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初めてのお仕事(1)

 サナライズを東西に伸びる通称『太陽の通る道』。東へは敵国『雨の国』への進軍のため、西へは晴の国第二の都市ムンダウンとの連絡のため、国によって管理された道路。歩きやすく整備され、夜中は街灯がつく、広い道。ウェアスで最も安全な道と言われている。

 そこを東に二時間ほど歩いたところに最初の宿場町がある。


 町の名前は、アマオ宿場。


 馬に乗った騎士たちが何人もハルトたちの横をかけていく。

 積み荷に大量の樽を乗せた馬車や、親子連れや老人たちを乗せた乗り合い馬車。

 往来は活発。


 旅人、軍人、商人。様々な人々が交流する姿が見える。


 武具屋、質屋、薬屋、土産屋、金貸し、馬貸し、荷預け。旅に必要な施設はほとんどそろっている。

 宿屋、食堂、教会、酒場。ここに滞在するための施設も充実している。

 非常に活気がいい。ここから旅に出る人は旅の準備に金を使い。ここに帰ってきたものは都へ入る準備のために金を使う。とにかく金回りのいい町だ。

 多くは木製の建物。その殆どが二階建て。そんなに大きな町ではないが、狭い間隔でいくつも建物が建っているので、広さの割には人口が多い。それが余計に町の活気を盛り上げているところもあるのだろう。祭りでも行われているかのように人々は肩を寄せ合い、笑っている。


「あれは?」


 ハルトがリルに尋ねる。ハルトが示す先では二人の酔っぱらった男が殴り合いの喧嘩をしていた。どうやらその光景自体は、荒くれものが多そうなこの町では日常茶飯の様子らしく、周りの人々も野次を飛ばすだけで止めようとはしていない。ハルトがリルに尋ねたのはその喧嘩をしている片方の男の姿についてだった。

 どちらの男も、相当に体格がいい。まさにおとこという感じで、上半身裸のまま、筋肉を見せびらかすかのように拳を振るっている。

 しかし、片方の男はその毛深さが尋常ではなかった。男くさいというレベルではなく毛むくじゃらなのだ。その上、何故か耳は長くピンと上を向いて立っている。その姿はまるで――。


「あれは《ビスタ》さんです。様々な野生動物の特徴を持った種族の方たちです。あの《ビスタ》さんはきっとオオカミかイヌの《ビスタ》さんですね」


 獣人、という言葉でその種族は表現される。

 多く彼らは、遠くまで聞こえる耳や、よく嗅ぎ分けられる鼻などの特徴を生まれ持つ。

 ヒトと比べて、身体能力の面では圧倒的有利な種だといわれる。


「これだけ賑わっている町ならお金を稼ぐ方法はいっぱいありそうですね」


 あの喧嘩を皮肉ってるわけではなく、心からリルはそう言っているようだった。

 自分の生まれた村以外を実際には見たことのないリルは、町全体の明るさに胸をわくわくとさせているのだ。


「では、町をぐるっと回りながら、私たちでも出来るお仕事を見つけましょう!」


 気合の入ったリルの声。

 ニホン育ちのハルトは、高校に上がって初めてバイトをしたときの自分もこんな感じだったな、と他人事のように、それを見つめていた。


 ※※※


《仕事NO1.豚小屋》


「わああ、豚さんですよ。私初めて見ました。ハルトさん、グンマーにもいるんですか、豚さん?」


「ああ、群馬の名産だ」


 ぶひぶひ、と鼻を鳴らす何十頭もの豚。


 しゃぶしゃぶ、豚丼、とんかつ、生姜焼き。ハルトは日本の豚料理を思い出していた。残念なことだが、ウェアスにはニホンほどの多彩な料理文化はない。あのおいしい豚肉料理のためにも早くグンマーへ帰らないといけない。


 ここは町で唯一の肉屋が所有する豚小屋。ここの豚がそのまま肉屋に商品として並べられる。

 豚たちは、見知らぬ少年少女のことを気にする様子も見せず、一目散に餌を抱えるオジサンの方へと突進する。まるで豚が人間に襲い掛かっているかのような図だが肉屋のオジサンは豚たちを軽々と豚をかき分け餌入れにオオムギを入れる。


「どうだ、うちのコたちはみんな可愛いだろう?」


 オジサンが真っ白な歯を見せて笑った。

 このオジサンがイノシシの《ビスタ》であることを、ハルトは一体何の冗談なのだろうと、最初思ったのだが、リルも当のオジサンもそれについて触れないので、ウェアスでは違和感のないことなのだと無理やり納得させたのはさっきの話。


「ええ、みんなとっても可愛いです!! ぜひここで働かせてください!!」


「えっ」


 即決!? とハルトはリルの言葉に驚いた。求人を見つけた時には「現場を見るだけですよ。見るだけ」と言っていたのに。

 果たして自分たちに豚の世話なんかできるんだろうか。ハルトには家畜を飼った経験はない。


「私は故郷で馬の世話をしていましたから」


 リルは、だから大丈夫、といった具合にやる気を見せる。


「愛情もってお世話させてもらいます!!」


 愛することの天才リリアーヌはそう高らかに宣言した。


 しかし、

 その言葉にオジサンは少し渋い顔をした。


「いや、あんたらに頼みたいのは豚の世話じゃないんだ」


「え?」


「ちょっとこっち来てくれ」


 二人は前を行くオジサンを追う。豚たちをかき分けて。豚の脇を通ると豚たちは「何かおくれよう」と言う具合に鼻を二人にこすり付けてくる。何もあげるものなどないが。

 豚小屋の奥から外に出る。餌の袋が積まれているところを脇目に進むとレンガ積みの小屋が見える。


「あんたたちの職場はここだ」


 年季の入った木の扉。

 リルが扉を開くと、そこには、




 豚。

 豚。

 豚。




 全員、首なし。

 そして、宙吊り。


 辺り一面、血まみれ。

 鉄の臭いが鼻を刺す。


「――――!!??」


 リルの顔が一瞬で真っ白になる。


「頼みたい仕事は豚肉の加工。屠殺も含めた」


「――――」


「お、おい、リル、大丈夫か!?」


 リルはゆっくりゆっくりと首を動かしてハルトの方に顔を向ける。そして体のどこかからか、キキキ、と奇妙な音を立て、バタンと、前のめりに倒れた。


「むきゅぅ――」


 リルは完全に気を失った。




「肉屋の求人何だから想像がつきそうなもんだがな」


「……すみません」


 ハルトは謝ってリルを背負い次の職を探した。


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