納得いかない
「はあ……あの合コンにさえ行かなければ……」
今更悔やんでもしょうがないけど、そう思わずにはいられない。
あれ以降、ギデオンに憑りつかれた人間が現れるたびに、あたしはあちこちに駆り出された。
ギデオンに憑りつかれた人間を元に戻すことをあたしは『浄化』って呼んでるけど、その浄化をして回った。
最初のときみたいに人目のないところばかりだったわけじゃない。
人が一杯いるところでも、ギデオンに憑りつかれた人間は暴れまわる。
一刻も早く浄化しないといけないから、その場に参上するんだけど、当然人の目に触れる。
すると当然……噂になる。
人の目に触れる訳だからニュースにもなる。
ネルの言っていた通り、世界中に散らばったギデオンはあちこちで人間に取り憑き暴れまわる。
今やそのニュースは、常にトップで扱われる。
そうすると……それを浄化したあたしたちのことも知れ渡る。
まあ、この装備に備わっている隠蔽装置のお陰で、あたしの顔は丸出しなのにみんなには認識されていないのが救いだ。
なんでこんな装置が付いているのか聞いてみると、自分が捜査員だと周りに知られないようにするためだとか。
逆恨みとかあるのかな?
こうしてあたしたちの存在は、世界中の人々に知られることとなったのだが……。
「なんで魔法少女って呼ぶのよ……」
「それはしょうがないだろう。私もあのあと学習したが、あの姿は魔法少女以外に例える言葉が見つからない」
「それはそうかもしれないけど……」
「それよりも、だ……」
そう言ったネルは深い溜め息を吐いた。
「……なぜ、どいつもこいつも魔法少女になるのだ……」
「知らないわよ、そんなこと」
世界中に散ったネルの部下が見つけた適合者。
その世界中の適合者たちは、なぜか軒並みあたしと同じような魔法少女の姿に変身したのだそうだ。
なぜなら、適合者たちのほとんどが女の子だったから。
ということは、その子たちは皆が皆強い存在として魔法少女を思い浮かべたってことよね。
ジャパニメーション、恐るべし……。
そのことについては、まあいい。
あたしだって魔法少女のコスプレみたいなことになっちゃったんだし。
だが!
あたしにはどうしても納得いかないことがある。
それは……。
「やれやれ、ローティーンの女子が考えることは皆同じということか」
「あたしはハイティーンなんですけど!?」
そうなのだ。
あたし以外の適合者たちは、ほとんどが十代前半の少女たち。
小学生か、中学生になったばかりかのどちらかだという。
どういうこと?
あたし、高二の十七歳ですけど?
「まあ、恋に恋する年頃の少女たちが、一番ピュアだということか」
「ちょっと……それならあたしはどうなのよ?」
あたしがそう言うと、ネルは不思議そうな顔をした。
「麻衣もそうじゃないか? 知っているぞ、あの淳史という少年との未来を書き留めたノー……」
「ぎゃああっ! アンタ、ナニ見てんのよおっ!!」
「く、苦し……悪かったから手を放せ! く、首が……」
「忘れろ! 今すぐ忘れろおっ!!」
「わ、分かった! 分かったから!!」
「ふぅ~っ! ふぅ~っ!」
なんてこった、あたしの妄想満載の未来予想日記がコイツに読まれていたなんて!
「はあ……やれやれ、君が誰よりも強い力を持っているのも頷ける話だな」
「なんでよ?」
「その歳まで他の少女たちと同じ気持ちを維持していることだよ。大体はその歳になる前には現実を知るものだがね」
「……それって、あたしが子供だって言いたいわけ?」
「いやいや。それだけピュアだって言ってるのさ。君が他の子と比べて、群を抜いて強いのも納得だね」
なんだろう……コイツに言われると無性に腹が立つんだよね……。
「是非とも、そのピュアさを失わないでくれよ。それが君の強さになるんだからね」
「なんか、ずっと子供でいろって言われてるみたいなんですけど」
「そんな穿った捉え方をしないでくれよ。純粋に君のことを心配してるのだから」
「本当かしら……」
「もちろんだとも」
なんか、コイツの言うことは素直に聞けないんだよね。
騙されてこき使われてると感じてるからかな。
「まあいいや。もう昼休みが終わるから戻るわよ。もう一度言っとくけど、本当の緊急時以外は喋んないでよ?」
「分かった分かった」
信用ならないネルの言葉を聞きつつ、あたしは教室に戻った。
ああ、どうか、授業中にギデオンが現れませんように。