幻映
目の先に大きな山がそびえ立つ。辺り一面が山に囲まれている。
「ねぇ、どこ行くの?」
助手席に座る母親に長女は聞いた。
「山にね……死に行くんだよ。」
さすがに何を言っているのか理解出来るはずもなく、長女は戸惑う。
(なんで? 死ぬって、どゆこと?)
今、車に乗っているのは家族全員の、6人。
一人思考が追いつかない長女。
あっという間に山の麓にたどり着く。
もう後には戻れない。
*
山の中程まで歩いたところで母親が長女に声をかけた。
「ねぇ見てごらん、千夏にそっくりだよ。」
笑顔で指差した先に居たのは大きな、たてがみを揺らすライオン。
(は?)
なぜ山にライオンが居るのか、何が自分とそっくりだと言っているのか、長女はもう母親の頭が狂ってしまっているとしか思えなかった。
するとライオンが顔を向け、長女と目があう。
(うそっ!)
慌てて来た道とは反対の山の急斜面を駆け下りる。
ライオンが近づいてくる気配を背中で感じながら、風を切るように必死に前に進む。
しかし木々が行く道を邪魔する。
ようやく両手を回せる程の木を見つけ、木のてっぺんまで力いっぱい登ると、足元に母親が見えた。
「なんでここにいるの!」
母親は泣き笑いを見せながら同じく木に登ってくる。
すると木が2人分の体重に耐えきれず、細い木は大きく弓なりにしなり始めた。
(まずい、ライオンは近くにいるのに!!)
突然勢い良く体が空中へ跳ね上がった。長女は母親の体を抱え、飛んでいる方向に木があることを幸いに太い枝を掴んだ。
しかしライオンは未だに獲物を見逃そうとはしない。しっかりとターゲットとしてとらえられた2人。長女の片手の力はそろそろ限界に達しようとしていた。
「ごめん、お母さん……もう無理」
そして力尽きて枝から手を離した。
だが涙を流す長女とは反対に、母親の顔は恍惚とした笑みだった……。
もう目の前は真っ赤な世界。
とんでもないぶっとんだ話でしたが、これは実際に作者が見た夢でした。
その日、朝から家族のことが気になってしょうがなくなりました…
何かの暗示だったらどうしようとorz
こんな話も小説にして消化してしまえ!という気持ちで書きました。