理紗ちゃんは、部屋の床に両手と両膝をついて絶望していた。


「……渋いおじさんのこえ……」


 分かる、分かるよ亜理紗ちゃん。


 この見た目でこの声は反則だよね。


 ただ、アルと呼ばれた亜理紗ちゃんとこのぬいぐるみも大概だ。


 見た目はネルと同じ可愛らしいマスコットみたいなのに、乙女ゲームに出てくる俺様系メインキャラクターみたいな、低めのイケボ。


 コイツも見た目と声のギャップが半端ない。


 おまけに、亜理紗ちゃんはまだ小学生だ。


 お子様には刺激が強すぎるだろ。


「アル、お前も適合者を見つけていたか」

「隊長こそ。流石ですね、さっきからレーダーの反応が凄い」

「ふふ……私も、ここまでの適合者はみたことがない。おそらく歴代最高ではないかな?」

「流石です!」


 ……その声で、ネルのヨイショは止めてくれないかな?


 そこはクールな感じでいて欲しかった。


「あはは、おねえさん。おねえさんのようせいさんもかわいいですねえ」

「亜理紗ちゃん戻ってきて! 壊れちゃ駄目!!」


 ネルとアルのやり取りを聞いていた亜理紗ちゃんの目からハイライトが消えた!


 どんだけ心に傷を負ってるの!?


 乾いた笑い声をあげる亜理紗ちゃんを必死に宥めて、ようやく正気に戻すことができた。


 正気に戻った亜理紗ちゃんは「おねえさーん!」と叫びながら、あたしに抱き着いてきた。


「折角、憧れの魔法少女になれたと思ったのにいっ! 可愛いサポートキャラも出来たと思ったのにいっ!!」

「よしよし」

「こんな……こんな……」


 分かる、分かるよ。


 なんでこんなイケボなんだって言いたいんだよね。


 メソメソと泣く亜理紗ちゃんを宥めていると、アルが口を開いた。


「まったく……いつまで甘えたことを言っている亜理紗。そんなことで、ギデオンを倒せると思っているのか?」

「言ってることだけ声とバッチリ合ってるんですうっ!!」


 亜理紗ちゃんがさらに号泣する。


 俺様系イケボで、俺様系の台詞を吐く。


 ただし、見た目は可愛いマスコット。


 ……そりゃ、精神も病むか……。


「誰かに相談したかったんですう……でもお、こんなこと誰にも相談できなくってえ……お姉さんが私と同じだって知って嬉しくってえ……」

「そっか……亜理紗ちゃん、辛かったね……」

「おねえさあん!!」

「ちょっと待て」

「なによネル。か弱い少女が心に傷を負って泣いてるのよ? 慰めるのを邪魔しないでくれる?」

「だから、ちょっと待て! なぜその少女が心に傷を負うんだ!?」

「そりゃあ……」


 あたしだって、いまだにネルの見た目と声のギャップに悶絶することがあるのに、まだ小学生の亜理紗ちゃんに耐えられるわけないじゃない。


 そんな理由は知らないネルが見当違いなことを言った。


「アル、お前、厳しくし過ぎたのではないか?」

「「違あーう!!」」


 思わず、あたしと亜理紗ちゃんの声がハモッてしまったわ。


「むう……では一体なんだというのだ?」

「普段からこの調子なんだ。理由を知っているのなら教えてくれないか?」


 なんだか困っている様子のアルと呼ばれたネルの部下があたしに尋ねてくるけど……。


 理由かあ……。


 見た目と声のギャップに、心が耐えられない……っていうのが真相だけど、さすがにそれは言えない。


 ギャップを感じるのは、あくまであたしたちの感性の問題だ。


 ネルたちからしたら、その声はごく自然なことなのだろう。


 その声がイメージと違うっていうのは、ネルたちの身体的特徴を否定することになる。


 そんなことは言えない。


「あー……なんていうか、アンタたちが悪いわけじゃないから。これは、あたしたちの心の問題なの」

「そうか……ん? あたしたち?」

「これはね……あたしたちが乗り越えなきゃいけない問題なのよ」

「ちょっと待て、するとなにか? 麻衣もその少女と同じ問題を抱えているというのか?」


 ちっ、ネルが気づいた。


 だけどそんなことより亜里紗ちゃんの方が大事だ。


「いい? 亜理紗ちゃん。どんなに現実から目を背けても、事実は変わらないの」

「おねえさん……」

「私を無視するな!」

「だからね、まずは現実を受け止めよう?」

「げんじつ……」

「おい!」

「そう、現実。まずコイツらは……妖精じゃない」

「ようせいじゃない……」

「おーい」

「コイツらはちゃんと生きてるの」

「いきてる……」

「当たり前だろ?」

「コイツらは……宇宙人なの」

「う、うちゅう……うっ!」

「亜理紗ちゃん!!」


 いけない!


 現実を受け入れることを、亜理紗ちゃんが拒絶している!


「……なあアル。これは一体なんだ?」

「さあ……私に聞かれましても……」

「頑張って、亜理紗ちゃん! 現実を受け入れるの!」

「う、うう……この子は……この子たちは……うちゅうじん……」

「そう! そうなのよ! コイツらは宇宙人なの!」

「……さっきから、コイツら、コイツらって、失礼すぎませんか隊長」

「さっきからうるさいのよ外野あっ!」

「なんで怒られた!?」


 こっちは亜理紗ちゃんを正気に戻すので大変なのよ!


 余計な茶々を入れてくんな!


「亜理紗ちゃん、深呼吸して。コイツらは宇宙人、あたしたちをあんな姿に変えたのはコイツらの不思議技術。あたしたちの知らない科学技術なの」

「まほうじゃない……」

「そう。亜理紗ちゃんには残念だけどね……」

「おい、麻衣。魔法とはなんだ?」

「でもがっかりしないで亜理紗ちゃん。魔法じゃないけど、亜理紗ちゃんが選ばれたことは変わりない。あなたは選ばれたのよ!」

「だから……なんで無視するんだ……」

「わたし……選ばれた?」

「そうよ!」

「そうか! 私は選ばれたんだ!」

「亜理紗ちゃん!!」

「お姉さん!!」

「「……なんだこれ?」」


 ふう、ようやく亜理紗ちゃんが現実を受け入れてくれたわ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 魔法少女への憧れがピュアハートの源泉な人(少女)がほとんどなら、全員がナゾ兵器に適合した瞬間に心が汚れた可能性が微レ存。 だからこそ主人公(現実を知った高校生)は適合率が高いのでは? 不…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ