1.2年ぶりの王都はきな臭かった
「あー、ようやく帰って来たな」
そんな声とともにぎゅうぎゅう詰めの馬車から降りた青年が“うーん”と伸びをした。青年が降りた馬車は最後の激戦地と呼ばれた戦地から戻って来た馬車の1つ。
「ウォルコット小隊長、お疲れ様でした」
解放感に満足そうな青年の後から降りてきたのは入隊して3年目の部下。その言葉に伸びをしていた青年は満面の笑みを見せて振り返る。
「今回は激戦地だったし。生きて王都の地を踏めるなんて思ってなかったな」
そう答えてニッと笑うのは見かけだけならまだ17,8歳と見間違えそうな青年。名をクロイツ・ウォルコットという。
「さすがに戦場の死神も今回ばかりは死を覚悟したってか?」
そう答えて再び、伸びをして嘆息する。2年ぶりに見た王都の空は平和そのもの。ちなみにまだ19歳でありながら小隊長という地位を賜ったのは入隊して7年目のクロイツは別にして入隊して3年目の若手ですら激戦地に送らなければならなかった国の事情と死亡による上官の戦線離脱。そして、クロイツ自身のが“戦場の死神”と呼ばれるほどの剣の使い手であることが考慮された結果に過ぎない。だから、部下であるとはいえ仲間意識の方が強い。次々と同じ馬車に詰め込まれていた部下達は降りてくると一様に空を仰いで目を細める。
「なんとか今回も生きて帰れましたな~。小隊長」
周りが生きて帰還出来た事に周りが歓声を上げる中、ダミ声の部下が自分に笑いかける。メンバーの中ではかなりの古株で彼がクロイツよりも遥かに年上なのだが、クロイツの小隊長就任に対して誰よりも押した人物だ。そんな相手の言葉にクロイツは苦笑する。
「ヤチさん、止めて下さいよ。小隊長って呼ぶの」
そう自分よりも遥かに先輩であるヤーディアに抗議すれば再びガハハと笑いだす。
「何言ってやがる戦場の死神が。お前が居たから生きて帰れたんだから胸を張りやがれ」
そう言いながらクロイツの頭をヤーディアは乱暴になぜる。
「ヤチさん!ガキ扱いしないでよ」
そんな相手にクロイツは嫌そうな顔で頭に手を振り払う。それにまたガハハと笑ったヤーディアは手をどけてから伸びをする。
「ま、せっかく生きて帰れたんだ。せいぜい羽を伸ばさないとな」
最後の方は声色を変えたヤーディアにクロイツは唇を引き締める。今回の休戦はただの休戦協定ではない。また確実に戦争が始まるだろう。口ごもったクロイツに苦笑し、ヤーディアは手を伸ばす。
「ま、深刻そうな顔をすんな。なるようにしかならんさ。さて、装備片付けるか~」
ポンポンと頭を叩く手をそのままにクロイツが肩を竦めた。その時だった。
「ウォルコット小隊長はいるか?」
「ん?」
自分の名前を呼ぶ声にクロイツが視線を移すのと同じようにヤーディアが声を上げるのは同時だった。
「大隊長がお呼びだ。すぐ部屋に向かいたまえ」
そう言って帰還したばかりのクロイツに命じたのは1隊を任される中隊長だった。
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