市場の料亭
波に浮かぶ橋渡し
今日の海にも波が立っている。
潮風が港町に吹き渡り、市場では多くの人が買い物をしていた。
日曜日の朝となれば、皆が外に出かけている。
町は緩やかな坂があるところに広がっており、年間を通して温暖な気候だった。
とても陽気で幸せのあふれる町だ。
その町の市場に隣接するように一つの料亭があった。
名前は『ダクタリア亭』。
市場が一段楽する頃が一番大変な時間となり、調理場は多くの食材と、調理器具、お皿が並んで、または使われていた。
調理場は夏でもないのに、むしむしとした空間となっており、換気が追いついていない状態だ。
「お父さん!
刺身の盛り合わせ・贅沢を二つ入ったよ!」
調理場の入口から少女が顔を覗かせる。
朱色の髪色は輝いており、額には汗が出ていた。
そんな少女の注文を聞いて、料理長が苦笑いした。
「今日はお客さんが多いなぁ。
そろそろ追いつかなくなりそうだ。
いろいろな意味で・・・」
「父さん。
空調の修理、そろそろやる?」
同じ調理場にいる少女の弟は、注文が入ったように今日獲れた魚を刺身用に捌いていきながら、料理長を気にする。
料理長は「そうだなぁ」と唸る。
部屋の気温計は三十六度をさしていた。
その場の皆が苦笑いだ。
そのようなことをしていると、新たに少女の母親が少女の後ろから入ってくる。
「あなた。
白身魚のフライ定食・ご飯大盛り入ったわよ」
「あぁ、了解。
直ぐに出すから」
そのような合図で、料理長は元の仕事に戻る。
「何かあったの、マイ?」
少女であるマイに母親は尋ねる。
それに、マイは先程の話し合いを母に教える。
「そうね。
そろそろ修理しないと、二人が倒れちゃうかもしれないしね」
「でも、そうすると二日間、お店を閉じないといけないね。
お父さんのことだから、他の場所もとか言って、いろいろ始めちゃいそうだし」
「絶対、そうなるわね」
マイと母親は楽しそうに笑った。
それを聞いていた料理長は苦笑いしながら、二人に言った。
「今度はしないようにするから、注文とかを頼む」
「「りょうかい」」
仕事の合間だが、家族団欒な時間だ。
それから二時間ぐらいして、やっと落ち着いた時間となった。
家族みんながお疲れ様状態だった。
しかし、母親は皆にお茶を入れて「お疲れ様」と言う。
その入れられたお茶を皆で飲む。
「そういえば、マイ。
今日の朝のお客さんの数、どうだった?」
父親は娘に疲れた声で尋ねる。
「今日のお客さんの数、先週の同じ曜日より増えているね。
やっぱり、この前の国の友好間協定が関係しているのかもね。
市場の仕入れのお兄さんたちもそうだって言っていたし・・・」
この前と言っても半年ぐらい前のことである。
西方の国との戦争が終わってから三十年。
いよいよと言っていいほどの期間を経て友好関係が結ばれ、多くの分野で貿易が可能となったのだ。
そのうちに水産物も含まれた。
港には以前より多くの船が来航しており、多くの異国民も出入りしていた。
この料亭にも何人かがお客として来ていたが、言葉がどうにか通じるくらいで、長く話すには至らなかった。
しかし、重要なことはそこではなく、来客数の方だ。
「この調子だと、仕入れを増やさないといけないなぁ。
でも、置く場所が・・・」
「冷蔵庫、もういっぱいだよ。
新しく買うにも高いし、それを置く場所も無いし。
・・・背水の陣かな」
「いやいや、ナバー。
まだそこまで入ってないよ?
新しいメニューとかで埋め合わせとかでできないかな」
マヤの発案に調理場の二人は揃って首を横に振った。
「新しいといっても、それだけで期間が掛かるし、近いうちには無理だね・・・」
「そうだねぇ」
家族みんなでため息をする。