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ごんぶと

「ちょ、ちょっと待ちたまえ! そ、それが君の思う、強い存在なのか!?」

「う、うっさいわね! 女の子で強い存在って言ったら、これしか思い浮かばなかったのよ!」

「そ、そんな……」


 ベイ〇ー卿の甲冑を着たぬいぐるみが両手と両膝をついて絶望しているけど、しょうがないじゃん!


「そんなに不服ならやり直すけど?」

「それは、一度装備されると再設定ができないのだよ!」

「うそっ!?」


 え? マジ?


 ってことは、あたしこれからこの姿であれと戦うの?


「はあ……なってしまったものはしょうがない。次は、その姿で使う武器を想像するんだ」

「武器?」

「こうだ、こう」


 なんだか投げやりになってきたネルが、バズーカみたいな武器を生み出した。


「なんかこう、あるんだろう? その姿が強いと思わせるような武器が」

「武器……」


 この姿で強い武器っていうと……。


 そう思っただけで光が手に集まり、あたしが想像していたものが現れた。


「……なんなんだそれは……」


 ネルは、今度は手で顔を覆った。


 あたしの手に現れたのは、魔法のステッキ。


 そういえば子供の頃、これで遊ぶのが好きだったなあ……。


「ええい! それをどう使うのかは知らんが、それでアイツを攻撃するイメージをしろ! その通りの攻撃ができるから!」

「攻撃……」


 投げやりからやけくそになったネルの言う通り、これを使った攻撃を想像する。


 すると……。


「え? ちょ、え?」

「お? おお? おおお!?」


 ステッキの先端に、もの凄い光が集まってきた。


「ちょっと! これどうすんの!?」

「そのまま! そのまま維持しろ! 隠蔽装置を解除するから、そしたらアイツに向けてそれを放つんだ!」

「わ、分かった!」

「いくぞ! 三、二、一、解除!」


 ネルがあたしたちの姿を隠していた装置を解除した途端、大学生がこちらに向かってきた。


「見ィつけタぁ~」

「ひっ!」

「怯むな! それだけの力があれば、絶対にアイツを倒せる!」


 あたしを見つけて向かって来る大学生にさっきの恐怖が蘇ったけど、ネルが励ましてくれた。


 その言葉を信じ、光の集まるステッキの先端を大学生に向ける。


 フラフラとコッチに近寄ってくる様子が怖すぎる!


「も、もういい!? もう撃っていい!?」

「ああいいぞ! 撃て!!」

「てぇやああああっ!!」


 あまりに怖かったから、ネルに攻撃していいか聞くと許可が下りたので、ステッキに集まっていた光を思い切り大学生に向けて放った。


 無我夢中だった。


 そのステッキから放たれたのは、極太の光線。


 その光線は、迫りくる大学生を丸ごと呑み込んだ。


「ぎゃああ! こ、ころしたあっ!!」


 あたしのステッキから放たれた、ごんぶとの光線に包まれる大学生。


 これを食らって生きているとはとても思えない。


 それくらい、凄まじい光だった。


「大丈夫だ安心しろ!」


 ネルはそう言うけど、とてもじゃないけど信じられない。


 あたしは、今度こそ人を殺してしまったことを覚悟した。


 そうしてしばらくすると、徐々に光が収まってきた。


 あたしは、大学生が黒焦げの焼死体になっているか、もしくは塵も残さず消えてしまったものと思っていた。


 だが、光が収まったあとに見えたのは、特に外傷もなく倒れている大学生の姿だった。


「あ、あれ? 生きてる?」

「だから大丈夫だと言っただろう? ギデオンは精神体。それを攻撃する手段も精神体にしか効かない」


 ネルはそう言うと、倒れている大学生に向かって歩いて行った。


「……ふむ。問題なくギデオンは消滅したようだ」


 倒れている大学生を調べていたネルが、タブレットを見ながらそう言った。


「え、本当に?」

「ああ、安心するといい。む?」

「どうしたの?」

「いかんな。今の光を見て人が集まり始めた」

「うそっ!? ちょっと冗談でしょ!?」


 人が集まってくるということは、このとんでもなく恥ずかしい格好を見られるということだ。


 そして写真や動画を録られて拡散される……。


「は、早く! この姿を解除する方法を教えて!」

「落ち着け! 今解除すると、君の正体がバレるぞ」

「じゃあどうすんのよ!?」


 八方塞がりじゃない!


「その姿のときは、身体能力が何倍にもなる! あの建物の上にジャンプしてみろ!」


 ネルは近くにあった雑居ビルを指した。


「できるわけないじゃん!」

「いいからやれ!」

「ああっ、もう!!」


 ネルに急かされ、あたしはその雑居ビルの屋上に飛ぶつもりでジャンプした。


「え?」


 次にあたしが見たのは、空と、周りに何もない風景。


「え?」


 そして下を見ると、はるか下に見える雑居ビルの屋上。


 あたしは、周りになにもないところまでジャンプしてしまったのだ。


「って! 高い! 高いぃ!!」


 とんでもない高さからの自由落下。


 あたしはこのとき、死んだと思った。


「大丈夫だと言っただろう。ここまで跳べたんだ。着地も問題なくできる」

「そ、そんなこと言ったって!」

「そうこう言ってる間に、ほら、着くぞ」

「え? きゃあああっ!!」


 ネルの言葉に下を見ると、雑居ビルの屋上はもうすぐそこまで迫っていた。


 思わず悲鳴をあげてしまったが、あたしは、その屋上にふわりと着地した。


「……え?」


 あ、あれ?


 あんな高いところから落ちたのに!


「だから言っただろう。自分で跳べる高さなら、着地もできるのが道理だろう?」

「そんな道理、初めて聞いたけど……」

「そういうものだと思っていればいいさ。ところで、どうだい? 無事に窮地を脱することができたわけだが」

「あ、ああ、うん。ありがと。本当に助かったわ」


 ネルの言葉に、あたしは素直にお礼を言った。


 発言はムカつくけど、コイツの言う通りにしたらピンチを脱することができたのは事実だから。


 そう思ってお礼をしたんだけど、ネルはフッと笑った。


「違う違う、君の窮地を救ってあげたんだから、今度は私に協力してくれるのだろう? そういう約束だ」

「……あ」


 そ、そうだった……。


「これからよろしく、香月麻衣」

「な、名前まで調査済み……」


 あたしはこのときから、このネルにこき使われているのだった。


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