#3
シーブル騎士団の根城となっている営舎に、ローズウィップと楓は明を連行した。
殺風景な部屋はふだん罪人や容疑者の尋問に使われている取調室だ。
「あれ、副官。 こんな時間に何を?」
楓は人が近づかないよう、廊下の前を見張っていたのだが、早めに晩餐切り上げた隊士が戻ってきたようだ。
なめした動物の皮が壁を打ちつけるような乾いた音が響いた。
「え? こんな時間に誰かいるんですか?」
「え? え、ちょっとね、重罪人を取り調べてるの」
「そうですか、ではわたしも支度をしてまいります」
「あ、いいのいいの、わたしと中にローズウィップもいるから」
「あねさんですか、こりゃ罪人も気の毒ですね」
ローズウィップの責めは苛烈で知られる。隊士は見知らぬ誰かを本心から同情しているような顔で楓の言葉を聞き入れて自室に戻っていった。
人影が無くなったところで部屋の中を覗く。
「リーダー、わたし言いましたよね。公女と不適切な関係にならないようにと」
「れ、恋愛は自由だお」
ローズウィップが「だまれ」と言ったように聞こえたが、鞭の音がかき消した。
「あなたはまだ自分の立場が分かってないようですね、せっかく世間の評判も上々なのに、王女と何かあったら、隊の士気に影響するでしょ!」
樫の木で出来た椅子に縛り付けられた明。上半身は裸のまま監禁され胸板と背中に無数の傷が蚯蚓腫れになっている。
壁際にはもう一人、離宮への踏み込みには間に合わなかったが、王宮を離れるときに使いを走らせ応援に呼んだ女戦士がゴルゴ13のように壁に背中を預けて冷たいまなざしで明を見つめている。
「リーダー、わたしたちがどんな気持ちでいるかわからないんですか、ぶちますよ?」
彼女の名前はスピアーナ、槍使いである。ローズウィップの親友でもある。
(もう、ぼこぼこだけどね)
少し明に同情する。見た目がひどい有様だが、この男は存外にタフガイであるので心配は要らない。この程度の傷はつばでもつけておけば治ってしまうのである。これは比喩ではない。
現代日本では決して「もてる」タイプではないのだが、明はその人生の上でいろいろと女難の多い運命のようだ。
二人の部下たちに入れ替わり立ち替わり責められる上官というのもなんとも情けない限りだが、これも自分の知るある人物の執着に比べれば生易しいと言える。
その女性とは、楓の幼なじみにして、日本における異世界人スパーク・アルティミトの身元保証人である表向きは明の妹、秋年宵子その人であった。