ミイラ男君
人は見かけじゃ分らない。僕の経験からもそうハッキリ言えるのだ!
ミイラ男君は確かに不気味だ。匂いも結構キツイ。
昨年の九月に、我クラスに編入してきた、いわゆる帰国子女なのだ。
「え~、ご両親のお仕事の都合でエジプトから来たミイラ男君だ。
みんな仲良くするように」
その日、先生はそう言っただけで、ミイラ男君は僕たちのクラス
メイトになった。他の説明は一切無し。
「えええ? ミイラ男? なにそれ? 名前なの? てか、人間じ
ゃないじゃん!」
僕はそう思ったが、ここは勉強第一の進学校。周りのみんなは勉
強にしか興味が無いのか、彼を一瞥しただけで、また教科書参考書
にかじりついてる。ああ、心に余裕が無いのも人間としてどうかと
思うんだけど。
休み時間になってもミイラ男君に話しかけようとする奴は誰もい
なかった。だから僕が勇気を出して話しかけたんだった。
それから僕はミイラ男君と友達になった。彼は恥ずかしがり屋な
ので自分からは滅多に話はしないが、心の中に彼の考えが伝わるん
だ。いわゆる以心伝心、テレパシーって奴なのかなって僕は思う。
彼はいい奴だ。人とはちょっと、いいや、大分違うけれど、心のキ
レイな素敵な奴なんだ。
そんな彼が悩み事があるとメールしてきたのは昨夜の事だった。
『オレ、ナヤミある。キイテくれるか』
『うん、もちろんだよ。で? 悩みって何?』
『オオ、チョット イイにくいな。けど…オモイキッテ…』
『うん。何でも言ってよ』
そうして受けた相談には、彼の切実な悩みがあった。それはスバ
リ、彼の包帯についてだ。彼の包帯は見るからにボロボロだ。他の
人たちには民族衣装で通しているけど、できるなら同じようなスタ
イルで、もっとつけ心地のいいものは無いか? それに匂いも出来
たらシャットアウトしたい。欲を言えば、近未来的でファッショナ
ブルなスタイルができたら最高なんだけど。
そんな彼の真剣な思いがメールを通しても伝わってきて、僕も一
生懸命に考えた。彼の悩みを一掃するようなそんなアイディアを。
と、ひらめいた! 今と同じ様なスタイルで、つけ心地も良く、
匂いもシャットアウト出来て、近未来的でファッショナブルな奴
を!
僕はその解決法を早速メールした。
『オオ、アリガト。ヤッテみる。ソレジャ、またアシタ』
『うん。新しいミイラ男君を期待してるよ。じゃ、また明日ね』
次の日、僕はニュースタイルのミイラ男君を楽しみに、彼の登校
を待っていた。けれど、いつまで経っても彼は現われなかった。
どうしたんだろう? 何かあったのかな?
しかし、昨日の僕のひらめきには自信がある。あの、ボロボロの
包帯の替りに【透明な包帯】いわゆる「フィルムドレッシング」を
教えてあげる事が出来たんだから。もし入手不可能なら試しにラッ
プでもいいんじゃない? そうアドバイスも付け加えておいたし。
早く来ないかな、ミイラ男君…
その頃、彼は色んな罪状を一杯付けられ、警察に逮捕されていた。
悪気はなかったんだよ。本当だ。ミイラ男君、ゴメンよ…
ちなみにフィルムドレッシングってのはさ、ドレッシングする為のポリウレタンで作られた、薄い透明なフィルム状のドレッシング材のことだよ。ドレッシングってのは傷を保護するために巻いたり覆ったりすることさ。包帯もドレッシング材だね。